「あ〜金魚すくいだあ。懐かしい。」
今日は木の葉の里の秋祭りだった。テンゾウはさして行きたいとも思わなかったのだが、
カカシに誘われれば、どこであろうと、断るなんて選択肢はない。
正直、しぶしぶついて来た、という感じだった。
「懐かしいですか?」
「うん、小さい頃父さんと来た。ミナト先生とも来た事あったなあ。」
そこまで言ってから、カカシはテンゾウのほうを振り返った。
「テンゾウはさあ。俺と来た事を覚えとけばいいからね。」
「え?」
カカシが、いつものふんわりした優しい笑顔を見せる。
「テンゾウの楽しい思い出には、いつも俺がいればいいから。」
そう言ってから、テンゾウの腕を引っ張って、
「ね、金魚すくいしよう。」
と歩き出す。
カカシの言葉が、テンゾウの心を包み込むようにほぐした。
テンゾウは、自分の過去について、カカシに詳しく話したことはない。
カカシから、聞いてきたこともなかった。
おそらく、三代目から、ある程度の事は聞いているのだろう。
大蛇丸の実験体だったテンゾウに、幼い頃秋祭りに行った記憶はなくても、
自分とこれから、その思い出を作っていけばいいと、カカシは言っている。
やんわりと、これからもずっと2人で一緒という、告白も込めた言葉とともに、その笑顔。
任務でしか彼を知らない人は、孤高の戦士のように言う人もいる。
しかし、ひとたび心を許せば、元来持っている愛される要素を、
自覚なく表現してしまう無防備な人。
好きにならずにはいられない。愛さずにはいられない。
「あ、破けた。あ〜でも、後一匹くらいならいけるかな。」
金魚すくいをしているカカシの見つめながら、テンゾウは思う。
そうですね、金魚すくいをして、焼きそば食べて、ビールも飲んで、秋祭りの思い出を作りましょう。
そして、秋祭り記念の夜を一緒に過ごしましょう。
「こんだけとれた。」
カカシが取れた金魚の数を笑顔でテンゾウに見せる。
テンゾウもにっこり微笑みを返した。
「ハア、ハア、ねえ、テンゾウ、もういい加減にして・・・・・、あっ・・・。やだ・・・。ああ・・・。」
この夜、カカシは朝方まで、テンゾウの秋祭り記念の思い出作りに付き合わされた。