綾なす想い

螺旋の庭荘

 

 

綾なす想い

 

 

Chapter23

 

 

カカシはふと目を覚ます。身体の向きを変えようと

してブランケットが身体から滑り落ちる。

一瞬考えて、そこが自分の家のベッドの上でないと

気づいた。

 

そうだ・・・。俺はオビトの家にいる。

 

 部屋は暗く、オーディオ類のデジタル表示の薄明か

りを頼りに起き上がり、壁際に室内灯のスイッチを見

つけた。オンにすると部屋がぱっと明るくなり、カカ

シは思わず目をしかめる。

 

 廊下に出てそこでも壁のスイッチを見つけてオンに

し、閉まったドアを見つけ思い切り開ける。中は暗く、

カカシのいる廊下から漏れる明かりで見渡すと、大き

なベッドに眠るオビトがいた。

 

「おい、オビト。起きろ」

 

 カカシはベッドサイドランプの明かりもつけてオビ

トの肩を揺さぶる。

 

「うん・・・カカシ・・・起きたのか」

 

「なに、お前だけちゃんとベッドで寝てるんだよ」

 

 オビトはサイドテーブルの上の時計が夜中の1時を

表示している事を確認して、起き上がった。

 

「先に寝たのはそっちだろ。俺は空港まで迎えに行っ

て、ビールまで出そうとしてたのに。だいたいお前の

体内時計は朝かもしれないが、フランスはこの時計通

り今が真夜中だからな」

 

「ああ、そうか。俺はすっきりした気分だけど」

 

「さっさと時差ボケ直せ。こっちが迷惑だ」

 

 オビトの憎まれ口にカカシは微苦笑して答える。

 

「時差ボケが治る前に日本に帰るよ。目的の半分は達

成したし。そんなに仕事も休めない」

 

 カカシの返答にオビトはまっすぐカカシを見つめ返

した。

 

「お前の目的って・・・」

 

 言いかけたところでカカシが口をはさむ。

 

「あのさ、俺もシャワー浴びる。下着とパジャマ貸し

てくれ。体型変わらないだろ」

 

「・・・お前海外に来るのにパジャマはともかく下着

も持ってきてないのか」

 

「服の着替えは、持ってきた。身の回りのものは適当

に買う気だったよ、急いでたし。でも、ほら、言った

通りビジネスシートの飛行機代に金が消えたから」

 

「ああ、はいはいもう分った。お前が入ってる間に用

意しとく。バスルームはリビングの右側。タオルは洗

面所の棚にあるものどれでもいい」

 

 オビトは、んーっと伸びをしながら答える。

 

 

 カカシがシャワーを浴びる音が聞こえ始めたのを確

認して、オビトは洗面室に入った。

 パジャマ、下着を洗面台横の台に置いて、薄いシャ

ワーカーテン一枚向こうのカカシのシルエットを見つ

める。

 

「ほんとにこのまま襲ってやろうか・・・。人の気も

知らないで・・・」

 

 オビトは小さく溜息をついて洗面所を出た。

 

 カカシが達成したという目的の半分は自分に会うこ

とだろう。お前に会いたかったと空港でも言っていた

から。あとの半分がその理由。いったいカカシは何の

ために俺に会いに来たのか・・・。怒っている様子は

特にない。

 

 オビトはソファに座り、前のテーブルにあるリンの

日記を見つめながら自答する。

 

 違うのだ。俺が今考えるべきなのはカカシの気持ち

ではなく、自分がどう行動するかだ。正直に、逃げな

いで。

 

リン、力を貸してくれ・・・。

 

 オビトはリンの日記を見つめながら両手を顔の前で

組み、祈る様に額を当てた。

 

 

「そのノート・・・」

 

 声がして見上げると、いつの間にかカカシが立って

いた。

 

 パステルカラーでかわいいイラストのあるノートの

表紙には、Rinとローマ字で手書きの記入がある。

 

「それって、リンのノートなのか?どうしてここにあ

る?」

 

「これはリンの日記だ。たくさんあるうちの、最後の・・・

1の時のもの。この前の墓参りに行った時、リンの

お母さんが貸してくれた。俺と、お前のことばかり書

いてあるから読んでもいいだろうって」

 

「俺とお前のことばかり・・・」

 

 カカシはオビトの言葉を繰り返す。

 

「カカシ、ちょっと座れ」

 

 リン・・・。俺に勇気を。

 

 オビトは祈りながら、カカシが自分と向かい合わせ

にソファに座るのを見つめる。

 

「リンのお母さんが俺に日記を貸してくれたのは、お

前と俺の仲がうまくいっているか気にしてくれていた

からだ。気にするきっかけはリンの日記だったと・・・」

 

「日記で?でも・・・リンが生きている時は、俺とお

前は普通に連絡取り合っていただろう。仲違いを気に

されるような記述があったのか?」

 

「友達としての仲じゃない・・・。カカシ、リンが亡

くなってお前に連絡を取らなくなったのは、俺が後ろ

めたかったからだ」

 

 『友達としての仲じゃない』、オビトのその言葉にカ

カシはドキリと心臓が波打つのを自覚する。

 

「俺は・・・」

 

 オビトは一度言葉を区切る。

 

 リン、俺に力を。

 

「俺はお前が好きだった、昔、子供の時から、今もず

っと」

 

「・・・え?」

 

 カカシの静かな疑問符に心が折れそうになる。それ

でももう一度言葉を紡ぐ。15年間言えなかった言葉を。

 

「好きなんだ。友情じゃない・・・お前を愛してる」

 

 

Chapter22  Chapter24