The
boy meets the boy
(3話)
カカシとテンゾウは、西の国境警備に就いていた。ドーム型の結界
に守られている木の葉の里に、そうそう常に敵の侵入があるわけでは
ない。何もなければ、国境警備は穏やかに過ぎていく任務といえる。
「先輩。僕、今日誕生日なんですよ」
「あ、そういえば夏生まれだって言ってたな」
「ええ、8月10日」
「ええと、20歳だよな。若いねえ。じゃあ祝いしなきゃな。明日の
任務明け、酒でも奢ってやるよ」
「それは嬉しいですが・・・もし祝いをしていただけるなら誕生日の
今日がいいです」
「今日つっても、任務中だしな。あ、クナイとか?」
「リクエストしてもいいですか?」
「何?」
「キスして下さい」
「・・・・・ええと、真面目な顔して冗談言うのが流行ってるのか?」
「冗談のつもりはないです。同性なんて問題外ですか?」
「いや・・・それは別に・・・」
「じゃあ、男と付き合ったこともありますか?」
「一人だけ・・・。今、付き合ってるよ」
「随分、正直ですね」
「お前が聞いたからだよ。わざわざ、自分から言うつもりはないけど
ね。嘘言う必要もないからな」
「僕はそれでずっと悩んでました。この気持ちを伝えたところで、同
性から告白しても、先輩には嫌われるだけだろうと思ってたので・・・」
「テンゾウ・・・」
「僕は・・・あなたが好きです。ずっと前から」
「でも、俺は付き合ってる奴がいるんだよ」
「ええ、でも今までの僕は、スタートラインにつくことを諦めていた
ので、それに比べたらあなたに今相手がいることは僕には、諦める理
由にならないんです」
カカシはまっすぐに自分を見つめる瞳に一瞬引き込まれる。告白さ
れた事は、割と多い方かもしれない。女はもちろん男に言われた事も
何回かある。とりあえず付き合ってみるなんて自分には出来ない。そ
の気がなければすぐに断ってきた、いつでも。期待を持たせるほうが
酷だと思うから。
それなのに、その瞳に見つめられ、すぐに言葉が出てこない。
人に心を開く事は、自分にとって大変な労力が要る。おのずと付き
合いも制限してきたが、テンゾウの事はかなり目をかけて、自分から
家に呼んだりごはんを食べに行ったりしてきた。
実験で初代の遺伝子を組み込まれたという過去を持ちながらまっ
すぐにしなやかに、その技、木遁を使いこなしやすやすと越えたわけ
ではないだろう葛藤を外には見せないテンゾウ。
そんなテンゾウの事を、好ましく思っていた。テンゾウもまた、自
分を信頼してくれている事を感じ取り、安心して、この背中に位置つ
けるツーマンセルの相手に指名もしてきた。
でもテンゾウは、信頼以上の気持ちを自分に抱いていたのだ。
「前向きだね。お前・・・」
カカシがようやく紡いだ言葉は、拒絶ではなかった。
「ええ、嫌われる事はしたくありませんが、それがクリアできるので
あれば、諦めたくはない。僕は、諦めない事で生き延びてきましたか
ら」
テンゾウが微笑んだ。
大蛇丸にさらわれた60余人に上る子どもたちの中で、唯一、その命
を存えたテンゾウ。その過酷な状況を生き延びるのに、どれ程の強靭
な精神力が必要だったのだろう。
カカシが、テンゾウの笑顔に隠された過去に思いを寄せていると、
ふいに腕を掴まれる。
「祝い、していただけるんですよね?」
「え・・・・・」
カカシが返事をする間もなく、腕を引き寄せられテンゾウの唇に覆
われる。戸惑うまもなく、口内を蹂躙される。舌を絡めとられ、息つ
く間もない。
抵抗しようと思えばいくらでも出来る。突き飛ばす事など容易いの
に、何故か出来ない。
長い口付けからようやく開放し、テンゾウはカカシを抱きしめる。
「ありがとうございます」
抱きしめたまま、テンゾウが囁く。柔らかな低音がカカシの耳に響く。
自分でもおかしいほど、カカシはされるがままになっていた。
4歳も年下の男に抱きしめられているというのに、嫌悪感などとは程
遠い、優しい心地よさがカカシを包む。
風が二人を掠めるようにさわさわと吹き抜け、それを合図のように
テンゾウはカカシを離した。
「さっき言われてた、明日の任務明けの酒もお願いしますって言った
ら、ずうずうしいですか?」
「相当、ずうずうしい」
「はは・・・。そうですね。じゃ、僕が奢りますので成人祝いの酒、
付き合ってもらえませんか?」
「・・・いいよ。俺が奢るよ」
カカシの心にふとゲンマが浮かぶ。テンゾウとは、元々一緒に御飯
を食べに行ったりしていた。告白された所で、その事を変える必要は
ない。
そう、自分がテンゾウの誘いを断らないのは、ただそれだけだ。妙
な言いわけが頭をよぎり、そんなことを考えた自分に戸惑う。