カウンター the boy meets the boy

感謝の庭荘

 

The boy meets the boy 

 

11

カカシが上忍寮に着くと、自分の部屋の前に立っている男が見えた。

カカシはゆっくりと歩を進める。ドアの前にたどり着いた時、その男、

テンゾウがカカシを無言で抱きしめた。

 

カカシは任務とは違う緊張で疲れきっており、テンゾウに抱きしめ

られると同時に、緩やかに緊張がほぐれていくのを感じる。森林に差

し込む木洩れ日に包まれているような、そんな優しい暖かさを感じる

テンゾウ。四歳も年下の、まだ二十歳の青年にどうして惹かれるのか、

理由なんか判らない。

しかし自分が求めていたのはテンゾウだと、この腕をこの胸を求め

ていたのだと、あらためて自覚する。

 

しばらくカカシを抱きしめていたテンゾウが口を開く。

「先輩・・・。大丈夫ですか?」

「ちょっとね・・・。疲れた」

「怪我はしてない・・・?」

「大丈夫だよ」

「あの・・・、わかってもらえたんですか・・・?」

「ああ。ちゃんと別れた。お前が好きだって、正直に伝えたよ」

 

 カカシが顔を上げて返事をするとすぐに唇を奪われた。

「ん・・・。ちょっ・・・」

上忍寮の廊下であり、カカシはテンゾウの動きを押しとどめ、鍵を

開けて中に入る。

 

部屋に入ると同時に、互いに貪るように口付けを交わす。服を脱ぐ

一瞬ももどかしく、唇を重ねる。口付けながらベッドに向かい、絡み

合うようにベッドに倒れこむ。生まれたままの姿になり、さらに激し

くテンゾウはカカシの唇を求める。

 

耳から首筋へ甘噛みし、吸い上げ、カカシの上気してほんのりと桃

色になった皮膚に、自分を刻み込む。胸の突起に口付け、指で摘ま

み、さらに舌で愛撫を加える。どうしようもなく沸き起こる熱を密か

にカカシの身体を思い浮かべて散らしていた。その焦がれた人が目の

前に、自分を好きだといってその身を曝してくれている。

自身の身体だけでは収まりきらないようなうねるほどの激しい想

いに突き動かされ、カカシを求め、身体を繋げあう。

 

「ああ・・・う・・・あ・・・」

余裕のない性急な動きにカカシは翻弄される。最奥に打たれる杭に、

自然と溢れる涙を堪えながら、カカシは大きすぎるほどのテンゾウの

自分への想いを受け止める。

 

二人して高みへと上り詰め互いに精を解き放つ。激しい息を整え、

テンゾウはそれでもまだ足りぬというようにカカシに何度目か分か

らぬ口付けを落とした。

そこでようやく、カカシの目から零れる涙に気づき、テンゾウは慌

てた。

「す、すいません!痛かったですか?」

ストレートな物言いに、カカシは笑う。

「ぶ・・・はは大丈夫だけど・・・」

「すいません。すいません。実は同性は初めてで・・・」

「もういいって・・・」

 

ああ、それでとカカシは納得する。ぎこちない動きは、少しばかり

痛みも感じたが、テンゾウから与えられる想いと、テンゾウを想う気

持ちが辛さも打ち消す。

 

 

互いにシャワーを浴びて、テンゾウが入れてくれたお茶を二人は飲

んでいた。

「どうも、じーさん臭いねお前は。情事の後にお茶なんて」

「和の心を愛する二十歳です」

「ハイハイ。それ前聞いたよ」

二人は少し笑う。

 

ふと、テンゾウが真面目な顔になって聞いた。

「先輩は、僕でいいんですかほんとに?」

「お前はどうなの?年上の男なんて、いいの?いくらでも相手はいる

だろう、お前なら」

「正直に言うと、どうして先輩なのか、自分でも判らない」

「そう・・・」

「でも、なんていうかな、うまく言葉では表現できないんですけど、

先輩と付き合うことが出来ずこれから先に誰か別の人を好きなる事

があってもきっと先輩ほどには好きになれない、そんな気がして。

恋人がいるのを知っても、諦められなかった」

「うん・・・」

カカシは微笑んでお茶を飲んだ。

 

そう、人を好きになる気持ちの不思議さ。互いに想いあい、求め合

うその魂に出会えたのは偶然の必然。

 

年上のゲンマが与えてくれた、落ち着いて洗練された時間。好きだ

った。最後まで優しく接してくれたゲンマを想うと、カカシは泣きそ

うな気分になる。けれど、木のぬくもりを持つテンゾウに出会った。

魂は、テンゾウを求めてる。ねえ、俺は俺の気持ちに正直になって

いいかな、ねえ、オビト、リン・・・。

 

 

テンゾウはカカシを見つめる。ずっとカカシだけを見ていた。敵に

立ち向かうそのしなやかな強さに憧れ、面を外した時のその輝く銀の

髪と白い肌の端整な顔立ちに我知らず心奪われ、そしてその背中を追

ってきた。

彼に釣り合い、守れる強さを身につけようと必死だった。カカシは

すぐに以前の恋人を忘れは出来ないだろう。時々彼が空の彼方を追う

遠い瞳には、自分の知らぬカカシがかつて心を寄せた人が写っている。

彼が本来持ち得ぬ写輪眼にまつわる噂は聞いている。

 

カカシが誰か別の人に心寄せることがあっても自分はカカシだけ

を見つめていくだろう。テンゾウはカカシの肩に手を置き、カカシを

見つめる。

その瞳に自分が映りこむように、まっすぐカカシを見つめる。

ずっと一生、彼だけを見つめていく。

 

この命ある限り、彼だけを。

 

                           終わり