綾なす想い
Chapter10
「シャワー浴びるか?」
カカシの身体から離れ、ベッドサイドに座ったオビ
トがカカシの方は振り返らず聞く。
「浴びたいけど・・・後で・・・」
すぐには身体を動かせそうになく、カカシはぐった
りとベッドに横たわったまま答える。
「ああ・・・そうか・・・。じゃ、休んでろ」
オビトはカカシに背を向けたまま立ち上がり、その
まま浴室に向かった。
オビトの背中を目で追いながら、カカシは身体を覆
う疲労感を自覚する。
考えなければいけないことはたくさんある。そもそ
もこの事態は会社の存続がかかっていることなのだ。
結果は出たのか?
オビトに尋ねなければならない。でも・・・。
微かにオビトが浴びるシャワーの音が聞こえる。カ
カシは目を閉じた。
疲れた・・・。
オビトがシャワーを浴びて寝室に戻ると、カカシは
眠っていた。
日焼けていた子供の頃と違い、本来の色白な肌に自
身がつけた愛撫の痕が散らばる。
少しの間カカシの寝姿を眺めて、オビトは手を伸ば
しそっと額にかかる髪を撫でると、羽毛の掛けふとん
を肩までかけた。
コーヒーの匂いが漂う。
あれ・・・?モカ切らしたと思ってたけど・・・。
俺買ってたのかな・・・?え?でも誰がいれて・・・?
カカシがパチっと目を覚ます。
瞬間今いる場所が判らず、周囲を見回す。
オビトがベッドサイドに座ってカカシを見ていた。
「オビト・・・」
「起きたか?」
「すまない、つい・・・」
「コーヒー飲むか?」
起き上がろうとして、カカシは自分が全裸でいるこ
と、そして身体の中心に痛みがあることに気づく。
「飲みたいけど・・・先にシャワー借りたい」
「わかった」
オビトはセックスを始める前にシャワーを浴びた時
に渡した室内着をカカシのそばにポンと置き、寝室か
ら出て行く。
カカシはオビトが渡してくれたその室内着を着て、
シャワールームへ向かう。
一連の出来事がまるで夢うつつだ。熱い湯を身体に
浴びて、そうして頭をすっきりさせたほうがいい。
カカシが二度目のシャワーを浴びて出てくると、オ
ビトはリビングのソファで座っていた。
「コーヒー飲むか?」
オビトがもう一度先ほどと同じことを聞いた。
「もらうよ」
カカシがソファに座るのと入れ違いにオビトは立ち
上がり、カカシのためにサイフォンからカップにコー
ヒーを注ぐ。
「大丈夫か?」
カップをカカシに渡しながら発したオビトの言葉の
意味が判らず、カカシはひと呼吸置いてから答える。
「・・・モカ?別にコーヒーにそれほどこだわりはな
いよ」
今度はオビトが一瞬キョトンとした表情を浮かべた。
「・・・じゃなくて・・・身体・・・」
「え?・・・ああ・・・」
カカシはオビトが何を聞いたのかようやく意味がつ
かめたが、気にしてくれていることが意外だった。随
分辛辣な言葉を浴びせられていたのに・・・。
「別にそれは・・・」
やわな女性とは違う。一眠りし、シャワーを浴びて
気だるさは随分解消された。
少しの間カカシを見つめていたオビトは静かに言う。
「今日はもういい。また明日同じ時間に来い」
カカシはコーヒーカップをテーブルに置いて尋ねた。
「オビト。同じことの繰り返しか?」
「セックスの相手をするのかって意味ならそうだ。最
初に言っただろう。お前の態度を一ヶ月見て合併を決
める」
カカシはあらためて聞く。
「給与水準を維持したまま、全員雇用だよな?」
「合併するならその条件は必ず守る。合併か、白紙撤
回か、お前が娼婦に徹するかどうかだ」
再び投げかけられる酷い言葉。しかしカカシはその
言葉で傷つけながら同時にそれを覆ってしまうオビト
の優しさを想う。
オビトは、その言葉とは裏腹にカカシの身体を気遣
って接していた。
カカシと違って、思ったことがすぐ顔に出る喜怒哀
楽のはっきりした、明るくてやんちゃでそして誰より
優しいオビトがずっと好きだった。
オビト本人は殊更機械的に処理しようとしても、元
来持つ優しさが漏れ出て来る。
リンに愛されながら守れなかった自分を責めるため
のこの行為も、カカシにとっては垣間見えるオビトの
優しさに隠してきた想いが溢れて、自身が溺れてしま
いそうだ。
しかし会社の仲間の将来がかかっているのも事実。
オビトの言うままに、従う。
オビトを想う気持ちを押し隠して、オビトに抱かれ
るのだ。