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移ろいの間

いつかケルンで

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彼との出会いは、高校二年に進級する時の春休み、僕が家

庭教師をしている春野家の娘、サクラの誕生祝いのパーティ

に招待されていた時だった。いや、僕自身はその時以前から

彼の事を知っていた。彼は同じ高校に通う一年上の先輩で、

同じ学校なら、彼の事を知らない人はいないだろうという有

名人だったから。

 

幼い時に父を亡くした彼は、学生にしてすでに広大な農地

や畑地を持ち、財務力では企業の財閥に負けない、はたけ侯

爵家の当主となっていた。その事だけでも、噂のネタになる

事だったが、その容貌でも、人の目を引く。

細い線、白い肌、美しい容貌、男ばかりのむさ苦しい男子

校で、どこか一線、他の者とは違う空気を醸し出している。

中学生のころ怪我をしたらしく、左目近くに傷跡があったが、

そんなことは、彼の整った顔立ちを否定するものではなかっ

た。

 

少なくとも学年も違い、身分も貴族でもなんでもない医者

の家系の僕と彼と、言葉を交わす機会なんて、あの時の出来

事が無ければ本来ありえなかった事なのだ。

 

僕の家は代々、医者をしていたが、やはり幼い時に両親を

亡くし、親が残してくれたある程度の蓄えと、成績は常にト

ップクラスを維持していたので、奨学金制度も利用して学校

に進学していた。幼い頃は、遠縁にあたる地丸家に世話にな

っていた時期もあったが、僕は、地丸のおじとはどうも折り

合いが悪く、ある程度大きくなってからは通いの手伝いは雇

っているが、生家で一人で暮らしている。

ただ、蓄えを切り崩す生活を送っていたので、少しでも足

しにればと、両親の生前の知り合いから、華族のお嬢様であ

る、春野家の娘の家庭教師のアルバイトを紹介してもらい、

その縁で、誕生日会にも招かれていた。

 

14歳の誕生日を迎える娘を、溺愛しているらしいその父親

は、盛大にパーティを開き、名門の子息や令嬢を多勢招待し

ていた。

愛する娘に少しでも有利な繋がりが欲しいのだろうという

事が、見てとれる。

帝大進学率ナンバーワンを誇る自分の高校の同級生や、先

輩達も何人か招かれていて、言葉を交わしたりもしたが、ほ

ぼ、貴族かあるいは有名財閥の子息や令嬢ばかりで、その取

り繕った会話に、僕は辟易し始めていた。

 

 

春野家は広大な屋敷で、僕はサクラに断って庭を散策する

事にした。すでに、あたりは日が暮れかけていたが、それも

また風情だと思いながら、屋敷を出て、きれいに整備されて

いる庭を歩く。

さらに、屋敷の裏のほうへも足を伸ばす。

誰もいないと思った裏庭で、僕の耳にかすかに話し声が聞

こえてきた。ちょうど大きな木が立っており、思ずその木の

前で立ち止まると、少し先に二人の男が、洋風に装飾された

ベンチに座っていた。二人の背中側の位置で、木の陰になっ

ている僕の事に、二人は気づいてない様子で、やたら体格の

いい方が何やら真剣に、もう一人のほうに話しかけていた。

話しかけられているほうは、興味なさそうに反対の方を向

いている。

 

少し距離があったので、会話が全部は聞き取れないが、と

ころ所耳に届く。

「な、・・・だろう。悪いようにしない。」

「父に・・・なして・・・、なあ、俺の気持ちは・・・」

「なあ、カカシ・・・」

 

僕は、興味なさそうにしている方が、学校内でも有名なは

たけカカシとわかり、何となく、その場から動けなくなっ

てしまった。

すると、さっきからずっと話しかけていた体格のいい男が

カカシさんにいきなり抱きつく。カカシさんは振り払おうと

もみ合いになり、男は、少し距離の離れている僕の耳にもバ

シンとはっきりと届くくらいの強さで、カカシさんを引っ叩

いた。

その弾みで倒れこんだカカシさんに男は馬乗りになる。訳

が判らないまま僕は反射的に駆け出していたが、距離が離れ

ていたので、駆けつける間にも男がカカシさんの頬を叩く音

が聞こえた。その場に着いたときには、カカシさんの上半身

のシャツを男が力任せに破いている所だった。

 

(二)