逢い見ての後の心にくらぶれば
【第二話】
あの抜け忍の村漸滅の任務後、俺はテンゾウから目が離
せなくなった。あいつの忍としての能力の高さは、当初よ
り認めていたが、成長期のあいつは、さらにしなやかにそ
の実力を伸ばしていった。
確かに始めのころは、助けを必要とする場面もあったが、
一度注意をしたところは、確実に修正をかけてくる。前回
よりも今日、そして次の任務と、あいつは俺の見ている前、
眩いほど確実に成長を遂げていく。
いつしかあいつは、俺の部隊の中で欠かせない存在にな
っていた。俺が指示するまでもなく、確実に俺の思うとこ
ろに位置し、時に前に出て、時に後方支援に回り、木遁を
自在に繰り出す。
俺は気が付けば、そんなあいつの姿を目で追っていた。
あの術を見たのは、俺が二十一歳で、あいつが十七歳の
時だ。小部隊で戦っていた俺達の隊に新人が入っており、
俺はそいつのサポートにも気を配り、かなりのチャクラを
消費した。
任務完了後、その新人を含め疲れきっている隊のメンバ
ーに、自分は皆とは一緒に動けないから、先に帰るように
言った。
「え、でも隊長は?」
「救援の式を飛ばしたから、医療忍が来るまで野営して休
んでるよ。」
「じゃあ、我々も一緒に待ちます」
「みんなで待ったってしょうがない。お前たちも疲れてい
るが動けるだろう。時間を無駄にせず先に戻って任務の報
告をしろ」
「でも・・・」
テンゾウが、口を開いた。
「僕だけ残ります。先輩は動けないので、万が一敵に襲わ
れたら非常に危険です。僕一人なら、残ってもいいでしょ
う、先輩」
「・・・分かった。じゃあテンゾウだけ残ってくれ。以上、
散!」
正直、テンゾウが残ると言ってくれたのは、嬉しかった。
本当は野営の薪を焚くのすら、出来るかなと思う程、疲れ
きっていた。
皆の姿が見えなくなると、テンゾウが晴れやかな笑顔で
俺を見る。
「先輩に見せたいものがあるんですよ」
「・・・何?」
あいつは印を組み、信じられないものを作った。
「木遁!四柱家の術!!」
樹木が途切れた少し開けた空間に、突如として木造の家が
出来る。
あいつが俺を振り返る。
「どうですか?凄いでしょう」
「うん・・・。びっくりした」
俺は素直に驚きを口にした。
「先輩に一番に見せたかったんです。これは先輩の為に練
習した術だから」
「俺の為・・・?」
「ええ、先輩はすぐに無理するでしょう、今日みたいに。
チャクラ不足で倒れた先輩を、何とか楽に休ませてあげら
れないかと思って、それで考えたんです。大工が建てるよ
うに柱を組み合わせていくのは結構高度な技術で、これで
も練習を重ねたんですよ」
あいつはそう言って、俺の腕を自分の肩に回し、俺を支
える。
「さ、中に入りましょう。床は板張りなので、寝袋は要り
ますけど。それでも外よりはましでしょう」
マシなんてものじゃなかった。それは本当に見事な出来だ
った。
安旅館なんかよりずっと豪華だった。
中に入るとあいつは寝袋を出し、とりあえず俺をそこに
座らせる。
「食べ物は兵糧丸しかないですけど」
そう言って、兵糧丸と水筒を一緒に差し出した。
「・・・ありがと・・・」
俺は自分の鼓動がテンゾウに聞こえるのではないかと思
うほど、動悸が激しくなっていた。
驚きと嬉しさが心の中で、ごちゃ混ぜになる。俺の為に
練習した術・・・、テンゾウの言葉を何度も反芻する。い
くらなんでもそれはリップサービスだろう、と思う反面、
本気で俺の為に考え、練習したのかもしれないと思う。
あいつが水筒を渡してくれた時、俺の手と触れた。動悸
がさらに強くなる。そんな自分の心の動きに戸惑う。