フコイダン インプラント 必殺暗部忍2

茶の間

 

必殺暗部忍2(前篇)

 

 

中秋の名月が江戸の町の夜空に浮かぶ。

 

 師に言われるがまま、何ら憐みの心も持たず幼い子達を次々と毒殺

した、薬師カブトの首に弦を巻きつける。ううっと声にならぬうめき

声をあげるカブトの身体が浮き上がり、弦をビンと指で弾けば、だら

しなく首を項垂れたただの屍となり果てる。

 

 表稼業は三味線屋をしているゲンマは、屍から弦を巻き取り満月の

明かりの中、異様な黒い影を纏う屋敷をちらと見やる。

今頃中では南町奉行所同心畑カカシが、薬師カブトに子達の毒殺を

命じた医師、大蛇丸を亡き者にしているはず。

 

 依頼は誰からか判らぬ密告。金と共に、大蛇丸とその一番弟子、薬

師カブトの悪行が書き連ねてある手紙が、口入屋シズネの元に届けら

れた。

親の無い子供達を集めて自分が調合した薬の人体実験を繰り返し、

具合が悪くなればカブトが毒殺するというおぞましい内容。

 密告者は屋敷を抜け出した内部者の可能性もあったが、誰であるか

という事は裏の仕事をするうえで重要な事ではない。

標的が死に値する悪人であり、その者に恨みを持つ依頼者から金を

もらえば、仕事は遂行される。

 

 

 普段、仕事終りにゲンマは先に自宅へ戻り、カカシが来るのを待つ。

カカシとは裏稼業だけの付き合いではない。互いの情を分かちあう。

今日ゲンマは先に自宅へ向かわず、カカシが仕事を終えるのを待つ

つもりであった。

何故か前回の仕事の時、カカシが来なかった。奉行所同心、畑カカ

シと商人である三味線屋の自分が普段接点を持つことは避けている。

裏稼業に身を置く者として、用心は重ねるに越したことはない。

だからこそ、僅かばかりの逢瀬の機会ある今日、またカカシが来な

いのではないかという、そんな憂慮から待つことにしたのだ。

 仕事前は、互いに人を殺める作業に極限まで精神を集中させている。

余計な会話など成立しない。その為、ゲンマは何故この前カカシが

来なかったのか、まだ理由も聞けていない。

 

大概女にはもてる。三味線を教えている商家の娘達とその親から

婿として迎えたいと言われたのも、一度や二度ではない。中には

かなりの大店の娘もいた。正直、左うちわも望めそうであったが

そんな魅力もカカシという男には叶わない。我ながらおかしな程

かなり入れ込んでいる。

 

 

 掛け布団の上から、畑カカシは身寄りのない子供達を実験に利用し

た医師、大蛇丸の心臓に銀の刀を突き刺す。

 大蛇丸が瞬間目を見開く。しかし刀は確実に心臓を突いており、カ

カシが引き抜けば、断末魔の叫びをあげる間もなく、その身体は呼吸

を忘れたただの肉塊となる。見る間に布団に血が広がり染みていく。

そばにあった手拭いで刀を拭き、カカシはさっと踵を返す。

 

 

 カカシが屋敷を出たその時、そばの塀の上からとんと人影が地に降

りる。

「・・・・・」

 満月の明かりの中、木彫り職人テンゾウの笑顔が見てとれた。カカ

シはしばし無言で、自分に近寄るテンゾウを見つめる。

 

「何故お前がいる?」

 今日の標的は大蛇丸と薬師カブトの二人。口入屋シズネからは

自分とゲンマの二人しか呼ばれていない。

 

「相変わらず巧いですよね。返り血を浴びずに一撃必殺」

「何故お前がここにいるか聞いてるんだよ」

 仕事の場面の場面なんて、見るものでも見られるものでもない。

しかも二度目だ。カカシは不愉快な気持ちを隠さず、怒気を含めた声

で問う。

「今から行くんですか?三味線屋の所」

 テンゾウはカカシの質問に直接答えず、逆に聞いてくる。

「俺が聞いてるんだ。第一、どこに行こうとお前に関係ない。」

 

 テンゾウはカカシの正面に立ち、その瞳を真っ直ぐ見つめる。

「関係なくはない。僕の気持ちはこの前伝えた。あなたが三味線屋の

ところに行くと判ってて、それを黙って見送る事は出来ない」

 そこでテンゾウは言葉を切り、少し微笑んで付け加えた。

「だから来たんですよ。ゲンマの所へ行くのを阻止するために」

 そう言ってテンゾウは、カカシの腕を掴んだ。

 

                            続く