今ひとたびの邂逅2
「俺は・・・」
ゲンマから、サスケの里抜けについてカカシが抱え込
んでいる鉛のような自責の念を指摘され、何かを言おう
と思ったが、言葉を繋ぐことが出来ない。
ゲンマが少し笑った。
「ほら、また黙り込む。そういうとこだよ、俺が言って
るのは」
「でも、実際あいつの説得に失敗したのは俺だ・・・」
カカシが呟くように答える。
「だからって一人で抱え込むなよ」
「他の誰のせいでもない。上忍師として俺の失敗だ」
「責任転嫁しろって言ってるんじゃないよ。発散の仕方。
黙って自分への罰みたいに過酷な任務ばかり引き受け
てないで、酒でも飲んで、ああクソ、生意気なガキめ、
人の言うことも聞かずに出て行きやがって!とか叫ん
だらどう?」
カカシがゲンマを見つめた。ゲンマが自分で言ったよ
うに、普段はあまり口数の多い方ではない。カカシと一
緒の任務にいても、本当に必要最小限の事しか基本的に
はしない。しかし、今のゲンマは饒舌で、何だかカカシ
は少し気持ちがほぐれる。
「クソガキめか・・・それはいいかも・・・」
「もう一回言ってみろよ」
「クソガキ!勝手に出て行くな!」
「いいね」
ゲンマが笑い、カカシも少し笑った。
二人の笑い声が途切れたとき、ゲンマがカカシの名を
呼ぶ。
「カカシさん」
「何?」
「さっき、いつか任務報告書代筆の埋め合わせをしてく
れるって言ったよね?」
「うん」
「今もらっていいっすか?」
「今?イチャパラしか持ってないし、これはあげられな
い」
「・・・それ欲しがるのあんただけだよ・・・。いや、
ものじゃなくて」
「何?」
「あんたを抱きしめたい」
「はあ・・・?」
「金かからなくていいでしょ」
「・・・っていうか、俺抱きしめてお前に何のメリット
あるの?」
「天下のはたけカカシを抱きしめるって、そうなかなか
経験出来ないっしょ。」
ゲンマはカカシの返事を待たずに、両手でカカシを抱
きしめた。サスケのことを後悔しているカカシを気遣っ
ているゲンマの優しさがカカシを包む。
幼い時から何をしても人の前に出る立場を任されて
いたカカシには、年上のゲンマに、ただその身を預けて
いればいいその一瞬がとても穏やかで心地良いものだ
った
カカシを抱きしめたままゲンマがクスッと笑って耳
元で囁く。
「あんたって紛れもない天才忍者なのに、妙なとこで隙
だらけ」
「え?」
ゲンマがカカシの頬にキスをして瞬身でその場を離
れる。
「雷切はごめんだ。じゃあな」
ゲンマは地を蹴り、その場から消えた。
カカシにとって追えない相手でもスピードでもなか
ったが、その行動はカカシへの思いやり出ていることは
充分に伝わっていた。どこかフィーリングの合うゲンマ
には、何時間でも一緒にいる事が出来る気がする。
テンゾウの場所から、たとえ忍の聴力を持ってしても
ゲンマとカカシの会話が聞こえる位置ではなかった。た
だ、その姿は捉えることが出来る。
仲睦まじげに顔を見つめ合い、話し、ゲンマがカカシ
を抱きしめ、そして頬にキスをした。
テンゾウが見たもの。それが全て。理解しがたい場面
がスローモーションのように、流れていった。
「どういうこと・・・?」
木の葉崩し以来、暗部は休息はないも同然で働いてい
た。その間でもカカシの事は常に気をかけ、そしてそれ
と同時にテンゾウにとっては支えでもあった。
三代目を失い、今は心から綱手に忠誠を誓っているが、
もし五代目をカカシに、という話があったとしても、此
の命全てを捧げることが出来る。テンゾウにとってカカ
シとはそういう気高い存在でもあり、そして紛れもなく
付き合っている恋人だった。
疲弊しようやく戻った木の葉の里で、そのカカシが、
自分が唯一愛と忠誠と両方の思いを捧げるカカシが、他
の男と共に笑い、そしてその男に抱きしめられていた。
「今のはなんだ・・・・?」
疑心暗鬼の思いがテンゾウに渦巻く。