The
boy meets the boy
(4話)
翌日、国境警備の任務明け後、カカシとテンゾウは一旦帰宅し、夜
にカカシが指名した店の前で待ち合わせた。
テンゾウは早くに着いていたが、カカシは遅れて現れる。
「ごめーん。待った?」
「ええ、わりと」
「嘘でも、僕も今着いたとこで・・・とか言わないのか?」
「それは、待たせて悪いと反省している人にはそう言って気を使わな
いようにしてあげるべきかもですか、先輩は別に悪いと思ってないで
しょう。」
「いやいや、待たせたら悪いと思って走って来たのに、判らない?」
「汗の一つもかいてらっしゃらないですけど。」
「走りすぎて、汗は飛んだんだよ」
「ハイハイ。中に入りましょう」
「信じてないのか?ちょっと・・・」
テンゾウは、カカシの戯言に適当に見切りをつけ、カカシの腕を掴
んで店の中に入る。
途端にどこからか声がした。
「カカシさん!」
それは、暗部仲間の岳と紋だった。
「よ〜」
カカシが手を上げ合図する。
「うわ偶然だな〜。カカシさんと会えるなんて。良かったら、俺たち
と一緒にいかがですか?」
カカシを信望する忍は多い。テンゾウより2歳ほど上の岳と紋もそ
うしたカカシ信望者だった。
「いいよ。今日はテンゾウの誕生祝なんだ。人が多い方が、賑やかだ
よな、テンゾウ」
カカシが振り返ると、不愉快をその表情から隠さないテンゾウがい
た。
ちょっとまずかったかなと、カカシが思う間もなく、カカシに会え
た事で喜んでいる岳と紋に席を用意され、結局一緒に宴会が始まる。
さらには元々暗部御用達の店であったため次々に見知った顔が集
まり、カカシが居ることもあり、皆が一緒にと申し出て、すっかり賑
やかな宴会となった。
「テンゾウ、成人だって?」
「はい」
人が増え、席すらカカシと離れたテンゾウがむすっとしたまま、暗部
仲間の質問に答える。
「もう大人だな、あっちの方はどうだ?」
「はあ・・・。今は特定の人はいませんね」
「くの一の美咲が、お前の事いいって言ってたぜ。お前は、どんなタ
イプが好きなんだ?」
「色白で、背の高い細身で筋肉質がいいですね」
「はあ?色白細身は判るけど、筋肉質がいいのか?女は柔らかいほう
がいいだろう」
「以前はそうだったんですけど、今は好みが変わりました」
「そうか。好きな奴がいるんだな?筋肉質って事は、やっぱり忍か?」
「ええ、忍の中の忍というか・・・」
テンゾウが答えながらカカシの方を向き、二人目が合う。
カカシは何だか落ち着かない気持ちになり、目を逸らした。テンゾ
ウがさっきから言っているのは、自分の事だろう。恥かしい奴と思い
ながら、悪い気はしない自分がいる。
昨日、テンゾウに口付けされた唇を指でなぞり、今更ながら気恥ず
かしさを感じ、目を伏せた。
テンゾウの成人祝いというより、カカシを囲む会となった宴会がお
開きになり、カカシとテンゾウは連れ立って歩いていた。
「今日はありがとうございました。半分だけ、嬉しかったです」
「おい何だよ、半分て」
「僕は先輩と二人きりが良かったんですよ」
「ああ、そうか・・・。ごめん」
「あ、先輩が謝る事じゃないですよ。僕こそすいません。先輩を独占
したかったもので」
「はは・・・。お前そんな積極タイプだったかな」
まっすぐ好意を向けるテンゾウに、カカシはつい笑ってしまう。
テンゾウがカカシを振り返る。
「昨日も言いましたが、気持ちを伝える事を諦めていたので、せっか
く告白できた今は、積極的にいこうと思ってます」
「諦めてたのに、どうして言う気になった?」
「正直に言うと、火影様からの巻物を先輩に届けた時、僕見たんです。
先輩と恋人らしき正規部隊の忍を・・・」
カカシは、記憶を辿る。テンゾウが家に巻物を持ってきた日、確か
ゲンマが遠征に行く前で、道端で口付けされたことがある。あの時の
事を見られていたのだと悟る。
「性別に先輩が拘らないという事は、僕にとって重要な事です。付き
合っている人がいると言う事実よりも、それが確認できてかえってす
っきりしました。すいません・・・。先輩にすれば、迷惑な話ですよ
ね」
カカシはすぐに答えられない。恋人がいる現状を考えればテンゾウ
の気持ちは迷惑なものだ。なのに、心のどこかでテンゾウとする会話、
一緒にいるこの時間を楽しいと思う気持ちがある。
その時二人が歩く道に、雲が切れて月明かりが差し込んだ。
「綺麗だな」
「綺麗ですね」
二人同時に夜空に輝く月を見て、同時に声を出す。言葉が被さり、
二人顔を見合わせて笑った。
同じものを同じに美しいと感じる、感性の重なりが心地よい。カカ
シはあらためて、テンゾウと過ごす時の楽しさを感じた。