戻ったのは
あなたがいたから、
ただそれだけ。
どんな手を使っても、
どんなに憎まれても、
逃さない、
離さない、
あなたは、俺だけのもの。
新月の闇が降り注ぐ
その一
「カカシさん。買物してから行きます。」
「じゃ、ナスお願いね。」
「ハイハイ。わかってます。サンマもね。」
テンゾウは、苦笑しながらカカシに近づいた。
素早い動きで、カカシの頬を押さえ、口布をサッと下ろし優しく口づける。
「バ、バカ、こんな通りで。」
カカシが驚いて、テンゾウを手で押し返し、抗議する。
「僕は誰かに見られたって一向に構いませんけどね。ま、久しぶりだから、今夜の予約、という事で。」
「オヤジ・・・。」
「はは・・。じゃまた後で。」
テンゾウは、商店のある方へ向かって行った。
カカシはその姿を見送り、幸せな気分で自分の家へ歩を進める。
テンゾウとは、10年以上付き合っている恋人だ。
結婚という形が取れない、同性同士の秘密裏の恋。
それでもこうして長く続いてきた。
きっと、これからも続いていく。
角を曲がると、サスケが立っていた。
カカシはちょっとビックリする。
「サスケ。どうした、道の真ん中で突っ立って。」
「あんたを待ってたんだ。今夜、俺の家に来ないか?晩飯作るから。」
「いあや、サスケの手作り料理は魅力だけど、今夜は先約が・・・」
「ヤマト隊長か。」
「う、うん。」
カカシは返事しながら、戸惑った。もしかして、別れ際のキスを見られてたんだろうか。
「じゃあ、明日はどうだ?任務、入ってるか?」
明日は休みだが、久しぶりに休暇が揃ったテンゾウと一日ゆっくり過ごす予定だった。
でもまあ、晩御飯だけならいいか、と思いなおす。
「うん、明日の晩なら、いいよ。」
「じゃ、6時に待ってる。うちはの家で。」
サスケが木の葉に戻って、2年が経つ。
抜け忍としての批判を口にするものもあったが、仲間が彼をかばった。
もちろん、カカシも、サスケの処分が穏便に済むよう、最大限の努力をし、
現在、サスケは火影直轄の暗部として活動している。
やはり、カカシにとっては、サスケはかわいい部下だ。
相変わらず、人と接触は持たないが、ナルトやサクラ達とは話はしているようだし、
かつての師である、自分をこうやって食事に誘ってくれるのだから、
少しずつ、彼なりに、里になじもうとしているのだろう。
テンゾウとの別れ際のキスも、見られてはいなかったんだとカカシは思う。
ぶっきらぼうさは普段どおりで、サスケの様子に変りはなかった。
翌日の夕方、カカシはサスケの家に向かうため、仕度する。
「じゃ、テンゾウ。行ってくる。そんな怒るなよ。晩御飯ご馳走になるだけだから。」
「いいですよ。僕よりも大事な、元教え子のところにさっさと行ってください。」
子供の様に拗ねる愛しい恋人にキスをして、カカシは玄関をでた。
サスケの家で夕食後、広いうちはの本宅の庭を見ながら、カカシはくつろいでいた。
「あんたと、ヤマト隊長ってどういう関係?」
サスケが、何の前触れもなく聞く。
カカシは、固まった。やっぱり、昨日のキス現場を見られていたんだと思う。
「サスケはこの間、19になったんだよな。」
「ああ。」
嫌われるかもしれないと思いながら、カカシは教え子にウソをつくのはやめようと思った。
19なら、そういう恋愛もあると、理解してくれるかもしれない。
「ヤマトはね、俺の恋人。俺が暗部にいた頃から、10年以上付き合っている。」
サスケのこめかみがピクリと動いた。
カカシは、明らかに表情が険しくなった、サスケの顔を見ながら、
自分の師が男と付き合ってるなんて、そりゃビックリするよね、と内心思う。
「知ってたけど、あんたから直接聞くと、さすがにきついな。」
「え?」
「俺が里に戻ったのは、あんたがいるからだ。」
「は?」
「あんたと、ヤマトの事を知って、諦めようと思った時期もあったが、やっぱり、無理だ。」
カカシは、サスケの言葉が意外すぎて、話についていけない。
「俺は、カカシが好きだ。昔から、今も、これからも。あんたは俺が手に入れる。」
「ちょ、ちょっとサスケ。な、何言ってんの?」
「言葉どおりだ。あんたを俺のものにする。」
「俺のものって言っても、だから俺にはテンゾウが・・・。じゃなくて、サスケ、わかってる?俺、男だよ。お前より14年上の。」
カカシの言葉に、サスケはまともには答えなかった。
「里に戻る時も、ヤマトとの事を知ったときも、何度も何度も考えた。
間違ってる事は分かってる。あんたが辛い思いをするのも分かってる。それでも、俺はあんたが欲しい。
手に入れるため、準備して、今日の日を待ってたんだ。カカシ・・・、俺を見ろ。」
「何・・・?」
カカシは戦いにここへ来たわけではない。
かつての教え子に誘われて、夕食を食べに来ただけだった。
突然、好きだと言われて、訳がわからない状態のまま思わず、サスケを見る。
不意に、視界が暗転し、カカシは耐えようがない程の不快感に包まれた。
苦痛、怒り、悲しみ、絶望感、焦燥感、およそありとあらゆる負の感情に支配された
このチャクラに、カカシは覚えがあった。
月読・・・・・。
カカシの目の前には、板に手足を大の字に広げた形で拘束され、寝かされているテンゾウがいた。
その前には、サスケ。手にクナイを持っている。
『この世界では俺が全てを支配する。お前が俺のものになると言うまで、こいつの手足にクナイを一本ずつ刺していく。』
いうまに、サスケがテンゾウの右足にクナイを突き刺す。
叫ぶテンゾウ、飛び散る血、更に左足にクナイが突き刺される。
『やめろー!やめてくれ!そんなものを俺に見せないでくれ!』
カカシが幾ら叫んでも、サスケは無表情にテンゾウの身体にクナイを突き刺していく。
『言うんだ。カカシ。ヤマトと別れて、俺のものになると言え!』
次々とテンゾウの身体にクナイが打ち込まれ、そのたびにテンゾウは断末魔の叫びをあげる。
『やめろ・・・もう、見たくない・・・、聞きたくない・・・、わかったから、やめてくれ・・・。』
視界が再び変わり、目の前にはサスケの顔があった。
「カカシ、意識を失う前に聞け。お前が俺のものにならなければ、今の光景が現実のものとなる。
俺にあいつを殺されたくなかったら、お前は俺の言うとおりにするんだ。何もかも、俺の言うとおり・・・」
悪夢のようなサスケの声を聞きながら、カカシは意識を手放した。