Winter color

四季の庭荘

 

 

Winter color

 

 

32

正月休み中二人でゆったり過ごし、年始初出勤の

日。編集室内で綱手の怒声が響いた。

 

「はあ!?退職だと?それも今日ってどういう了見

!!?非常識にも程がある!」

 

「すいません」

 

サスケが綱手編集長の前で頭を下げていた。ナル

トとサクラが驚きながら心配そうに見ている。

 

カカシは自分の机でパソコンを見つめ、休み中の

メールなど確認していた。もちろん編集長たちの声

は聞こえているし、正直メールの内容など字ずらを

追っているだけで頭に入ってこない。

 

テンゾウはサスケの姿を出勤時に確認してからず

っと敵意を隠さず睨み付けている。カカシは押さえ

るように目線を送るが、テンゾウはサスケから目を

外すことをしなかった。

 

「カカシ主任、止めて下さい。サスケ君が辞めるな

んて…」

 

サクラの泣きそうな表情にカカシは切なくなる。

サスケがこの愛らしい女性を好きになれればいいの

に、と思うが少なくとも今はそれは無理だろう。

 

好きな人と両思いになることが出来るのは、ほん

とうに幸福な事なのだ。

 

「サクラ、ごめんね。俺は年末に聞いてたんだ、ほ

ら自来也先生の忘年会で一緒だったから。親の仕事

手伝うって言ってたから、引き留めるのは無理だよ」

 

サクラに言った事は嘘ではない。ただその話しを

聞いたのはだまし討ちの様に連れて行かれたサスケ

の家だったけれど。

 

様々なやり取りを続けた後、綱手は最後に大声で

叫んだ。

 

「勝手にしろ!!総務に行ってくる!」

 

社員の退職となれば、連絡しなければならない部

署もある。綱手は椅子蹴る勢いで席を立ち、どすど

すと床板を踏みながら部屋を出た。

 

綱手との話し合いは一応終わりとなり、サスケが

皆の方を向いた。

 

「世話になりました」

 

一礼するサスケを皆で見つめる。テンゾウは睨み

続けている。

 

下げた頭を挙げた時、サスケはカカシを見たので

二人の視線がぶつかる。その瞬間、テンゾウはばっ

と席を立ちカカシの横に立った。

 

「謝らない、ただ努力はする、あんたをあき…」

 

サスケの言葉が言い終わらないうちに、テンゾウ

が吠える様に言った。

 

「謝らないのかお前…」

 

いきりかけたテンゾウをカカシが止めた。

 

「テンゾウ、いいから」

 

ナルトとサクラが怪訝そうにこちらを見ていた。

 

「急な退職はほんと困るけど、もう綱手編集長に

散々謝ったから俺にはいい」

 

カカシは謝罪の意味を退職に置き換えてその場を

凌ぐ。

 

 サスケも、もうそれ以上何も言わず、自分の机の

整理を始めた。ナルトの机と違って元々整理整頓が

行き届いているサスケは、手早く持ってきた鞄に私

物を詰めた。

 

 ドアに向かい歩き始めたサスケをナルトとサクラ

が追う。

 

「サスケ君」

 

「おい、サスケ待てよ」

 

 サスケは振り返りはしたが歩みは止めず、二人が

話しかけながら三人で出ていく。

 

 

 編集室内がふいに二人だけとなる。自分の横に立

つテンゾウにカカシが話しかけた。

 

「もう、言っちゃおうか?」

 

「何をですか?」

 

「俺達の事、ここの人達に付き合ってるって」

 

「え?良いんですか?僕は全然構わないけど、むし

ろ嬉しいですけど、カカシさん前に、気を使わせる

のは嫌だって…」

 

「うん…問題はそこだよな。聞いた方はやっぱ気を

使うよな…」

 

 テンゾウはカカシの手に自分の手を添えた。

 

「カカシさん、そんなにペースを変えなくていいで

すよ」

 

「え?」

 

「急に、素直になったり…いや色んな意味で…」

 

