綾なす想い

螺旋の庭荘

 

 

綾なす想い

 

 

Chapter20

 

 

カカシはクローゼットから旅行用のスーツケースを

出して、適当に着替えや洗面道具などの荷物を詰め始

めた。そして整理ダンスの引き出しからパスポートを

取り出す。大学生の時にバイトして海外旅行に何度か

行ったが、その際に作成した10年用で、まだ期限は残

っている。

 

オビトから嫌われているのはわかっていた。でも自

分の気持ちを伝えずに、このまま日本とフランスで会

うこともなく過ごすというのは、そんな中途半端なこ

とは、もうこりごりだ。

 

この間の出来事は、すべてカカシからの発信ではな

かった。

会社の合併話に関連した突然の再会と、オビトから

突き付けられた身体を提供するという条件、そして再

びの別れも。カカシの意思による事象ではない。

 

しかし、一つだけ結果的にカカシの意思となったこ

とがある。

 

オビトと触れ合うこと。

 

 胸の奥に仕舞い切れないオビトへの想い。触れ合う

たび、抱かれるたびにオビトへの気持ちが溢れる。強

制ではなく、カカシは望んでオビトに抱かれていた。

 

 リンは自分を好きでいてくれた。そのリンを守って

あげることが出来なかった。リンを好きだったオビト

に対し、後ろめたい気持ちで過ごしてきた日々。

 

でもリン、俺はオビトが好きなんだよ。昔から、今

も、そしてこれからも。

 

それを伝えることもなく、このまま再会を避けて生

きていくなんて、きっとリンはそんなこと望まない。

リンはいつだって自分への気持ちをしっかりと伝え

てくれた。『好きだよカカシ』『カカシが大好き』と。

いつだって正直に全力投球で。

 

 リン、俺もお前が大好きだ。そしてオビトを愛して

いる。それを伝えに行くよ。

 

 

 

 カカシは翌日、スーツケースを持って会社に出社し、

突然で申し訳ないが休暇を申請すると部下たちに宣言

し、社長にも火急の用件で休むと伝えた。

 

「親戚の法事とか?」

 

「いえ、フランスへオビト副社長に用事があるので向

かいます」

 

「副社長なら・・・メールや電話でいいのでは?」

 

「どうしても会わなければならないんです」

 

「・・・そうか・・・」

 

 社長のマダラは人を射るような鋭い目つきをカカシ

に投げかけたが、ふと口元だけでニヤッと笑う。

 

「木の葉ソーシャルの合併は役員会で決まっていたこ

となのに、オビトはどうしても畑カカシを先に自分の

ところへ呼ばなければならないと言い張っていた・・・。

初対面ではないとは思っていたが、お前たちの関係は

どうも複雑みたいだな」

 

 社長はそれ以上尋ねることなく、休暇申請を受理し

てくれた。

 

カカシは社内メールで今からパリに向かうと、オビ

トあてに送信する。

 

 短い言葉は決意の表れ。オビトがいくら避けても、

フランスに、現地事務所に乗り込めば、会わざるを得

ない。

 

 俺は俺の意思でお前に会いに行く。

 

 

Chapter19  Chapter21