綾なす想い

螺旋の庭荘

 

 

綾なす想い

 

 

Chapter21

 

 

カカシからの短いメールをしばらく眺めていたが、

オビトはやがてパソコンの電源を切った。

 

早退すると言って事務所を後にする。仕事に集中で

きる心境ではない。

 

 

 

 部屋に戻り、ソファに座って時計を眺める。針は11

時を指していた。

 

 直行便でも13時間弱かかる。いくらグローバルな時

代と言っても、日本とフランスはやはり遠い。今日思

いついたからと普通は行く距離じゃない。

 

 

 頭の下に手を組み、ソファに横になる。

 

 カカシの行動の意味が分からない。突然に連絡を絶

って怒っているのは分かる。だからと言って、休暇ま

でとって、フランスに来たりするだろうか。

 

 避けるなら俺から会いに行くとメールにあった。し

かし、怒るために、そのためにフランスまで来るのか?

会ってどうするんだ。理不尽な俺の行動を罵倒するの

か、それとも殴ろうと思ってここまで来るのか。

 

 カカシに殴られたって全然構わないが・・・。そも

そも殴られて当然のことをしたのだから。

 倒産の危機に見舞われた会社を救うと言って、その

身体を要求するなんて・・・。犯罪レベル。酷い言葉

も随分投げかけた。

 

 でも・・・だからと言ってわざわざ半日も飛行機乗

ってくるか・・・?

 

 

 メビウスの輪のように終わりのない思考を巡らせて

いるだけと気づき、オビトはえいっと身体を起こした。

 

 ふとテーブルの上にいつも置いているリンの日記が

目に入る。

 

 

『そして二人がいつかお互いの気持ちに気づいて両思

いになったとしたら、その時に後悔なんてしたくない。

だから今は精一杯頑張る。努力してそれでもカカシが

オビトを選んだとしたら、その時はちゃんと祝福して

あげるんだ』

 

 

 リン・・・いつだってカカシへの想いを大切にして

いた。

 

 

『カカシはかっこいいもの。男が好きになったってお

かしくなんかないよ。正々堂々と勝負だよ』

 

 

自分のカカシへの想いに気づき、人を好きになるこ

とは恥ずべきことなんかじゃないと、笑顔で受け止め

てくれた少女。

 

 

『オビトにも会いたいな。でも向こうは春休みがない

んだよね。

6月には学期が終わるらしいから、せめて夏休みは会い

たい。また三人で話したり遊びたい。私はカカシが大

好きだけど、オビトのことも大好きだから』

 

 

 322日、リンの人生最後の日記。この翌日の終業

式の後で、事故にあった。

本人が意識していたわけではないが、結果的に最後

となった言葉はオビトに向けられている。

 

 リン・・・。

 

 リン、俺もお前が大好きだ。だからこそ混乱してい

た。カカシを好きだったお前のことを差し置いて、カ

カシに告白なんて出来ないと・・・。

 

 本当は分かっている。リンはそんな遠慮を望んでい

ない。

 

 リンのことを考えれば告白は出来ない、カカシだっ

て男からの告白なんて嫌悪しか湧き起こらないだろう

と、そんな理由を並べて自分の本音を避けてきた。

 

 でも違う。リンやカカシの気持ちではなく、俺の俺

自身の気持ちはどこにあるのか、どうしたいのか、そ

れを見つめなければ。

 

 リンのように、正直に、まっすぐ。

 

 

 俺は・・・。

 

 オビトは日記の最後のページを見つめながら、本心

と向き合う。

 

 リン、俺はカカシが好きだ。あいつが何の目的でこ

こまで来るのかわからないが、もう逃げたりしない。

 

 

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