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睦みの庭荘

 

 

深海の記憶1

 

 

「キスしようか」

 

 ソファでゴロゴロと寝そべりながら愛読書を読んでい

たカカシが、顔をあげ窓の外を見つめた。

空はどんよりと暗く、朝から雨が降り続いている。目線

を室内に戻し、テーブルに向かって設計図を広げていたテ

ンゾウに声をかけた。

 

「キスだけ?」

 

 カカシの声に振り返ったテンゾウが聞き返す。

 

「他に何するのよ。」

 

「言わせます?」

 

「まだ昼前だよ」

 

「誘ったのは貴方でしょう」

 

「俺はキスしようって言っただけ」

 

 テンゾウはすでにソファのそばに来ていた。カカシから

愛読書を取り上げ、寝そべっていたカカシに覆いかぶさる

ようにしてその唇をふさぐ。

 

 雨が少し強くなり、時折庇を越えて、窓ガラスにぴしゃ

ぴしゃと叩きつける。

 

 耳から首筋、更に鎖骨へとテンゾウはカカシへの愛撫を

施す。カカシは瞳を閉じ、テンゾウに身を預けている。

 

 

 

 テンゾウがカカシの部屋に来たのは昨夜のかなり遅い

時間。長らく長期任務で里を空けていたので、一旦は自室

に戻ったがどうしても会いたくなり、仮にカカシが不在で

も駄目元と、この部屋を訪ねた。

 

 暗部のテンゾウと、正規部隊で下忍の上忍師となってい

るカカシとはすれ違いが多い。

時間的に言えば暗部所属のテンゾウ方が厳しく、夜間の

任務、里外の任務も珍しくない。失恋覚悟で告白したカカ

シとは両想いになれたが、現実に共に過ごせる時間は少な

い。片思いであったが、暗部時代は任務そのものが一緒に

いる時間だったので、恋人になれたのに実際は会えないと

いう日々は結構辛い。

 

 遅くカカシの部屋を訪れ、ドアの隙間からの明かりで部

屋に居るのは確認出来た。ならば一目顔を見て、自分が里

に戻った事を伝えようとドアをノックする。

 

「すいません。遅くに」

 

「いいよ。任務無事に終わったんだな」

 

「はい。露岳の長期任務から今日帰って来ました。あの、

明日は任務予定ありますか?」

 

「いや、明日は休みを貰ってる」

 

「僕はしばらく休みがとれるんで、明日来てもいいです

か?」

 

「・・明日・・・いいよ・・て言うか・・・泊まっていけ

ば?」

 

「でも・・・いいんですか?」

 

「しないけどね」

 

「え?ああ、それは・・・はは・・・」

 

 先制して夜の営みは断られたが、テンゾウも長期任務帰

りで身体は疲れ切っていた。今日はそばにいる事が出来る

だけで、この疲れも癒されていく気がする。

 ただ、ほんの一瞬、明日に来てもいいですかと言った時

に、カカシが戸惑ったように見えた。そのすぐ後に泊まっ

て行けばと誘ってもらえたので、気のせいかと思いなおす。

用事があればはっきりと駄目と言うだろう。テンゾウに対

し、遠慮する様な人でも立場でもない。

 

 

 

 長期任務で疲れていたテンゾウはぐっすりと眠り、朝は

カカシの入れたコーヒーの香りで目が覚めた。

 

「うわ、すいません。寝すぎちゃいました」

 

 テンゾウは慌てて飛び起き、リビングに向かう。一緒に

寝ても必ずテンゾウが先に起き、朝ごはんはテンゾウが用

意する、そんな図式がいつの間にか出来あがっていた。恋

人となっても後輩気質は抜きらないと自嘲してしまう。

 

「いいよ・・・。疲れてたんだろう。トーストしかないけ

ど、いいか?」

 

 カカシは窓際に立ち、降り始めた雨空を見ていたが、テ

ンゾウが起きると振り返り微笑んだ。

 

「はい・・・あ、いえ、自分でします」

 

「そ。じゃ、コーヒーだけ入れてやる」

 

 テンゾウが食パンをトースターに入れている間に、カカ

シはサイフォンから、もう当たり前のように存在している

テンゾウのマグカップに淹れたてのコーヒーを注ぐ。

 

 

 そうして、カカシはソファに寝そべりいつものイチャパ

ラシリーズを読み始め、テンゾウは朝食を終えると、木遁

四柱家で作りだす家の設計図を考えていた。さっき、カカ

シに『キスしようか』と声をかけられるまで。

 

 テンゾウの居るテーブルから、カカシの居るソファは背

中側になる。振り返らなくても、カカシが時折イチャパラ

から目を離し、雨が降り続く窓の方を見つめている、その

気配をテンゾウは感じ取っていた。

言えばいいのに。自分に対し、遠慮する様な性格でも立

場でもないのに。

 

 

 

 昨日は気づかなかったのだ。長期任務が終り、久方ぶり

にカカシに会えた、テンゾウにとって昨日はそういう日で

それ以上の意味はない日。そして任務中の寝袋ではなく、

久々に布団にくるまれ少しばかり寝過ごし、急いで起き、

ベッドサイドの写真立てが視線に入り、そして思い出す。

 今日は1115日、写真に写る唯一の女の子、リンの

誕生日という事に。

 

 

                            続く