逢い見ての後の心にくらぶれば
【第一話】
三代目から暗部を抜け、上忍師になって欲しいと要請を
受けた。判ってはいたのだ、いずれこの時がくるのは。
うちは一族殲滅の生き残りの少年と、九尾を内に秘めた
木の葉の運命を握るであろう四代目の忘れ形見。
この二人の少年がアカデミーを卒業し、下忍となる時、
指導者となるのは、自分に与えられた使命。
もとより天才と言われて育った。幼い時から任務にでて、
木の葉の白い牙といわれた父が此の世と自ら決別した時
でさえ、俺は家にはいなかったのだ。
暗部に入っても、すぐに部隊長になった。いつも判断を
任され、部下の命を守るため、己が任務を遂行するため、
瞬時に判断を下し、それを当然の事として生きてきた。
それなのに今、こんなにも三代目の要請に、心が揺れる。
上忍師になる事が嫌なわけでも、暗部の仕事に執着してい
るわけでもない。
ただ、ツーマンセルを組んで自然と側にいる事を許され
たあいつと離れるのが辛い。
初めて会ったのは、あいつが十五で、俺が十九の時だっ
たろうか。
火影から、大蛇丸の実験体の生き残りという事は聞いて
いた。その実験により、初代火影の秘術、木遁が使えると
いう事も。
あいつは俺に会うことに凄く緊張していた。話しかける
と、猫のように瞳の形を真ん丸く変えてしどろもどろ。
「カカシ先輩の数々の功績は聞いています。あなたに逢え
て光栄です」
その言葉を言うのに、何回噛んだだろう。可愛いと思っ
た。
目をかけたと思う、自分でも。
かなりきついと思う任務にも、俺はベテランではなくあ
いつを連れて行った。鍛えたいとも思ったし、何よりあい
つの能力の凄さは、大概の暗部に負けてはいなかった。何
回か任務を一緒にしただけで、それはすぐに判断出来た。
実験による後付の木遁忍術以前に、忍として天性の能力を
備えている。
秀でた体術。ある意味、子供らしからぬ冷静沈着な行動
力。
もちろん、まだ未熟な所も多々ある。俺がカバーに入る
ような事も当然何回もあった。他の奴と違うなと思ったの
は、そんな時。
「大丈夫ですか?」
自分が助けられておいて、あいつは何故か第一声が、す
みませんでも、僕のせいで世話をかけて、でもなく、大丈
夫ですか?の言葉。
最初びっくりして、
「人の事を心配している状況じゃないでしょ。お前さんが
しっかりしなきゃ」
そう言って嗜めた。俺に言われてあいつはようやく
「すいません。そうですよね。次こそはご迷惑かけないよ
うにします」
と謝る。おいおい、順番が違うだろう、先に謝れよ、と思
ったがあいつはそれからも、決まってはじめに俺の事を気
遣う言葉を言った。
「大丈夫ですか?」
「平気ですか?」
「少し休みますか?」
初めて出会った時、俺が話しかけただけで、しどろもどろ
になっていたというのに、任務中のあいつは、違っていた。
新人は時々入ってくる。一緒に任務をすると皆、一様に
俺の能力に感嘆し、尊敬の眼差しで俺を見るというのに、
あいつはだけは違っていたんだ。
俺があいつを意識しだしたのは、あの任務があった時だ。
俺が二十歳になったくらいの頃だから、あいつは十六歳だ
ったか。
非合法の麻薬を造成していた村の殲滅任務。
其の村は抜け忍で構成され、まだ子供と思った村人さへ
も結局は訓練を受けた忍であり、俺たちに攻撃を仕掛けて
きた。しかも、そいつらの能力はかなりのもので、こっち
も本気で行くしかなかったのだ。激しい攻防の後に残る
累々とした屍。
もとより殲滅任務だった。ただ、現場の判断というもの
もある。こちらに被害が出ない事を最優先に考えた俺は、
結局殲滅命令をそのまま遂行した。
十代と思われる、かつて人間だった青年や少女。
俺は切り株に座り、屍を眺めていた。回収班が来るまで、
誰かが見ていなくてはならぬ。オビトが亡くなった時と、
同じくらいの年と思われる屍もあった。
ともに戦った暗部仲間は、村の井戸で手足の汚れを落と
している。
ふいに話しかけられた。
「先輩、大丈夫ですか?」
「・・・おまえねえ、いつも言ってるけど、お前に心配さ
れるような俺じゃない。まあ、チャクラ不足に陥る時はあ
るけど、動けない時は、動けないって言うし、今は大丈夫だ」
テンゾウが、心配そうに俺を見て立っていた。
「でも、大丈夫に見えないので・・・」
「そりゃ、多少は疲れてるけど。」
「先輩は、泣き方を知ってますか?」
「はあ?」
「泣く時は、唇噛んで押さ込むんじゃなく、声をあげて泣
くんです。そうしないと、泣いたことにはならない。辛さ
も痛みも、声を出して、外に出さなきゃ」
俺はテンゾウを見た。何を言ってるんだこいつは。
「俺、別に今泣いてないだろ」
「ええ、でも僕には、泣きたいのを我慢してるように見え
たので」
「何で、俺が泣くの?」
「なんとなく、泣きたいんじゃないかと思ったんです」
「訳わかんないこと言うなよ。ほら、お前も手足の汚れで
も落としてこい。返り血浴びてるじゃないか」
テンゾウは頭を下げて、井戸の方に向かった。俺はテン
ゾウの後姿から目が離せなくなった。テンゾウに話しかけ
られるまで、俺は確かに唇を噛んでいた。
別に泣きたいのを我慢してたわけじゃない。
任務で人を殺めるのは、もう何度も何度もしてきたことだ。
ただ、横たわる屍の中に、オビトが亡くなった時と同じく
らいの年齢の奴がいるなと思っただけ。
しかし、俺から離れるテンゾウの背中がぼやける。
俺の目から涙が零れる。俺は、本当は泣きたかったのか。
唇を噛んでたのは、我慢してたからなのか・・・。
泣きたい自覚なんて、まるでなかったのに・・・。
命令だったとはいえ、最終的に俺の判断で、村が一つな
くなった。
自分では気づかなかった。俺は泣きたいほど、辛かった
んだ・・・。
その日から俺は、テンゾウの事が気になり始めた。