医師 転職 ナースバンク 逢い見ての後の心にくらぶれば

詩の庭荘

 

逢い見ての後の心にくらぶれば

 

【第七話】

 翌日、俺が目覚めるとテンゾウはすでに起き上がり

窓から外を眺めていた。テンゾウの横顔はどこか憂い

を帯びており俺はベッドの中から声をかけようとし

て、少しの躊躇いを感じ、結局黙ったまま、身を起こ

す。

 

 何を考えているのか、憂いを帯びたその横顔を見な

がら、俺は起き上がる途中でまたテンゾウの方を見つ

めてしまう。俺の起き上がる

物音でテンゾウが振り返った。

「あ、おはようございます」

「・・・おはよう・・・」

 テンゾウの表情は硬く、その笑顔からはどこか無理

やりを装っている事が伝わってくる。先程の憂いを帯

びた横顔といい、無性に言いようのない不安が押し寄

せて来た。

 

「どうした?」

「どうしたって・・・何がですか?」

 テンゾウが怪訝な顔をする。

「いや、窓を見て何だか難しい顔をしてたから」

「そうでしたか?」

「まあな」

「・・・ちょっと考え事してましたから・・・」

 胸がドキリとした。女とは違う、俺の身体を抱いて

テンゾウはどう思ったのだろうか。一時の感情に流さ

れて俺と関係を持った事を後悔しているのだろうか、

朝になって冷静になって・・・。

 

俺の疑念に気づかないまま、テンゾウはキッチンの

方へ向かう。

「先輩、朝飯にしましょう。たいしたもの用意できな

いですが、まあ、遠征中の兵糧丸よりはましだと思い

ますので許してください」

「ああ・・・」

 

 俺はベッドの上で起き上がり途中だった身を起こ

す。テンゾウの様子に心が重く、つい深くため息を吐

いたらすぐさまテンゾウが飛んできた。

「先輩、どうしました?大丈夫ですか?」

「何が?」

「いや、あの、身体がしんどいのかと思って・・・」

「ばか、なんともない」

脳裏に昨夜の自身の姿が一瞬のうちに蘇り、俺は気

恥ずかしさで乱暴にテンゾウの頭をはたいた。確かに

全身にけだるさや痛みがあるが、忍びとして人並み以

上に身体は鍛え上げている。もっとも、テンゾウがか

なり気を使ってくれていた事が、負担を軽くしたのは

間違いない。

「す、すいません・・・」

 テンゾウははたかれた頭を押さえながらキッチン

に戻っていく。

 

 テンゾウは優しい。テンゾウと関係をもった今も、

俺はやっぱりテンゾウが好きだ。昨夜の自分はまるで

自分ではない様だった。

あらぬ姿をして、あらぬ声を出し、身体を貫かれた。

それでも・・・

いや、一層テンゾウが好きだと思った。テンゾウに

なら、男としての能動的な立場を捨ててもいいと思う

ほどに・・・。

テンゾウは、どうなのだろう。筋肉質な身体を抱い

て楽しめたのだろうか。

 

 

 それから俺達はゆったりと朝飯を食べ、ゆったりと

時間を過ごした。

「1週間の休みなんて久しぶり・・・いや始めてかも

しれない。あの先輩、映画でも見に行きます?」

「映画?」

「いや、映画じゃなくてもいいんですけど・・・外に

出たいなと思って・・・」

 俺はテンゾウの憂い顔を見た時から感じていた不

安が一層増す。俺と一緒に過ごすことに、抵抗がある

のか。

 

 もういつまでもグダグダ考えたくないと、俺は思い

きって聞く。

「俺と一緒にいるのが嫌なのか?後悔してると

か・・・。」

 テンゾウの顔がまるで絵に描いたみたいにきょと

んとした。そう、きょとんとした顔とはこういう顔だ

ろうというような顔。

「へ?なんでそんな事言うんですか?」

「だって外に出たいって、普通はさ、二人きりでいた

いとか思うんじゃないの?」

「それは・・・」

 テンゾウが口ごもって顔を赤くする。

「それは、なんだよ」

 俺は苛々して刺々しく問い詰める。

 

 テンゾウが顔を赤くしたまま視線を外した。

「だって困るんですよ。先輩と二人きりだと・・・」

「だから、何が困るんだよ」

「離したくないというか、また抱きたくなるっていう

か・・・。それは流石に駄目でしょう・・・先輩の負

担もあるし・・・。」

「はあ?」

 

 テンゾウが向こうを向いていて良かった。今度は俺

がきょとん顔をしていたと思うから。そしてわけの判

らない感情の波が押し寄せてくる。

なんだそれ・・・。じゃあ、さっきからのテンゾウ

のどこか無理しているような態度は、俺を抱くのを我

慢してたという事か・・・。

 

「僕、自分では淡白な方だと思ってたんですけどね。

先輩がそばにいると・・・。朝も、もう暗部で一緒に

任務につく事はないんだと考えてたら、このまま部屋

に閉じ込めていたいとか、だんだんおかしな事まで考

え出して・・・。馬鹿みたいですね」

 ああ、それで・・・それで窓の外を向いて難しそう

な顔をしていたのか。

さっきから押し寄せているわけのわからない感情、

嬉しさと恥ずかしさとそして自分もテンゾウのそば

にいたいという気持ちがごちゃ混ぜになっている感

情。

 これが誰かを好きになるという事なのだろう。気持

ちを告げあって互いに情を交わした後もなおいっそ

う募る想い。

 

 俺はテンゾウに近付き、その顔を両手で押さえ口づ

けをする。

貪るように舌を絡め、すぐにテンゾウからもっと激

しい反応が返ってくる。

しばし相手の唇を奪い合った後、テンゾウが俺を抱

きしめて耳元で囁いた。

「先輩・・・。止められなくなる」

「うん、いいよ・・・。休みだしな。お前がしたいな

ら・・・」

 俺の言葉が終らぬうちに、テンゾウの手が俺の服に

入り込む。

昨夜も散々弄ばれて、まだ刺激に敏感な突起を指の

背で撫ぜられて俺の身体が反応する。

「あ・・・」

 

 俺は22歳でテンゾウは18歳で、俺達の恋は始ま

ったばかりだ。

俺はずっと小さい時から、人の一歩前を行き、判断

を求められる側だった。

上忍師となるこれからは、先生と呼ばれ導き教える

立場そのものになる。九尾の少年と、うちはの生き残

りの少年、里の命運を握る事になるであろう少年達

と歩む道は、きっと困難なものになる。

 

 でも今は・・・。この始まったばかりの恋に後先無

くのめり込み、感情のままに情を交わし、ただテンゾ

ウと二人でいる時間を濃密に過ごしたい。

それが許されるわずか1週間を獣のように過ごし

たい。物理的に逢う時間を作り出すのは困難になるだ

ろう。ならせめて・・・。

 

 俺を組敷き、挿入してきたテンゾウが何度も好きだ

と呟く。押し広げられる苦痛も、その言葉に酔わされ

耐えられる。濃密な時を重ねても、俺達はきっと飽く

ことなく相手を想いあう。

それが確信出来るほど、俺は昨日より今のテンゾウ

が好きだ。

 

昨日より今日、今日より明日、俺達は恋を紡ぎなが

ら歩んでいく。

 

                          終