四季の庭荘

 

 

Winter color

 

 

 の人は、冬色。

 白、とは少し違う。

例えるなら・・・そう、銀白色。

 

 

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 大和テンゾウが木の葉出版に就職して3年目の春が

来た。月刊の子供向け学習雑誌担当をしており、それ

なりにノウハウを覚えた頃だったが、異動の辞令を渡

される。学習雑誌の中で書いていた編集スタッフのエ

ッセイが文芸部編集長の目にとまり、向こうから声が

かかったという。

 

 

 

 

 文芸部編集長は綱手という、やり手と評判の女性。

配属初日、挨拶に行く。

 

「引き抜いたアタシをがっかりさせない事。しっかり

働いてくれなきゃ困るよ」

 

と、いきなり激を飛ばされ、

 

「アタシは新刊発行や文庫発行なども兼務しているか

ら忙しいんでね、細かい説明はあんたが担当する『月

刊・木の葉小説』の責任者、畑カカシ主任に聞きな」

 

と早口でまくし立てながらテンゾウを編集部の奥へ

と連れて行き、

 

「カカシ頼むよ」

 

と一言声かけると、相手の答えも待たずに足早に去

っていった。

 

 

 ある程度年配であるには違いない綱手の、颯爽とし

た背中を見やりながら、あのパワフルな人は夏色だと

テンゾウは密かに思う。

 

「君がテンゾウくん?よろしくねえ・・・。ちょっと

待ってて。これ仕上げちゃうから・・・」

 

 カカシ、と呼ばれた人は先程の綱手とはまるで違う、

至ってのんびりしたトーンでノートパソコンと向き合

ったまま、テンゾウに声をかける。

 

「いえ、お気遣い無く・・・ええと、畑主任」

 

「役職名はいいよ・・・面倒でしょ。もうちょっと気

を使え・・・って俺が思うくらい、ここざっくばらん

だから」

 

 声は至ってのんびりしているが、キーボードを打つ

手は相当に早かった。その言葉から受けるゆったりし

た印象と、男にしては白くて細めの指が素早く動く様

のちぐはぐさが、妙にテンゾウの印象に残る。

 

 

Enterと。はい、お待たせ。よろしく」

 

 畑カカシがパソコンから顔をあげる。手だけでなく、

全体に色素は薄く、いわゆるイケメンな顔立ちでにこ

っとテンゾウに笑いかける。

 

「あ、よろしくお願いします」

 

 テンゾウは改めて頭を下げた。

 

「他のスタッフ紹介するよ。おーい、集合」

 

 

 カカシの周りに編集部内にいた他のスタッフが集ま

る。

 

「この子が春野サクラ。で、無愛想なこいつがうちは

サスケ。あともうひとりいるんだけど・・・。コラナ

ルト!」

 

「・・・んあ・・あ!はい!」

 

 ノートパソコンの影で居眠りしていたらしい男が飛

び起きた。

 

「はい!もう昼?どこの飯屋行く?」

 

「ナルト・・・。まだ9時になったばっかだよ・・・。

今日から異動になった大和テンゾウくん」

 

「あ、今日から来るって人、へへ・・よろしく!俺は

うずまきナルト!」

 

 

 ナルトは照れ笑いを浮かべながら馬鹿でかい声でテ

ンゾウに挨拶を返した。カカシは仕方ないというふう

に笑っている。

 

 

 綱手なら居眠りなんて大激怒しそうだけど・・・。

この主任は大丈夫なのか・・・。新たな部署にそれな

りに期待をもってきたテンゾウは、特にナルトを咎め

る様子のないカカシを見つめた。

 

 立ち上がるとすらっと細身のいわゆるモデル体型。

天は二物を与えずなんて言葉もあるから、顔は良くて

も実は仕事があんまり出来ないとか・・・。テンゾウ

がカカシから目を離さず勝手な想像をしていると、

何?という様子で彼も見つめ返してきた。

 テレビや雑誌の中ならともかく、普通に間近に接す

る人間でこんなに整った顔立ちはそう多くはいない。

近い距離で見つめられ、思いがけず動揺する。

 

 

「ここ使って」

 

 カカシが自分の真横の机を指先でトントンとすると、

それまで無表情だったうちはサスケがふと顔を上げた。

冷やかな視線と思ったのは、気のせいだろうか。愛想

のいいナルトや、可愛い笑顔を向けてくれたサクラと

違って、サスケからはあまり歓迎されていない空気を

感じる。

 

 

 

 

 テンゾウに与えられた仕事のうち、一番ウエイトを

占めていたのが、カカシと共に月刊・木の葉小説に送

られてくる多数の一般応募の小説を読み、新人を発掘

することだった。可能性があるものは、月間木の葉賞

を与えて新人として編集部の担当をつける。そしてい

くつもの推敲を重ね、年末に発表される年間木の葉大

賞へエントリーする。

 

 

 

 

 文芸部に移動して二週間が過ぎた週末、居酒屋でテ

ンゾウの歓迎会が開かれた。

 

「どうだ、テンゾウ!少しは慣れたか?」

 

「いて!いや、あの、いて・・・。あの、まだ、慣れ

るまでには行きませんが・・・。痛い、編集長・・・」

 

 短時間にも関わらず既に杯を重ねている綱手が、豪

快にテンゾウの背中をバシバシと叩きながら話しかけ

てきた。

 

「彼の作品を読む力は確かですよ、編集長」

 

 背中を叩かれているテンゾウを庇うように、カカシ

が綱手のグラスにビールを注ぎながら答える。

 

「そうか、そうか」

 

 綱手は自分が引き抜いたテンゾウの働きぶりを聞く

と、満足そうな笑みを浮かべてカカシから注がれたビ

ールを飲んだ。そして今度はテンゾウと反対の席にい

るナルトの方に何やら話しかけ始める。

 

 

「ありがとうございます」

 

編集長の絡みから助けてくれたカカシにテンゾウは

礼を言う。

 

「編集長の酒は明るくていいんだけど・・・。ちょっ

と豪快すぎだよね」

 

 カカシが礼を言うテンゾウに微笑む。

 

 

 

 

 二週間一緒に仕事をしてきて、段々スタッフの特徴

が判ってきた。

ナルトは、テンゾウが最初に見たまま、日常生活は

中学生から成長がないのではと思うだらし無さがある

が、仕事に集中しだすととても貴重な意見をいい、ま

たそれを実行する能力がある。そして何よりどこまで

も明るい真夏の太陽のよう。彼は夏色。

 

 

 サクラは愛らしいピンクの頬の女性で、しかし芯は

しっかりとした強さを持ち、仕事にも何事にも一生懸

命で前向き。その名の通り桜のイメージ。芽吹き始め

の春色。

 

 

 そしてサスケは、ナルトとサクラと同期入社で今年

二年目。二人と違って仕事上必要なこと以外は殆ど会

話することもなく、カカシが最初に言った通りに無愛

想な青年だった。ただ、知識は豊富、パソコンにも精

通しており、仕事はそつなくこなす。社交性に欠ける

彼は、木枯らし舞う印象。水凍る冬色。

 

 

 カカシも冬だ。テンゾウは空になっていたカカシの

グラスにビールを注ぎながら、横にいる彼に視線を向

ける。白い肌や色素の薄い髪、整った顔立ち、黙って

いると近寄りがたい雰囲気を醸し出す。印象としては

やはり冬。

 

ただ、美しい雪景色が銀世界と表現されるように、

白ではなく、例えるなら・・・そう、銀白色。

 

 

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