綾なす想い
Chapter14
「本当に嬉しいわ。こうやって訪ねてきてくれて」
「いえ・・・こちらこそ、ごぶさたしてしまって」
「でも毎年、リンの誕生日にはお墓にお花を添えに来
てくれていたでしょう?」
「はい。それくらいしかできなくて」
「ううん、喜んでいたのよ。きっと、あなたとカカシ
君だと思っていたわ。毎年、リンの誕生日に二つの花。
命日には高校のお友達とか来てくれるけど、誕生日と
いうところがね。あなたたちだろうって。そして二人
で来てくれているんだって。あ、足崩してね」
「いえ・・・カカシと一緒に来ていたわけではありま
せん」
オビトはかしこまって座っていた足を、リンの母親
にゼスチャーでも促されて崩しながら答える。
「あら・・・そうなの?」
「あいつは会社があっていつも朝早く・・・俺は自営
業みたいなものなので、あとから。毎年、そうしてい
ました」
「ああ、そういうことね。じゃあ、今日もカカシ君は
会社に行ったのね。あなたたちのことは幼稚園から知
っているし、大きくなってもリンからよく聞かされて
いたしね。それとリンの日記も読んでね。なんだか勝
手に二人のことも息子を見守るような気持ちになって
て。あなたは、大学の時は日本に戻っていたんでしょ?」
「はい。でもまた在学中に留学行ったり、結構行った
り来たり」
「あら、じゃあカカシ君に随分寂しい思いをさせてい
たんじゃない?」
「はあ・・・」
リンの母親はオビトを見つめる。
「あなた達がうまくいくといいなあ、なんてね、これ
でも気にしていたよ。でも、毎年お花が二つだから、
きっと二人で来てくれていて、私が心配しなくても大
丈夫と信じていたけど」
オビトはリンの母親の言葉に少し違和感があり、返
事できずに聞いていた。
「リンは何より二人のこと大好きだったから」
「それは、俺も、きっとカカシも同じです」
「あなたたちが幸せでいてくれることが、リンにとっ
て最高の供養だし」
そこでリンの母親は笑顔で聞いた。
「それで、今は一緒に暮らしているの?」
「え?」
オビトは怪訝な表情を浮かべる。確かにこの一ヶ月
弱、自分から仕掛けてカカシと一緒に暮らしていたが、
リンの母親がそれを知っているわけがない。話がどう
もおかしい。
「あの、俺とカカシのことですよね?」
「もちろん」
「ここ最近は一緒にいましたが、普段は別々です」
「まあそうね。男女のように結婚というわけにもいか
ないしね」
「結婚・・・?いや、あの・・・何の話しですか?」
「だから、あなたとカカシ君。付き合っているんでし
ょう?」
「え?」
リンの母親は笑顔を浮かべたまま言葉を繋ぐ。
「ああ、もしかして世間的には内緒なのかな?でも私
は大丈夫よ。ホント言うと最初はびっくりしたけど、
リンと話したり、日記読んだりで、二人の気持ちはよ
く知っているから」
オビトは自分の顔が紅潮していくのを自覚したが、
冷静を装うことは無理だった。動揺を隠しきれずに聞
く。
「付き合うって、あの恋人として?ええと、どうして
俺たちが付き合っていると思われたんですか?」
リンの母親は亡き娘と同じ、包み込むような穏やか
な微笑みで答える。
「だって、リンから聞いていたもの。二人はお互いに
想い合っているって。それにリンの誕生日にお花がい
つも二つで、私は一緒に来てくれていると思っていた
し」
「リンが?俺たちの事をそう言っていたんですか?」
「そうよ。あなたも知っていると思うけど、リンはカ
カシ君が好きだったから最初は落ち込んでいたりもし
たけど、途中からはオビト君でよかったって言ってい
たわよ。知らない誰かに取られるより、オビト君なら
間違いないって。きっとカカシ君を大切にするって」
「どうしてカカシが俺を好きだなんて思ったんです
か?」
「だから私はリンから聞いていたから。リンは・・・
そうだわ。見せてあげるわね。きっと怒らないわ。だ
って、ほぼあなた達のことしか書いてないんだもの。
内緒にしなければならないことはないから。リンにと
ってどれだけ大切な存在だったか・・・。私も夫も感
謝している。二人がリンの友達でいてくれて」
リンの母親は席を立ち、しばらくしてノートを一冊
持って現れた。
「リンがずっと書き留めていた日記よ。リンが亡くな
って辛くて悲しくてね・・・。最初は何も手につかず、
何も考えられず過ごしていた。そのうち親の私たちが
知らない時間のリンのことも全部、心に留めたいと思
うようになってね。もちろんほんとは褒められた事で
はないとわかっているけど、リンの日記を読み始めた
の。そしたら、あなたたちと過ごした時間がどれほど
リンの心を占めているかよくわかった・・・。これは
沢山の日記のうちの、最後の日記。構わないから持っ
て返って読んで」
オビトは震える手で、その日記を受け取った。