カウンター 茶の間

感謝の庭荘

 

The boy meets the boy 

 

7話)

テンゾウはベッドにカカシを押し倒し、そのまま首筋に唇を這わせ

る。

 

その余裕のない様子が愛しくすらあり、カカシは一瞬、このまま流

されようかとの想いに捉われる。

しかし、ゆっくりと手を伸ばし、自分の胸を弄るテンゾウの右手を

掴んで、その手の動きを止めた。

「やっぱ、それはまずいでしょ。」

テンゾウがカカシを見つめる。

 

「先輩は・・・」

テンゾウが何かを言いかけた時、ガチャリと鍵の音がした。二人の

間に緊張が走り、カカシは身を起こす。

 

ゲンマは鍵を開け、そのまままっすぐ中へ入った。カカシはいない

ものと決め込んでいた。心のどこかで居れば自分に会いにくるはずだ

と、来ないのは任務なのだとそう考えていた。

 

部屋に入り、ゲンマはベッドに並んで腰掛ける二人を目にする。カ

カシと、暗部の後輩だという茶色い髪の男。二人揃ってシャワー後の

ような風情で、後輩という男はカカシの普段着を着ている。カカシは、

こちらを凝視していた。

 

ゲンマは部屋の入り口で立ち止まり、この光景の解釈に思考を巡ら

せる。何でもないことなのかもしれない。後輩が遊びに来て、シャワ

ーを使うことだってあるだろう。

自分は27歳のいい年をした大人で、取り乱したりする男ではない。

でも・・・、そう、本当に失いたくないもののためには、みっともな

さも、分別も、クソくらえだ。

 

ゲンマは無表情のまま、つかつかとカカシのそばにより左手でその

髪を鷲掴み、右手で頬を押さえ込み乱暴に口付けた。

 

カカシはゲンマの突然の行動に驚き、強く振り払う。

「な、何する!?人が居るのに・・・。」

ゲンマは、カカシの抗議にも質問にも答えず、自分を振り払ったカ

カシの肩をさらに強い力で掴み、右手をまるでカカシの首を絞めるか

のように、その喉付近に押し当てカカシを上向かせた。

「どうして来なかった?自分から来ると言っただろう。」

 

ゲンマの表情は無表情で、しかし自分の喉に当てた苦しさを覚える

ほどのその右手の強さが、激しい怒りを内に滾らせている事を、カカ

シに知らしめる。

 

普段穏やかで、優しいゲンマをこれほど怒らせているのは自分のせ

いだと自覚したカカシは、うまく答える術がない。されるがままに、

ゲンマの手を振り払う事も出来ないで自分の行動を逡巡する。

ゲンマの家に行くと言ったのは、自分なのだ。実際毎日任務はあっ

たが、遠征ではなく行こうと思えば行く時間は取れた。行かなかった

のだ、自分の意志で・・・。

どうして、行かなかったのだろう・・・。ゲンマが怒るのも無理は

ない。

 

「こいつを部屋に呼び込む暇はあっても、俺のところに来る暇はなか

ったのか?おい、答えろ。」

ゲンマは無意識に右手に力が入り、カカシが苦痛の表情になる。

「苦しい・・・。」

 

それまで、驚きのあまり固まっていたテンゾウが慌ててゲンマの手

をカカシの首から振り払った。

「乱暴するな!」

 

テンゾウによって、カカシから離されたゲンマが、ほんの一瞬、テ

ンゾウを睨んだが、すぐに無視してカカシの身体をベッドの上に押し

倒す。そしてテンゾウの事など、まるでいないかのようにカカシの上

に覆いかぶさった。

「ゲンマ!止めろ!」

カカシが再び抗議の声をあげるが、それにも答えず馬乗りになって

カカシを押さえ込む。

 

「ゲンマ!人の前で、何でこんな・・・。」

カカシがさらに抗議すると、ゲンマがテンゾウの方を振り向いた。

「坊主。人の情事を見る趣味があるなら、俺は別にいてもらっても構

わんぜ。」

 

テンゾウの顔色がサッと蒼ざめる。

ゲンマに馬乗りになられて、その動きを止められたカカシは、いつ

も優しく、激しい感情を見せる事もない落ち着いたゲンマのその沸点

を越えた怒りに直に触れ、そしてその怒りを呼び起こしたのは自分な

のだと思うと、それ以上の抵抗を諦める。

「テンゾウ・・・。ごめん・・・。帰ってくれ・・・。」

 

カカシの言葉に、テンゾウは全身がこわばった。

「カカシさん・・・!」

呼びかけるが、カカシはもうゲンマの下で抵抗する素振りも見せず

硬く目を閉じて、テンゾウの方を見ることはなかった。

 

ヨロヨロと後ずさった後、向きを変え玄関に向かう。玄関の扉を開

ける前に、もう一度振り返ったが、カカシに覆いかぶさるゲンマのシ

ルエットが見え、テンゾウは外へ飛び出した。

内心早くその場を立ち去ろうと思うが、足が前に出ない。閉まった

扉にもたれて、そのままずるずると廊下に座り込み、顔を両手で覆う。

 

ほんの少し前まで自分が触れていたあの人が、今、この扉の向こう

であの男に抱かれる。それは判っていたことなのだ。しかし、カカシ

と過ごす時間が楽しくてまるで、その事実から目を伏せていた。

カカシは、自分といる時本当に楽しそうで、屈託なく良く笑った。

どこかで期待していた。もしかして、好きになってもらえるのではな

いかと、自分を選ぶのではないかと・・・。

カカシは強い。抵抗する気があるなら、あの正規部隊の男が相手で

もそれは可能だろう。でも、カカシはしなかった。

あいつを選んだのだ。自分ではなく、あのゲンマと呼ぶ男を・・・。

 

目の前で大切なものを奪われたその喪失感、全身を覆う焦燥感、半

身を引き裂かれる想いに身体中が軋みをあげ、テンゾウはしばらくカ

カシが、自分ではない男に抱かれているその部屋の扉の前から、動く

事が出来なかった。

 

                          続く