 テンゾウが何か思い出したように一度口ごもる。

 

「嬉しい方が多いですけど…もっと自然体でいきま

しょう」

 

「テンゾウ…」

 

「職場には、まだいいと思います。気を使わせるの

は、やっぱりよくない」

 

「そうだな」

 

 カカシは素直に頷く。

 

「じゃ、中出し完全解禁もやっぱやめとく」

 

 更に小声でカカシが付け加えた。

 

「え?そ、それはっ…もういいじゃないですか、解

禁のままで」

 

 テンゾウが慌ててカカシに顔を近づけて囁く。

 

「やっぱり駄目。俺にとっては自然じゃない」

 

「そんな…」

 

 心底残念そうな顔のテンゾウにカカシは笑いを堪

えきれずに吹き出す。

 

「あはは…。お前やっぱり和むよねえ」

 

「和むって…?」

 

「職場でエロ単語言う自分が信じられない。無理し

てるんじゃなくさ、お前といると自然に変化してる

んだと思う」

 

「エロい人に?」

 

「ばか」

 

 カカシは苦笑してテンゾウにでこピンする。

 

「いって」

 

「そうじゃなくて、お前ってなんか暖かくなって植

物が育ち始めたり、動物が冬眠から覚めるみたいな、

そんな春っぽい感じがする。俺はどっちかというと

あんまり喜怒哀楽激しい方じゃないけど、お前がさ、

明るくしてくれる」

 

 でこを押さえながらテンゾウがカカシを見つめる。

 

「昔…大学の友達に、同じことを言われたことがあ

ります。季節で言うと春の人って」

 

「ふーん俺はじゃあやっぱり冬かな」

 

「そうですね、印象としては」

 

「あいつも…」

 

 カカシはサスケが出て行ったドアの方を向きなが

ら言葉を続けた。

 

「サスケも冬の人だよな。きっと俺とはタイプが一

緒で、同僚とかそういう関係なら気が合っていいん

だけど、恋人としては駄目なんだ。あいつにはお前

みたいな春タイプの人が良いと思う」

 

「サスケの事をカカシさんが気にするのすら、今の

僕には苛立たしいんですけど…でも」

 

「でも?」

 

「カカシさんの言うことはもっともだと思います。

例えばサクラなんか春タイプですよ、名の通り」

 

「サクラは…サスケの事気になってるんじゃないか

な。多分好きなんだと思う」

 

「サクラには幸せになって欲しいと思います。個人

的にはサスケ以外の人と。でも、確かに合うかもし

れないですね。もしも二人が付き合うようなことが

あれば…その時は…サクラの為には幸せを祈ります」

 

「うん、そうだな…」

 

カカシが微笑する。

 

編集室にはまだ誰も帰って来ない。

 

「ちょっと…屋上行こうか」

 

「はい」

 

真冬の屋上への誘いにテンゾウはあっさりと返事

する。

 

 屋上扉を閉めると、凍てつく寒風の中直ぐに二人は

抱きあい口づけあう。

 

「止まらなくなる…」

 

何度も互いの唇を重ね合わせ、テンゾウが囁く。

 

「今夜も来てくれませんか?」

 

「ん…」

 

唇が離れた時を縫って言葉を紡ぐ。

 

「いいけど…」

 

「けど?…」

 

「中は駄目」

 

「あ、やっぱり…」

 

心底残念そうなテンゾウの顔。やっぱり笑ってし

まう。ほんとうはいいんだけど、面白いからもうち

ょっとお預けにしておこう。

 

 

 

雪がちらつく。

 

季節は巡る。

 

それでも、やがて凍てつく冬は春に変わっていく。

それは妥協ではなく、成長という名の変化。

 

サスケも、サクラも、ナルトも、自分達も。

 

編集室に戻る屋上扉までのほんの数歩、二人は手

を繋ぎ歩む。

 

季節が巡るように、共に自然に歩んでいく。これ

から、ずっと一緒に…。

 

 

 

 

              終わり