過ぎゆく時に佇む
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「大丈夫ですか?」
カカシが蹲るその隣に膝をついて、ヤマトがカカシ
を覗き込む。
「すいません…。自制がきかなくて乱暴にしてしまっ
て…」
カカシはヤマトを見つめる。
「お前の方がよっぽど大丈夫じゃなさそうだ…」
ヤマトの表情は苦痛に打ちのめされたように眉間に
皺をよせ、深く疲労の色を浮かべている。
ヤマトはカカシの言葉には応えず、黙って今の行為
の後始末を始めた。最後にカカシのベストを着せて、
ナルトが寝袋に包まる方に視線を送る。
「あそこへ戻ったら、僕は忠実な後輩に戻ってナルト
の修行に全身全霊を傾け協力します」
「うん…」
「だから…先に戻って…僕はあとからい…」
ヤマトの言葉の語尾は震えて発音されなかった。
月明かりにその頬に流れる涙が光る。静かに涙を流
す男は、カカシにその表情を見せないように背中を向
いた。
ヤマトのその背中に手を伸ばそうとして、カカシの
手は空を彷徨い、やがて下ろす。
テンゾウが望むなら、この身体などいつでも差し出
すとカカシは思う。
しかしテンゾウが望んでいるのは心もすべてなのだ、
そんなことは痛いほどに分かっていた。
だから逃げた。その一途な想いに応えられないから。
それなのに、まるで足踏みをしているように、再び同
じ事を繰り返している。
想いつづけてくれているテンゾウ、完全には拒否し
きれずに身体を重ねてしまう自分。
結局カカシはヤマトにそれ以上の言葉をかけること
なく、ナルトの眠るところへ戻る。
金色の髪が月明かりにすら輝いている。若く張って
いる頬。
あの人の遺伝子を受け継ぐ青年。
自分がなすべきことはこの青年を導き、暁などとい
う危険集団を壊滅させ、平穏を取り戻す。
することは分かっているし、実際にそういう風に行
動しているのに、心がこうも乱れる。
カカシは唇を噛みしめ、消えそうな薪に追加の木を
くべた。
そうして修行を続けている時、衝撃の情報が入って
来る。
猿飛アスマの殉職。