<C1INH活性>その4
テンゾウが針の話をした時から、カカシは貫かれる
事が判っていた。
謝れば許すとテンゾウは言った。謝らなくても、本
気で嫌だと言えば結局優しいテンゾウは出来ないだろ
う。
カカシはすでに自覚していた。これは自ら望んでい
るのだ・・・。
正確には身体が、欲している。
浴場で半ば強引に開かされた身体は、こうして後手
で縛られて更に熱を持ち、次の刺激を求めている。胸
の小さな突起は普段でも噛まれ、押しつぶされ、捻る
様に摘まれるという仕打ちに晒されているのだから、
耐えられない事は無いと、頭の中のほんの片隅の冷静
さの部分で考えている。
テンゾウはカカシの左胸の乳首をアルコール綿で引
っ張る様に摘む。
「いいんですね?」
カカシは無言を通す。
テンゾウは右手に持つ針で乳首を真横に貫いた。
「ああ、くっ・・・う・・・・・」
鋭い痛みに呻いてしまう声を抑える事は出来なかっ
たが、それでも想像していたより耐える事が出来る
範囲だったと思う。
そう・・・きっと自分は、残る右胸にもこの戒めを
受け入れるだろう。
白いカカシの肌が赤く上気していく。噛みしめる唇
の端から漏れる苦痛の声。そんなカカシを見てテンゾ
ウはもう一度問う。
「カカシさん。いるかとキスした事を謝る気は?」
すでに右の責めも覚悟していた。カカシは謝る気は
ないと首をふる。
無意識なのか、『いるか』と呼び捨てにしているテン
ゾウの怒りをあらためて思う。強姦まがいのセックス
や、縛られ針で貫かれるようなそんな事態を許してい
るのはテンゾウだからなのに。その手で、その身体で
施される事なら、苦痛の中に快感を見いだせる。
テンゾウ以外の人からもたらされた事態なら、ただ
苦痛にしか感じ取れない。
謝らないカカシを見つめ、テンゾウは残る針からキ
ャップを外す。
右胸の乳首をアルコール綿で挟むように摘みあげて
やはり真横に貫く。
「はあうっ・・・・・」
再度漏れるカカシの苦痛に呻く声を聞きながら、テ
ンゾウは抑えきれぬ嫉妬心が自身を変化させてしまう
畏怖に捉われる。罪深いのは、カカシかそれとも、自
分のカカシへの執着なのか・・・。
後ろ手に手を縛られたまま、カカシの両乳首を針が
水平に貫いている。その酷く扇情的な姿を晒し、カカ
シがテンゾウを見つめる。
テンゾウもまたカカシを、上気した裸体ごと見つめ
る。ゆっくりとテンゾウはカカシに近付き、顎を掴み
長く濃厚な口づけを施す。
そして唯一身を覆っていた下着を剥ぎ取り、全裸の
カカシを後ろ手に縛ったままソファに押し倒した。
勝手知ったるカカシの部屋に置いてあるゼリーを取
りに行き両足を持ち左右に開く。
ゼリーで滑りをよくした指で何度か押し広げられる
と、すぐにテンゾウはカカシの中に挿入してきた。
「さっきの余韻がありそうですね、あまり準備はいら
ないでしょう」
テンゾウが囁く。
身体を繋げられる事より、後手に縛られている為仰
向けはかえって不安定な姿勢となり、その事の方が辛
かったがテンゾウがすぐに動き始めて、カカシは忘我
の時に取りこまれていく。
「あ・・・ああ・・・・」
テンゾウの動きに合わせて針で貫かれた胸が上下す
る。
カカシのその姿は、酔わせる薫りと美しき花弁で虫
達をおびき寄せ、そして捉えてしまう食中花を思わせ
る。自ら押し入ったつもりでいてもその実、捉われて
いるのだと、逃げる道はないのだと、自覚させられる。
「あ、ああ、あああ・・・・・」
最後の最後まで、自分がもてる愛液の全てをカカシ
に注ぐ。
カカシもまた共に果て、しばらくは互いの息づかい
だけが響く。
しばらくしてテンゾウは自分が起き上がり、同時に
カカシの肩を持ちソファに座らせた。
美しき食虫花は、セックス終えてより一層の色香を
漂わす。
怒っているのは自分だ。なのに、その艶姿に永遠の
服従を誓う、そんな感情にさえ陥る。
テンゾウは新しいアルコール綿でカカシの乳首を摘
み、真横に貫いている針を抜いた。最初に右、そして
左。抜く時、ほんの少しカカシの表情が揺らいだが、
両方解放されるとふーと小さく息を吐く。
乳首の針跡には、本当に微かな血の雫がぽつんと丸
くついていた。
そしてテンゾウはカカシの腕を縛るネクタイも解く。
カカシは両腕をさすりながら「あ〜痺れたあ」と、
陽気な声を出す。
病を癒す薬が時に重篤な副作用をもたらす様に、何
事にも二面性があり、美しい華にも裏の姿がある。
カカシの胸から引き抜いた針にキャップをはめなが
ら、昆虫を針で止める標本を思い浮かべる。虫達を捉
えたのは食虫花であるカカシ。
刺したつもりがその実捉えられ、標本のように刺さ
れているのは自分、そして波風教授といるか医師。
カカシが針を仕舞っているテンゾウに声をかける。
「血流止められるクリップの方が辛いかも。意外と大
丈夫だった。ま、たまにだったらいいよ」
二度目も受け入れるような含みの言葉を残して、カ
カシが再びシャワーを浴びに行く。その背中を見つめ
ながら、テンゾウは罪深き者はやはりカカシだと思う。
カカシへの嫉妬心、執着心で責め苦を与えるが、カカ
シはそれを快感へと昇華させる。
そして結局自分は、服従してしまうのだ。自分を捉
えて溶かす食虫花と知ってなお、近づかずにはいられ
ない。その蜜を求めずにはいられない。
テンゾウの手があたり、キャップをはめた針がコロ
コロとテーブルの上を転がり下に落ちる。その光景に
気を取られ思考が止まる。
ふいにテンゾウは自分の激しい疲労感に気づく。短
時間で2回も激しいセックスをすれば当然かと思いな
がら、テンゾウは重い腰を上げる。
そう言えば肉体的にはもっと辛かったはずのカカシ
は、軽快に風呂場へと歩いて行った。
「やっぱり僕の方が餌かな・・・」
自嘲気味に呟いて、テンゾウもまた、風呂場へと向
かった。
終わり