ペット 今ひとたびの邂逅

睦みの庭荘

 

 

今ひとたびの邂逅1

 

 

 

「カカシさん」

 

「よう、ゲンマ。久しぶり」

 

「久しぶりでもないですよ。ついこの前の任務一緒だ

ったでしょ」

 

「はは・・・そうか」

 

 カカシは公園ベンチでイチャイチャパラダイスを読

んでいた。そこに特別上忍の不知火ゲンマが現れる。

 

「興味持たれてないのは自覚してますけど、いつ会っ

たかくらい覚えててもらってもいいと思いますけどね。

あんたの代わりに労力使ったのに」

 

 そう言うとゲンマはカカシに紙の束を渡した。

 

「本来隊長務めたあんたが書くはずなのに、俺に押し

付けたこの前の任務報告書」

 

「ああ・・・」

 

カカシはゲンマから報告書を受け取る。

 

「提出前にあんたに見せておこうと思って。一応あん

たが隊長だったし」

 

ゲンマの重ねた嫌味に、カカシは苦笑する。

 

「ゴメン、ゴメン・・・。ちょっと他の報告書も溜め

込んでてね」

 

「判ってますよ、木の葉崩し以来、あんたがどんだけ

忙しいかは。里を代表する忍びだし。ただ、今日は時

間がありそうだけど」

 

 ゲンマはちらりとカカシが手に持つ本を一瞥した。

 

「これは俺にとって空気と一緒なの」

 

 嫌味を重ねるゲンマにカカシが憮然と答える。

 

 

ゲンマはカカシより3歳年上だが、上忍であり、更

には木の葉を代表する天才忍者と誉れの高いカカシに

一目を置いているのか、基本的に敬語を使う。

しかし物事を冷静に見極め、瞬時に様々な事を理解

する能力を持つ優秀な忍びでもある彼は、時に辛辣な

意見を臆することなく発言する。

 

 ただ、カカシにとってゲンマは一緒にいても苦痛に

はならないタイプの人間だった。感情を表に出すこと

が少なく、それでいて深い思慮があることを感じさせ

てくれる年上のゲンマは、話していても居心地がいい。

また、会話がなくてもその静かな空間が自然なものに

感じられる、そういう存在だった。

 

 

 秋の気配を感じる季節になり微かな冷気を帯びた一

厘の風が、カカシの髪とゲンマの長髪を揺らしながら

通り過ぎていく。

 

「カカシさん」

 

「何?」

 

「そこ、座ってもいいっすか?」

 

 ゲンマがカカシの座るベンチを指差した。

 

「何?報告書代筆は、また埋め合わせするよ」

 

 嫌味を繰り返したゲンマにカカシは警戒するように

える。

 

「おや、それは楽しみ。で、それとは別の事、あんた

にまだ、ちゃんと謝ってなかったと思ってね」

 

「謝るって・・・なにを?」

 

 

 さっきよりもう少し強い風が再び二人の髪を揺らし

ながら、吹き抜けて行く

 ゲンマがカカシの横に座り、ひと呼吸おいて言葉を

発する。

 

「サスケのこと」

 

 カカシがゆっくりとゲンマに視線を移す。

 

「俺たちが、音の四人衆を捕まえていたら、サスケ

は・・・」

 

「それでもサスケは出て行ったよ」

 

 カカシがゲンマの言葉を遮ってきっぱりとした口調

で言った。

 

「音の四人衆が来る前から、サスケの復讐にかける気

持ちを知っていた。俺が説得に失敗した」

 

 今度はゲンマがカカシを見つめる。

 

「カカシさん」

 

「謝らないといけないのはむしろ俺だ。ゲンマもライ

ドウも、音の四人衆との戦闘で、重症になって・・・

サスケに里抜けの意志があったから、あいつらは迎え

に来たんだ」

 

「怪我は俺たちの力不足だ。ライドウも俺も、まあそ

れなりに深手を負ったが、綱手様に治療してもらって

回復は早かった。それよりあんたは大丈夫?」

 

「え?俺はそもそもサスケの件では、戦闘に参加して

ない。知ってるだろ?」

 

「いや、身体じゃなくて・・・こっちの方」

 

 ゲンマが指先でカカシの左胸を指さした。

 

 ふっとカカシに纏う空気が張り詰めたものに変わる。

 

「あんまり・・・溜め込むなよ。俺もまあ口数の多い

ほうじゃないけど。内省ばかりじゃ潰れちまうぜ。そ

こがさ」

 

 

 

 テンゾウは暗部のシフトを終え、カカシがいるだろ

うと思われる慰霊碑近くの庭園にあるベンチに向かっ

ていた。急な任務が入ってなければそこにいるはず。

 

 

 カカシの教え子たちが中忍昇格試験を受けて一ヶ月

後、木の葉は大変な事態になった。大蛇丸による木の

葉崩し、それに伴う三代目の死、更にうちはイタチに

よるカカシへの攻撃。五代目就任後には、うちはサス

ケの里抜け。イタチから受けた月読の後遺症は、綱手

が治療してくれた。

 

 そして7班は新たな局面を迎え、ナルトは修行の旅

へ自来也と旅立ち、サクラは綱手の元で医療忍術習得

へ、実質カカシ班は解散状態となり、今カカシは単独

でも任務可能な上忍としてかなりの激務をこなしてい

る。

 

里としても大変だったが、カカシ個人としても中忍

試験前の指導から、心労が絶えない状況が続き過ぎて

いた。

 

 

それは暗部のテンゾウも同じことで、全貌の分から

ぬ暁という謎の集団。抜け忍イタチの居所。同じく抜

け忍で木の葉崩しの元凶、大蛇丸とそこにいるだろう

サスケの居所。

 

仕事はいくらでもあり、その成果は一向に得られな

い。疲弊感が募る状況で、ふたりの時間はすれ違いば

かり。テンゾウはカカシの事が気になって仕方がなか

った。消して表には出さぬ表情の中で、サスケの事を

何れ程後悔しているか、何もかも背負い込む性格を知

っているから。

 

 

正規部隊に今日は大きな出動命令がないことを、暗

部の情報網で把握していた。そして自分も久々にまと

まった休暇が取れた。今日はカカシにゆっくり会える。

サスケが抜けてから、彼の辛さを受け止める時間がよ

うやく取れた。

 

今ならカカシはきっと慰霊碑に向かいそのあと休憩

しているだろう。任務でないなら。

 

 

 テンゾウがいるだろうと予想したベンチには、確か

にカカシの姿が見えた。そしてその横に正規部隊の男

も。二人は何か親密そうに見つめ合っており、テンゾ

ウは声をかけようとして、立ち竦む。

 

 

 

続く