<エンドトキシン>その4
弧を描いてベルトはカカシの背に到達する。
知らずに息を止め、その時を待っていたカカシに
緩やかに振り下ろされたベルトは
さしたる痛みを与えはしなかった。
カカシはテンゾウを見上げる。
激情に駆られての行動のようで、
その実、カカシの反応に臆病で敏感な恋人。
自分の態度一つ、言葉一つで翻弄される
年下の愛しい恋人。
身体の隅々まで、テンゾウの想いで包まれ、
鋭利なナイフで刺すように、その瞳で
自分だけを見つめられる至極の時間。
テンゾウから与えられるものならば
たとえ痛みであっても、甘い蜜に摩り替わる。
「テンゾウ・・・。もっと強く・・・。」
「・・・カカシさん・・・。」
「もっとだ・・・テンゾウ・・・。」
禁断の森の入り口で、戸惑い佇む恋人に
自ら果実を差し出し、深き奥へと誘う。
テンゾウは、意を決したようにベルトの端を
もう一度右手にくると強く巻きつけなおす。
そして今度は、力強くカカシの背中に振り下ろした。
ビシッ、としなる音がして、一筋の紅い線を
カカシの背中に刻み込む。
「くっ・・・。」
先程とはうって変わった強い衝撃に、カカシは
思わずかすかなうめき声を発する。
力込めて振り下ろされたベルトは
今度は確かな痛みとなって、カカシの肌に食い込む。
止めて欲しいとは思わない。そう、これは蜜だ。
シーツの端を握り締め、甘い蜜の続きを待つ。
続きを請うかのようなカカシを見て
テンゾウはもう躊躇わない。ベルトを振り上げ
白い肌に打ちつける。その絹肌に描かれる赤い線は、
迷い森を踏み分ける、テンゾウへの道標となる。
次の道へ、さらに奥へ、紅い筋が増えるたび
テンゾウは迷うことなく、禁断の森へと突き進む。
ビュッ、ビュッと、ベルトが撓る。
「うっ・・・くっ・・・。」
堪えようとしても、苦痛の呻きが洩れる。
辛いのに、痛いのに、もっとと願う。
もっと、もっとテンゾウに打たれたい。
カカシは自覚する。テンゾウからの
甘美な痛みが与えられるたび、自身の中心が
熱く滾る事を。
カカシの背中一面に紅い筋が刻まれると
テンゾウはカカシに近づき、その腰だけを
上に上げ、両足を広げさせる。
カカシの秘所が曝け出される。そこは
次の刺激を求めるように、ひくひくと
うごめいている。前のものはもう硬く
先走りが溢れている。
「あなたはいつもずるい・・・。これは罰なのに
本当に罰になってますか?」
テンゾウがカカシに囁く。
身体を鞭打たれ、腰だけを高く上げ
秘所をさらけ出される姿に身を置きながら、
快感を貪っている事を指摘される。
羞恥に全身が火照りながら、更に
テンゾウから与えられる蜜を待つ。
テンゾウは再びベルトを手にした。
ビシッ!
今度は高く掲げられ、むき出しになった
カカシの臀部にベルトを打ちつける。
「あうっ・・・。」
カカシから差し出された果実を食べ
示された道標を辿るテンゾウに迷いはない。
シーツをきつく握り締め、痛みに耐えるカカシに
その手を緩めることなく、臀部に打ちつける。
打たれてなお、誘うようにカカシの秘所はうごめく。
テンゾウはベルトをゆっくりと手放し、
ジェルを手にしてカカシに近づく。
背中と同じようにいくつもの紅い筋が刻まれた
双丘を押し広げる。ひくつく襞にジェルを
塗り、指を差し入れる。
「ああ・・・。」
待ちわびた刺激に、カカシの敏感な部分は
快感を余すことなく捉える。
指で解かされ、テンゾウの杭で突きあげられ、
カカシはただ快感を求める獣のように
喘ぎ、よがり、テンゾウに揺らされるがまま
共に果てるまで、その身を委ねた。
テンゾウが事後のシャワーを浴び終え
リビングに戻ると、先にシャワーを浴びていた
カカシがパソコンを開いていた。
「ちょっとテンゾウ見てみろよ。
色んな種類があるんだなあ。俺初めて見たよ。」
「何見てるんですか、カカシさん・・・。」
テンゾウは溜め息をつく。
カカシは鞭を売るショップのページを開いていた。
「九尾鞭だって。へえ・・・名前が面白い。」
「そうですか。九つに先が割れてるからでしょう。
特別ひねりもない名前だと思うけど。」
テンゾウがややあきれて返事をしたら
カカシがチョイチョイと手招きをした。
呼ばれるまま近づくと、カカシがペロッと
テンゾウの耳を舐め、そして甘噛みしてから
息を吹きかけるように、囁いた。
「これ注文しといてよ。お前だって、
今日だけで終わらせる気はないだろう。」
テンゾウは思わずカカシを見つめる。
カカシは無言でテンゾウの手を取り、自分のシャツの
下からその手を招き入れ、乳首迄這わせる。
「次はここ、打ってもいいよ・・・。」
テンゾウの体温が一気に上昇する。
カカシに手を摑まれたまま、動けずにいると
テーブルの上のカカシの携帯がぶるぶると振動した。
「メールだ。じゃ、注文頼むよ。」
カカシはするりとテンゾウから離れる。
携帯を手にし、その相手を確認すると
うっすらと笑顔を浮かべ、すぐに返信を始めた。
日曜日の夕方、カカシにメールを送り、
カカシがすぐに返信する相手は誰なのか。
数時間前に見た、地下駐車場から去って行った
波風教授の横顔が再び思い出さる。
誰からと聞きたい気持ちをぐっと堪える。
カカシに誤魔化されても、あるいは正直に
話されても、どっちにしろ傷つく自分がいる。
いっそ聞かない方がいい。
メールへの返信を打ち込むカカシから
目線を外し、テンゾウはパソコン画面を
見つめる。さまざまな種類の鞭が並ぶ。
カカシに罰を与えなければならない事態は、
今日だけで終わりそうにない。
自分の全身を巡る、嫉妬という名の
毒も浄化される気配がない。
テンゾウは深い溜め息をつきながら、
カカシが自ら望んだ鞭の購入ボタンに
カーソルを合わせ、Enterキーを押した。
終わり