新月の庭荘

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その十二

 

数日後カカシに、風邪をひいた火影の変わりに

中忍試験開催の挨拶に火影の名代として、近隣諸国へ

向かうよう任務要請が来た。

 

「ナルトとサクラも行くんだって?」

「うん、護衛と医療忍として。正規部隊のあいつ等だけじゃなく、

暗部も来るけど、お前は今回入ってないんだな。」

「うん、シフトが違う。別の任務が入ってる。」

「そうか、サスケがいると安心だけどな。」

「嘘つくなよ。任務中まで、俺と一緒だったら嫌だろう?」

「そんなことない。サスケは勘違いしてるよ。

俺はお前の事、嫌いじゃない。ううん、好きだよ。」

それは、嘘ではなかった。サスケがカカシを想う気持ちとは

違うけれど、カカシはサスケが好きだった。

 

サスケはカカシを抱きしめた。

「ありがとう・・・。」

そうして、サスケはカカシに濃厚な口付けをした。

カカシが息苦しさを覚える頃、ようやく唇が開放される。

 

カカシが出発の時、玄関で見送っていたサスケが言った。

「ナルトとサクラによろしく。」

カカシはちょっとびっくりした。

「珍しいな。お前がそんなこと言うなんて。」

「そうかな。ほら遅れるぞ。」

「うん、いって来るよ。」

 

サスケはカカシの姿が見えなくなるまで、その後姿を見ていた。

カカシが角を曲がり、姿が見えなくなると、ふーと深呼吸をした。

 

 

 

カカシが火影の名代としての任務を滞りなく終え、

うちはの家に戻ってきたのは、出発の日から十日後だった。

サスケの姿はなかった。カカシは別に気に止めない。

暗部のサスケが任務で家を空けるなんて事は、日常の事だ。

 

カカシが汗を流し終え、荷物の整理などしていると、

玄関チャイムが鳴った。

 サスケなら、鍵を持ってるからそのまま入ってくる。

ああ、ナルトかもしれない、食い物でもたかりに来たのかも、

そう思いながら、カカシは扉を開けた。

 

 

信じられない人が立っていた。

「テンゾウ・・・。」

カカシは息を呑む。

すぐに、テンゾウが思い切り抱きしめてきた。

カカシは、頭が真っ白になる。

しばらく抱きしめられたままになっていたが、

気づいて、慌ててテンゾウを押しのけた。

「テンゾウ、ここに来ちゃいけない。」

「どうしてですか?」

「だって、こんなところ見られたら・・・。」

「見られたら、どうなるんですか?」

「それは・・・。」

「僕が、サスケに殺されますか?」

 

カカシはハッと顔を上げる。

「どうして、それを・・・。」

言いかけて、慌てて自分の手で口を塞ぐ。

 

そのカカシの様子を見て、テンゾウは切なくなり、

もう一度、カカシを抱きしめた。抱きしめたカカシの身体が震えている。

「座って話しましょうか・・・。」

テンゾウは、カカシを抱えるように、中へ入った。

 

 かつて、カカシから別れを告げられた、うちは邸の応接間。

ソファにカカシを座らせて、テンゾウも横に座る。

 

「先輩。何もかも聞きました。サスケから。」

「サスケから?何もかもって・・・。」

「全部ですよ。月読の術をかけ、僕を殺す幻術で

あなたを脅迫し、無理矢理あなたを自分のものにした事も、

僕の名を口にするなと、鞭で叩いた事も、

あなたが、シャワールームで声を押し殺して泣いていた事も、

僕を忘れられないと、脅迫者であるサスケに謝った事も、もう全部。」

 

「それを、サスケが・・・?」

「ええ、もう、話を聞いていて、

何度サスケをその場で殺そうと思ったことか。」

「テンゾウ・・・。」

 

「でも、我慢しました。サスケを殺す事は、あなただって

いくらでも出来たはず。僕に打ち明ければ、僕がサスケを

殺しに来る。あなたは自分を悪者にして

そうして僕の命だけでなく、サスケの命も守っていた。

だから、殺すのは我慢しました。四、五発、殴りはしましたけど。」

 

カカシは、テンゾウが全てを知った事は理解できた。

でも、わからない事がある。

「サスケは、どうしてそれを・・・。」

「あなたが里を出発した後、サスケが僕の所へ来たんです。

何故、先輩に似ている人を恋人にしたのか

聞かれました。まだ、先輩の事が好きなのかと・・・。」

 

