The boy meets the boy
(8話)
テンゾウがまだ、部屋にいる時から、ゲンマは、性急にカカシの耳
朶に噛み付いた。
「痛い・・・」
カカシが抗議の声を上げるが、聞き入れることなく続けて首筋に歯
を立て、さらにきつく吸い上げる。
テンゾウが出て行き、ガチャンと扉が閉まる音が聞こえる。もう二
度と、あいつがこの部屋に来ることはないだろう。そう思うと、胸が
詰まる。
テンゾウ、待て、行くな・・・と、喉まで言葉が出かかる。一瞬で
もテンゾウの事を考えたのが見透かされたように、ゲンマが、喉へも
歯を立てる。何年もの付き合いの中で、ゲンマにこのような乱暴な愛
撫を受けたことがない。
手酷くされるのは嫌いだ。しかし、ゲンマには怒る理由がある。ゲ
マとの付き合いを止めるでもなくテンゾウといる時間を優先させて
いた。テンゾウの気持ちを知りながら、迷惑だと拒否することすらせ
ずに、一緒にいたのだ。
自分が悪い・・・。ゲンマが怒るのも無理はない・・・。
首筋へ唇を這わせていたゲンマが、カカシを引き起こし破るような
勢いで服を脱がせ、そして自分も脱ぎさる。裸体となったカカシの鎖
骨に再び歯を立てた。
「う・・・」
思わず声が出る。それでも、カカシはもう抗議の声を上げることな
くその快感とは程遠い痛みに耐える。
歯を立て、吸い上げ、カカシの肌にゲンマの怒りが刻み込まれる。
胸の突起に歯を立てる。片方は指できつく摘まみ上げられる。
「ああ・・・」
歯を食いしばっても、耐えられぬ声が出る。
カカシの声を聞いても、ゲンマはさらに指で突起を押しつぶし、ま
た摘み上げ、さらに歯を立てきつく吸い付く。慣れ親しんだゲンマか
ら、身体を触れられればやはり自然と反応する。
しかし、身体が覚えている優しい愛撫とはかけ離れた痛みに、その
ギャップに、カカシの心と身体がついていかない。
ゲンマが罰のように与えた愛撫からカカシを開放すると、すでにカ
カシの白い肌は、いくつもの紅い痕が散らばり、激しい愛撫に胸の周
囲は赤く熱を持っている。
ゲンマは顔を挙げ、無言でカカシの身体を見つめた。カカシは小さ
な浅い呼吸をしながら自分の手の甲を噛み、それ以上の声が出てしま
うのを耐えていた。
ふいと立ち上がり、かって知るカカシの部屋からジェルを持ってく
る。
再びベッドに戻り、無言でカカシの膝を持ち足を開かせた。露にな
ったカカシの蕾にジェルを塗り、指をぐいと挿入する。
「く、ああ・・・」
思わず仰け反り、無意識に身体が逃げる。この刺激もカカシには慣
れ親しんだもの。しかしゲンマはいつも前への愛撫と共にゆっくり溶
かしてくれる。それが、カカシの快感を引き出すことなく、いきなり
指だけを挿入し、掻き回す。
「く・・・ゲンマ・・・いやだ・・・」
「いい加減、後だけでもいけるだろう」
ゲンマがようやく口を開いた言葉は、カカシを慄かせた。
「ゲンマ・・・!」
カカシの慄きにも気遣うことなく、ゲンマはさらに指を増やすのみ
で一切、すでに立ち上がりかけてるカカシのものに触れる様子はない。
3本まで増やした指をカカシの中で動かしていたゲンマが指を引き
抜き、両手でカカシの膝を割る。
ゲンマのいきり立ったものが、カカシを貫く。
「ひ、うああ・・・ああ・・・」
カカシの反応を見ることもなく、ゲンマはいきなり最奥まで貫く。
「ちょっと待って・・・ゲンマ・・・う・・」
カカシの制止も聞き入れず、ゲンマは腰を動かし始める。引き抜き、
