Winter color
テンゾウ君は春。
暖かいけど、夏とは違う。
ふんわりした優しい春。
2章
大学の食堂で空いている席を探していると、テンゾ
ウの彼女も混じる女の子の集団を見つけた。皆が顔見
知りだったので、なにげにそのテーブルに行く。する
とふいに、春だと告げられた。
『ほらあ、春でしょ』
『ほんと、春だ』
女の子達が春だ春だとテンゾウを見て言い合う。
『何それ?何の話?』
『人間の四季のイメージ。テンゾウくんは絶対春だよ』
『人間の四季?』
『雰囲気ね。テンゾウ君は優しいし、暖かいイメージ
なんだよ。でもさ、暑い夏じゃなくてふんわり暖かい
感じ。だから春』
『シズネもほんわか春だから、春カップルだね。お似
合いだよ』
似合いのカップルと言われて、その当時付き合って
いたシズネが微笑む。
『ねね、ゲンマ先輩は?』
『そうだね、彼は秋かな、クールさが秋っぽい感じし
ない?』
『するする〜!先輩ってほんとクールで素敵よね〜。
この前もさ・・・』
話題がサークルのモテる先輩の話に変わっていく。
女の子って、次から次へとよく話が続くし、そして面
白いことを考えると思う。
人間を四季に例えるなんて・・・。男には若干理解
出来ない女の子の豊かな発想力が新鮮で、なんだか妙
にそのことが印象に残った。そしてそれ以後、テンゾ
ウは人と出会うと、ついその人に似合う季節を勝手に
考える癖が出来てしまった。
シズネとはサークルが一緒で、向こうから告白され
て付き合い始めた。とてもいい子で一緒に居る事は嫌
ではなかったが、どこか醒めている自分がいるのも事
実だった。好きか嫌いで考えると確かに好きだけど、
恋愛ってもっと夢中になるものではないのかと・・・
そういう思いが抜けきらずに、大学卒業を期に別れて
しまった。
別れを告げた時の泣いていた彼女の事を思うと今も
胸が痛むが、それは後悔とは違う。やはりあれは恋で
はなかったと思う。
就職してからも一度印刷会社の営業の女の子と付き
合ったが、長くは続かなかった。自分は少し恋愛に淡
白な方なのかと、テンゾウは考える。大学時代の友人
なんて貪欲に女子を求めていたし、むしろそのほうが
普通だろう。それに比べて自分は・・・。情熱的な恋
愛と自分が結びつかない。
テンゾウが読者アンケートのハガキの束を左手に持
ち、右手には沢山の投稿小説を持ち、その一番上の原
稿を読みながらエレベーターに乗り込むと、中から出
てこようとしたカカシとぶつかった。カカシも手に作
家の原稿をもっており、二人の原稿とハガキが混じっ
て散らばる。
「あ〜あ・・・・」
「うわ!すいません!」
二人同時に声を上げ、テンゾウは散らばる紙類を拾
うためにかがみ込む。エレベーター内部にも散らばっ
ていたので、カカシはボタンの開延長を押してから、
同じくかがみ込んだ。
「ほんとすいません。原稿読みながら歩いてて・・・」
「いや、俺も読みながら歩いてたから」
原稿を集めながらカカシが答える。テンゾウがその
言葉に反応してふと顔をあげると、カカシの顔が思っ
たよりそばにあり、初めて時会った時に頭に浮かんだ
『天は二物を与えず』の言葉を思い出す。
あの時はカカシのゆったりとした口調や、居眠りし
ていたナルトに強く注意しなかったりで、顔はイケメ
ンでも仕事は出来ないんじゃないか・・・『天は二物
を与えず』という言葉もあるし、なんて勝手な想像を
したが、全く違っていた。
若くして主任編集員になるのも納得する抜けのない
仕事ぶり、しかし物腰は穏やかで作家達や周囲の人に
も評判が良く、綱手編集長の信頼も厚いことは、一緒
に働き始めて直ぐに判った。
天は気に入った人には与えるだけ与えるんだ、二物
でも三物でも、と今更ながら世の中の不公平を実感す
る。
「はい、これ」
散らばっていたハガキの最後の一枚をテンゾウに手
渡し、天に愛されているカカシがにこっと笑った。
その笑顔と真っ直ぐな視線に、テンゾウは一瞬釘付
けとなる。
テンゾウが異動して2ヶ月が過ぎたあるとき、読者
からの投稿原稿読みに目が疲れ、少し遠くの景色を見
ようと屋上へ上がった。季節は夏に向かっており日が
どんどん長くなっている時期で、夕方でもまだ青い空
を見ることが出来る。
屋上に出る扉を開けると、手すりに持たれているカ
カシが目に入る。傾きだした日の光がカカシを照らし、
その色素の薄い身体に反射して、まるで白いベールに
包まれているようだ。
「カカシ主任」
「よう」
「サボりですか」
「ふふ・・お前もでしょ」
「ちょっと目が疲れたから」
「俺もだよ」
テンゾウはカカシの横に行く。目が合うと、カカシ
がにこっとする。
この笑顔だ・・・。
テンゾウは思う。天に愛されて二物も三物ももらっ
た人。
綺麗な顔立ちに、見惚れる。