フコイダン 茶の間

感謝の庭荘

 

The boy meets the boy

 

(9)

 

ゲンマの部屋から出たカカシは、火影の火の国訪問の護衛任務の為、

火影室に集合した。そこにはもちろんテンゾウも待機している。無意

識にマントの結び目に手をやり、巻きなおす。

 

テンゾウの視界に、マントを巻きなおすカカシがはいる。ゲンマと

いう男が、カカシにくちづける場面がスローモーションのように、思

い出される。

まるで見せ付けるかのごとく、カカシに覆いかぶさるゲンマ。マン

トの下には、情事の痕を刻んでいるのだろうか。

張り合う余地すら与えられず、カカシに帰ってくれと言われた。そ

の言葉が鋭いナイフとなって、半身を引き裂くような痛みをもたらす。

 

 

 

火影は火の国訪問を終え、木の葉の里へと向かっていた。その山を

越えれば木の葉の里というところで、火影一行は敵に急襲された。

 

「岩隠れか!?」

「タカムネ!結界!」

「ダイチ隊!前方に集中!」

「ナギ!テンゾウ!後方に回るぞ!」

精鋭集団の暗部達は、それぞれ自分のすべき事を的確にこなしなが

ら、火影を守る。とはいえ、火影暗殺を狙う程の敵はそれなりに準備

を整えていたらしく、劣勢となった後方にカカシは回る。

 

「雷切!」

「テンゾウ!後方だ!ナギをフォローしろ!」

「木遁!大樹林!!」

「ナギ!大丈夫か!?」

やがて暗部達により、敵は全て倒すあるいは捕獲した。木の葉側に

犠牲者は出なかったが、幾人かの負傷者が出た。今回の護衛任務中、

カカシとテンゾウとスリーマンセルを組んでいたナギも、負傷者の1

人だった。式を飛ばし、回収班及び医療班を要請し、無事でいた者は、

回収班到着を待つ者と、火影帰還に同行する者に分かれ、カカシとテ

ンゾウは仲間のナギの負傷もあり、その場に残った。

 

テンゾウはナギの応急処置を行う。カカシもまた、他の負傷者の応

急処置に回っている。

「ナギ、大丈夫か?とりあえず、止血はしたが」

「大丈夫だ、悪いな、迷惑かけて」

「いや・・・。お前のせいじゃない。今のは僕が悪い。後方援助のタ

イミングが遅れた」

 

他の負傷者の応急処置を終え、カカシもナギのそばにいく。

「すいません、カカシ隊長。みっともない事になって」

 ナギが座り込んだまま、カカシに頭を下げた。

「いや・・・、テンゾウが悪い。援助のタイミングがずれてた。テン

ゾウ、一瞬の隙がこういう結果を招く。お前はそんなこと充分判って

いるだろう。何をやっている」

カカシは、テンゾウに向きなおり、注意を与える。

「すいません」

テンゾウが苦渋の表情で俯いてうなだれている。

 

冷静沈着で、抜群のセンスを持っているテンゾウ。カカシはもちろ

ん判っている。そのテンゾウに心の隙を与えたのは昨日の出来事だと。

自分の態度が、テンゾウを苦しめている。部隊長として注意を与えな

がら、カカシは胸が痛む。

 

 

しばらくすると、回収班及び医療班が到着した。ナギはじめ負傷者

は医療忍に託し、捕虜及び遺体を回収班に引き渡す。それらの一行が

里に向けて出発すると、それまでの喧騒が嘘のようにあたりは静寂に

包まれる。

山の中、鬱蒼とした辺りは、カカシとテンゾウ以外、動くものはな

い。時折、遠くで鳥が鳴く声のみが響く。

 

テンゾウが意を決したように、カカシに近づく。

「今日は本当にすいませんでした。僕の判断の遅れでナギに怪我

を・・・」

 

カカシは直接答えず、近くの木の根元に座った。指でテゾウにも座

るように合図を送る。テンゾウは僅かに躊躇した後、カカシから少し

距離をとり座る。

「・・・お前は何に気をとられてた?」

「それは・・・」

「・・・俺か?」

「・・・はい」

 

素直に認めるテンゾウに、カカシは心を揺さぶられる。忍としての

能力の高さ、壮絶な過去を抱えながら、木遁という後付の能力を使い

こなす度量。そして垣間見せる二十歳の不安定さを残す青年の顔。

自分はどうしたいのだろう。ゲンマという包む込むような優しい大

人の恋人がいる。それなのに、四歳年下の青年が自分の事で、こんな

にも苦しむ青年が、愛しい・・・。

もしテンゾウがこれきり離れたら、そう思うだけで、まるで半身を

引き裂かれるような、胸の痛みを感じる。こんな感情は初めてだ。ゲ

ンマと付き合う時に、こんな感情に捉われたことはない・・・。

 

 カカシは、テンゾウをまっすぐ見つめる。

「テンゾウ・・・。俺の事好きか?」

それまでうなだれて座っていたテンゾウが、きっと顔を上げた。

「今更その質問ですか?僕をからかっているんですか?」

「いや・・・からかうつもりはないよ。ただ・・・」

「ただ、なんですか?」

「どこが好きなのかなと思って」

 

ふいにテンゾウが印を組み、カカシは瞬間に、もたれていた木から

伸びた木のつるに、拘束される。

「・・・テンゾウ・・・なんだよこれ」

カカシは、溜め息混じりに木遁で拘束された自分を眺めた。

 

テンゾウはカカシのマントの結び目を解く。カカシの首筋には、ま

だ消えきらない情事の痕の薄紅い模様が残る。カカシの頬と肩を押さ

え、ゲンマが残した紅い痕の上に、歯を立てる。

「前に、力づくなんて最低だって言ってただろう」

拘束され、抵抗できないカカシが静かにテンゾウをたしなめた。

 

 テンゾウが、カカシの首筋から唇を離す。

「あなたを里に戻したくない。あの人の元に戻すくらいなら、このま

ま、拘束しておきたい・・・。どこが好きなんてそんなものじゃない・・・」

そう言って、テンゾウはカカシの首に腕を回し抱きしめた。その腕

が僅かに震えており、カカシは眼を閉じ、テンゾウの溢れるほどの想

いが、自分を満たし、かたどっていくかのような錯覚に襲われる。

 

「テンゾウ・・・。俺の全部が好きなら、顔も好きか?」

「え・・・?それは・・・もちろん・・・」

カカシの唐突な質問にテンゾウは一瞬戸惑う。

「腫れて、酷い顔になっても好きでいてくれるか?歯の一本くらい折

れるかも・・・それでも好きか?」

 

テンゾウがカカシの首から腕を離し、カカシの顔をまっすぐ見つめ

る。

「先輩・・・、それは・・・」

「ゲンマにちゃんと話す。殴られても、俺の気持ちを伝える。これ、

解いてくれ。必ず、お前の元に戻るから・・・」

 

                            続く