[PR]クラウドソーシング各社を様々な視点から比較 紙風船

泡沫の庭荘

 

紙風船

 

26

 

テンゾウが道路側の運転席に向かうため車の前に回

り込んだ。カカシは助手席に乗り込むためにそのドア

に手をかける。

 その時、さっきカカシが歩いて来た路地から一人の

男が出てきた。

 

『バーン!!』

 

一瞬後に、早朝の静寂を突き破る銃声が鳴り響く。

 

 

 何が起こったのかテンゾウに判らなかった。まるで

スローモーションのように、カカシが倒れていく映像

が脳に焼き付けられる。

 

「え・・・・?・・・・」

 

 その男、薬師カブトはまだ銃を倒れているカカシに

向けたままテンゾウを見つめる。

 

「散々大蛇丸様に大切にされて来て、このまま逃げて

幸せになんかさせませんよ」

 

「カブト・・・おまえ・・・・」

 

 道路に倒れたカカシがうっとうめき声を上げる。

 

「カカシさん!!カカシさん!!!」

 

 テンゾウがカカシに駆け寄った。

 

「テン・・・・」

 

 カカシが微かに声を上げる。テンゾウはカカシの肩

を抱きその顔に耳を寄せた。

 

「カカシさん、何?カカシさん!!」

 

「俺は・・・嬉し・・・お前が・・・・一緒にと・・・・

幸せだ・・・」

 

 胸からとめどなく血が流れ出る。

 

最後にその瞳にテンゾウを映し、唇に幸せという言

葉をのせてカカシの鼓動はその動きを止めた。

 

「カカシさん、カカシさん、ダメだ、ダメだカカシさ

ん、カカシさん・・・・」

 

 まだ喧騒には早い都会の朝に、テンゾウの慟哭が響

く。

 

 

「死体はこっちで始末しますよ。あなたは早くここを

去りなさい」

 

 カブトはテンゾウにそう言うと、手で合図を送った。

すると今まで道路向こう側に止まっていた車が発進し、

こちら側へターンする。中からはカカシに暴力を働い

た男たちが出てきた。

 

 血まみれのカカシを見て、左近と次郎は少し顔を顰

めた。

そのままカカシのそばに寄り、手を出そうとした瞬

間再び銃声がこだまする。

 テンゾウの手には護身のために手に入れていたマカ

ロフが握られていた。

 

左近と次郎が倒れこむ。

 

「汚い手で、カカシさんに触るな」

 

更にもう一人カカシを痛めつけた奴にテンゾウは銃

を放ち、そしてカブトにその銃身を向けた。

 

「まさか、テンゾウさん・・・」

 

 カブトが怯えた顔を見せる。

 

「地獄へ落ちろ」

 

 テンゾウは迷いなくカブトに銃を放った。二度三度、

鉛の弾を打ち込む。

 遠くで新聞配達の男が自転車にまたがったまま立ち

すくんでいる。

ゴミを漁っていたカラスは驚いて飛び去り、たまた

ま通りかかった車が、何事かと一旦徐行して近づき、

男たちが倒れている光景にそのまま急発進して走り去

る。

 

 

「カカシさん、行きましょう」

 

 テンゾウは助手席のドアを開け、カカシを抱きかか

えて座らせた。

そうして自分は運転席に乗り込み、カカシを見つめ

る。

 

「カカシさん、ちょっと寄り道しますね」

 

 

 

テンゾウはスピードを上げ、車を走らせた。和風の

豪邸の前に着くと、カカシにもう一度話しかける。

 

「待っててくださいね」

 

 鍵を開け、テンゾウは中にどんどん入って行く。い

かにもヤクザという身なりの男が突然の乱入者に驚い

て立ち上がったが、テンゾウの顔を見て話しかける。

 

「テンゾウさん・・・どうしたんですか?こんな朝早

く・・・それにその血は・・・?」

 

 テンゾウの服や手にはカカシの血がついていたが、

その男の問には答えずテンゾウは廊下奥の大蛇丸の部

屋へ向かった。

 

 男があっけにとられて見送っていると、中から銃声

が聞こえた。驚いて駆けつけると、テンゾウが平然と

銃を持ったまま出てくる。男が部屋を覗き込むと、大

蛇丸組長がベッドの上で血まみれとなっていた。

 

「組長!!」

 

男は大蛇丸のところへ近づき、テンゾウはまっすぐ

部屋を出た。騒ぎを聞きつけた別の男が玄関先でテン

ゾウを見つけ呼びかけたが、テンゾウは銃を向けて、

静かに言い放った。

 

「死にたくなかったら引っ込んでろ」

 

 

 

 車に戻るとテンゾウは再び猛スピードで車を発進さ

せた。北へ北へ、どんどんどんどん進んでいく。

 

「成田へ向かうはずだったけど、予定が狂っちゃいま

した」

 

 物言わぬカカシに話しかける。

 

「でもカカシさん、ちゃんと始末はつけて置きました

から」

 

 数時間休むことなく走り続けて冬の高波が荒れ狂う

日本海側に面している山道に出た。

テンゾウはスピードを緩めることなく片側は断崖絶

壁となっている山道を進む

 

テンゾウは猛スピードでその山道を進み、海に面し

て前に大きく急カーブがある道に差し掛かると更にア

クセルを全開に踏み込んだ。そしてハンドルからは手

を離し、隣のカカシを抱き寄せる。

 

 テンゾウはほんの少し笑顔になった。

 

「カカシさん、ちょっと不謹慎だけど、あなたってど

んな姿でも綺麗ですね」

 

 そうして冷たく蒼白いカカシの頬にキスをする。

 

「水中結婚式だ」

 

 テンゾウはそう言うと、今度はカカシの唇にキスを

した。

 

やがてその車は急カーブに差し掛かり、激しい音を

立ててガードレールを飛び越え、そのまま海にジャン

プした。

ザブーンと大きい音がこだまし、少しの間波間に車

体が浮いていたが、やがて鉛色の雲と荒れ狂う冬の高

波の狭間に消えていった。

 

 

 

 

「これはさ、紙風船と言って、こうして膨らませて手

でポンポンと上にあげて遊ぶんだよ」

 

「でも紙でだから、直ぐに形が潰れちゃいそうですね」

 

「そう、だからそっと飛ばすの。大事に扱わないと直

ぐに壊れる」

 

「随分繊細なものなんですね・・・・」

 

「うん、ほんと。繊細だから・・・大切にもたないと

壊れちゃう」

 

 

                           終わり