「あれ、先輩、雨降ってきましたよ。買物に行こうって時に、うっとうしいですねえ。」
「オレは雨嫌いじゃないけどね。」
「ああ、先輩は太陽の光、苦手ですもんね。」
「まあ、ね。」
「すいませんけど、先輩傘貸して下さいね。」
テンゾウはそう言って、玄関の傘立てから1本取り出す。
「それは大丈夫だけどね、それ以外の傘ね、壊れてるんだ。」
「え、後の2本とも?」
「うん、骨折れてるのと、軸曲がってるの。」
「そうかあ、じゃ先輩、僕が一人で買い出し行きますよ。何が食べたいですか?」
「いや、俺も行く。本屋にも寄りたいし俺も行く。」
「そうですか。じゃ、一緒に。」
テンゾウは一本の傘をさす。
「先輩、もっと真ん中に寄って。濡れますよ」
そう言ってテンゾウはカカシを傘の中心に引き寄せ、ふいに気づく。
きれいに巻かれていた後二本の傘は、どこも壊れていないだろうという事に。
突然に降り出した雨の日なら、男同士が肩寄せて、一本の傘で歩いていてもおかしくはない。
道行く人は皆急ぎ足で、足元に注意しながらうつむき加減で歩いていく。
誰も周りなんか気にしていない。
テンゾウはいつもよりゆっくり歩いた。堂々と一緒に歩ける雨に感謝しながら。
カカシもテンゾウの歩幅に合わせゆっくり歩く。
「先輩、僕やっぱり雨好きです。」
テンゾウがカカシの耳元で囁いた。
「うん。」
カカシはちょっとはにかんだように頷いた。