カカシは黙って聞く。

「どうか幸せで暮らしてほしいと願う程に、想っていると答えました。

相手が自分でなかったのは、残念だけど、

サスケには先輩を大切にしてくれと言ったんです。

すると、サスケが自分から話し始めました。

話した後、まだ先輩を好きなら、想っているなら

先輩の所へ行って、幸せにしてほしいと。

サスケは、先輩と僕が同じだと言ってました。」

 

「同じって何が・・・?」

「相手の幸せを願うことです。自分は先輩を好きなのに、

この三年間、悲しませるばかりだった、それが

どんなに愚かしい事か、気づいたと。」

 

カカシはハッとした。

「サスケは・・・どこ?任務?まさか・・・?」

「里を出たのは5日前です。抜け忍じゃありません。

火影にちゃんと挨拶して行きました。

前回は、自分が強くなる為だけに里を出た、

でも今回は、大切な人を守れる強さを身につけたいと、

そう言って長期修行を願い出たそうです。

風邪をひいているのに、厄介な事を言ってくると

火影がぼやいてました。」

 

カカシは呆然とした。

「サスケが・・・里を出た・・・。そんな・・・。」

カカシは思わず立ち上がる。

 

 テンゾウがカカシの腕を掴み、座らせる。

「先輩・・・、五日前ですよ。サスケはあなたの幸せを願った時点で、

もうほとんど立ち直っているんです。彼は若く、才能もある。

先輩と暮らしていて、本当の強さとは何か気づいたんですよ。

あなたが、気づかせたんです。」

 

「俺が・・・?」

「そうですよ。彼はあなたが千鳥まで教えた

手塩にかけた教え子でしょう。きっと大丈夫。」

「そうだね・・・。うん・・・。」

 

テンゾウの言うように、カカシはサスケを

そしてその才能を慈しんだ。嫌いになんかなれなかった。

三年も共に暮らした、愛しい教え子。

そうだ、サスケはきっと大丈夫。

今度こそ、彼本来の優しさと強さを持ち、帰ってくる。

 

 

 テンゾウは、応接室をくるっと見渡す。

「ここで、あなた別れを言われ、僕は一人打ちのめされていた。

本当に辛かったのはあなたなのに。

僕こそ、のこのこ先輩の前に現れる資格があるのだろうかと

悩みました。でも、貴方が好きな気持ちは変わらない。

改めてもう一度、僕と付き合って下さい。」

 

テンゾウは、カカシを抱き寄せた。

そうして口付けをしようと、顔を近づける。

カカシは、身体をよじってテンゾウから離れた。

「俺は・・・ずっとサスケに・・・、三年も・・・ずっと・・・。」

「僕だって、清廉潔白に生きてきたわけじゃないですよ。」

「でも・・・。お前には恋人がいるんだろ・・・。若い女の子・・・。」

 

テンゾウが、微笑んだ。

「話しの出所はサクラでしょう。サスケにもいいましたが、

彼女は恋人なんかじゃない。あなたに似ているな・・・と

思って、目が合ったりするうちに親しくなりました。

しばらくして、彼女に告白されましたが、

僕には忘れられない人がいる事を正直に伝えて断りました。

今でも、会えば仲良く話しはします。

あなたと似ている彼女と話すのが楽しかったのは事実で、

それでサクラが勘違いしたんでしょう。」

 

もう一度、テンゾウはカカシを抱き寄せた。

そうして、カカシの頬を両手で挟み、口付ける。

三年の思いのたけを込めた、熱い長いキスだった。

 

「テンゾウ・・・。本当にいいの?俺でいいの?

もう、若くないよ俺・・・。あれから、三年経ってる・・・。」

「何言ってるんですか、今更。

それにあなたは、詐欺みたいにかわってないですよ。」

そう言ってテンゾウは微笑みながら、カカシの手を取った。

 

 

 

そのまま、テンゾウの家にカカシは連れて行かれる。

抱きしめられ、優しい口付けをされながら、

生まれた姿にされていく。

もう二度と、愛撫される事はないと思っていた

テンゾウの手が優しくカカシの身体を這う。

唇で吸われる。胸の突起をつままれ、噛まれ、

その甘い痛みが、これは夢ではないと教えてくれる。

 

テンゾウに貫かれ、また、愛撫され、何度も口付けされ、

カカシは陽だまりにいるかのような、優しい光と暖かさに

包まれている気がした。

 

 

 

 

サスケは、森の中を歩いている。

心の中は少し前まで、闇が広がっていた。その闇に

一筋の光が差し込む。 

本当の強さというその光を与えてくれたのは、

狂うほどに愛した人。

 今はただ、一歩、一歩、前を見て進んでいく。

あの光へ、近づくために。