奥まで衝き、カカシの欲望には刺激を与えることなくただ、自分の欲
望を満たすためのごとく、肉を打つ。
知らずに生理的な涙がカカシの頬を伝う。ゲンマはカカシの腕を押
さえ、自分で触ることすら許さないでいた。
貫かれる事から快感を拾う身体になっているは事実だ。しかし、男
として精を放つことから得る快感は、一生代わるものではない。
いつもの、共に駆け上がるような感覚を置き去りにされ、ただ、ゲ
ンマの道具のように貫かれる。
もどかしさと言う身体への罰、屈辱という心への罰を受けながらカ
カシは何度も何度も、ゲンマに挿し抜きされ、身を捩り、喉を仰け反
らせ、その時が過ぎていくのを耐えるしかなかった。
ゲンマはカカシの腕を押さえ込んだまま、さらに衝きあげるスピー
ドを加速させ、最奥に欲望を放つ。
荒い呼吸を整えると、ゲンマはカカシに口付けた。その口付けは優
しいもので、カカシを混乱させる。やがていつものようにカカシを抱
えてシャワールームへ向かい、カカシの中に放ったものを始末し、カ
カシが身体を拭く間にシーツを替え、タバコを吸わないカカシに気遣
い、ベランダで一服する。
いつもの手順、いつもの優しいゲンマ。さっきまでの乱暴なセック
スは、悪い夢だったかのように、普段のゲンマに戻っていた。
カカシが、タオルを首にかけたままソファに座る。お喋りではない
二人の空間で、沈黙はいつもの事。しかしカカシは、いつもの満たさ
れた安らぎを感じることは出来ずにいた。
タバコを吸い終えたゲンマがカカシの横に座った。
「あいつ、いくつ?」
「え?」
「暗部の後輩の年」
「あ、ああ・・。二十歳」
「二十歳か。お前よりまだ四歳も下だな」
「うん。若いな・・・」
そう、テンゾウは若い。今は自分に恋しているのかもしれないが
いずれ忘れて、可愛い恋人でも見つけるだろう。カカシは、無意識に
唇を噛む。
「飯・・・どうする?」
唇を噛むカカシの横顔をチラッと見やったゲンマが話を変え、カカ
シに尋ねた。
「ああ・・もうそんな時間か。」
いつの間にか日は暮れて、もう夕食時だった。
「俺の家は何もない。毎日任務で、買物もろくに行ってない」
「じゃあ、俺んち来い。何か作ってやるよ」
「・・・そうするかな・・・」
カカシはゲンマの家で夕食を食べ、再びベッドに誘われる。今度は
乱暴に扱われる事はなく、カカシのことも気遣ってくれたが何度も何
度も求められ、中々開放してもらえずにいた。カカシは逆らうことな
く、ゲンマの欲するままにその身を曝ける。
ゲンマは、カカシの身体を貪る事で、知らずに沸き起こる不安を
払拭させていた。離すわけにはいかない。ずっとずっと愛してきた。
この髪も顔も、声も、身体も、心も、全て自分のものだ。カカシの泣
き声に近い喘ぎを聞きながら、何度も貫く。
翌日、鏡の前でカカシは小さい溜め息をついた。身体中にゲンマに
愛された痕がある。
秋といわれる季節になりつつあるが、まだ時折強い日差しもさす中、
暗部の任務服の上にカカシは薄手のマントを羽織った。とても人に見
せられない。
「行くのか?」
ベッドの中からゲンマが声をかけた。
「ああ。任務は休めない」
「大丈夫か・・・?」
「まあね・・・」
さんざんに愛された身体は、気だるさを残し敏感になりすぎた皮膚
は、アンダーの接触でも痛い。
カカシはベッドに近寄り、自ら舌を絡ませる濃厚な口付けをゲンマ
に与える。部屋を出る前にもう一度ゲンマのほうを振り返り、そして
玄関を出た。