バックパックde名所めぐり 綾なす想い

螺旋の庭荘

 

 

綾なす想い

 

 

Chapter16

 

 

欧州で事業展開するにあたり、フランスを拠点にす

るのは社長であるマダラと話し合い、決定していた事

だった。

赴任する日をリンの誕生日、つまり墓参りに行く日

に決めたのはオビト自身。

 

 カカシとの別れをどんな風に迎えたらいいのか分か

らなかった。

 ならば顔を合わさなければいい。カカシは例年通り

リンの墓参りに行くだろう。その日のうちに日本を出

てしまおうと、オビトは予定を立てた。

 

 カカシが先に家を出ると、オビトは計画通り部屋の

中を片付け、自分の仕事に必要なノートパソコンだけ

を持って部屋を出た。

 身の回りのものなど買えば良い。

 

 日本に戻るつもりはもうなかった。

 

リンの家に寄ったのも、会うこともなくなるので、

礼儀として挨拶をしようと考えたからだ。

そこでリンの母から日記を渡された。そしてカカシ

がオビトを好きだと聞かされる。

 

 

混乱した。

 

予約している飛行機の時間が迫っている。

 

 混乱したまま、ただ身体は機械的にタクシーを止め、

成田までと告げていた。

 

 高速道路に入り、信号待ちで停止することがなくな

ったタクシーは、過ぎる月日のように周囲の景色を後

ろへと流していく。

 

オビトは後部座席に深く座り目を閉じた。

 

リンに何かを隠したりごまかしたりすることは出来

なかった。いつも自然に自分の気持ちに寄り添い、穏

やかな微笑みを返してくれた少女。

 

 

 

 

 リンに時々判らない宿題を手伝ってもらっていた。

成績でいえばカカシの方がリンより更に優秀だったが、

カカシに聞くことだけは絶対にしたくなかった。

 

『あれ?これカカシが失くしたと言ってたシャーペン

じゃない?』

 

 赤ペンを出そうとオビトの筆箱を覗いたリンが一本

のシャーペンを手にオビトの方を向く。

 

『あ、え、そ、そうだっけ?』

 

『そうだよ。ほら、ここに小さいけどKってイニシャ

ル書いてある。書きやすかったのにって残念がってた。

オビト、その時一緒にいたよね』

 

『あ、あれがこのシャーペンかあ・・・。いや、ひ、

拾ったんだけど、誰のか判らないからそのまま筆箱に

入れちゃってた』

 

『ふーん・・・』

 

『か、返すよ。あいつのだったら』

 

 教室で拾ったのは本当だ。ただ、それはカカシのも

のだと直ぐに分かった。カカシが気に入っているもの。

返さなくてはと思いながら、手放したくなくて持って

いた。

 

『オビとさあ・・・』

 

『な、何?』

 

『この前もカカシの消しゴム持ってたよね』

 

『え?あ、あれは借りたまま返し忘れてただけで、も

う返したよ』

 

『それは知っているけど・・・。ねえ』

 

『なんだよ』

 

『オビトってカカシのこと好きなんじゃないの?』

 

『す、好きってそりゃ嫌いだったら友達にならないだ

ろ』

 

『そうじゃなくて』

 

『じゃなくて?』

 

『カカシにラブなんじゃないの?』

 

『ラ、ラブって、何言ってんだよ!あいつは男で』

 

『そんなの関係ないじゃない』

 

『か、関係ないって・・・』

 

『好きになったら性別は関係ないよ。タレントさんと

かでもいるじゃない?同性を好きな人って』

 

『で、でも実際は気持ち悪いだろ。男が男になんて・・・』

 

『カカシはカッコイイもん。男だって惚れちゃうよ。

この私も好きなんだから』

 

『それは知ってるけど・・・。い、いいのか?俺がカ

カシを好きでも』

 

『気持ちなんて止められるもんじゃないでしょ。それ

にカカシを好きだって、認めたよね、今』

 

『あっ』

 

 リンがクスッと笑う。

 

『いいよ、お互い、正々堂々と勝負だよ』

 

『正々堂々って言っても、俺はだいぶ分が悪いけど』

 

『そうでもないよ。私なんかもう何度も言ってるけど、

ずっとはぐらかされてる事、オビトだって知っている

でしょ?』

 

『それは・・・』

 

『まあ、二人揃って失恋て可能性もあるけど、それは

それで互いに慰めあうということで』

 

 リンは朗らかな笑顔を見せた。

 

 

 

 

 リン・・・。

 

 自分のカカシへの想いを気持ち悪いとか、おかしい

とか、そんな素振りは全く見せないで、正々堂々と勝

負だよと笑ってくれた少女。

 カカシを好きになっていなければ、きっとリンが最

愛の人だったと思う。

 

 成田に着いた時には予約便の搭乗手続きが始まって

いた。オビトは躊躇する時間もなく、予定通りのフラ

イトに奮闘する地上職員に促されて手続きを済ませ、

日本を離れた。

 

 

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