綾なす想い

螺旋の庭荘

 

 

綾なす想い

 

 

Chapter24

 

 

15年間言えなかった言葉を伝えた。

 

『愛してる』

 

リンの死から連絡を絶ちカカシを戸惑わせ、再会後

は身体と心を傷つけてまた姿を消す。そんな理不尽な

行動をとり続けて、ようやく発した言葉。

 

カカシは黙ってオビトの顔を見つめている。居た堪

れなさに、走ってその場から逃げ出してしまいたくな

る衝動と戦いながら、オビトもカカシを見つめる。

 

 

「お前は・・・」

 

カカシが口を開く。

 

 

オビトにとっては異様に長く感じた沈黙の時間だっ

たが、じっと堪えてカカシの言葉の続きを待つ。

 

「リンが好きなんじゃなかったのか・・・?」

 

 リンを好きだし愛してると言っても間違いではない

とオビトは思う。

しかしそれには姉や妹に対するような思慕も含まれ

ている。実際の姉妹(きょうだい)はいないので想像の中でしか言え

ないが・・・。

 

「リンのことは愛してる。でもそれは、お前に対する

感情とは違う。リンは親友だし、時には妹だったり姉

だったり・・・でもお前は、俺にとってお前は、友達

じゃなく・・・恋してる・・・それはどうしても変わ

らなかった」

 

 

「だったら・・・」

 

カカシは感情を抑える様に一度言葉を区切る。しか

し閉じ込められていた思いが徐々に徐々に溢れだし、

声のトーンが上がっていく。

 

「だったらどうして!」

 

「どうして連絡しなくなった?俺が15年間どんな思い

でいたと思ってるんだ!その上急に現れて、また急に

いなくなって・・・。俺がどんなに・・・どんなに・・・」

 

 そこまで言うと、カカシは唇を噛んで下を向く。そ

れ以上、オビトの顔を見ることが出来ない。泣いてし

まいそうになる。

 

 

「悪かった・・・」

 

 オビトは素直に謝罪する。立場を変えて考えれば、

どれほど自分が身勝手だったかよくわかる。

 今は真摯に自分の気持ちを伝えようと必死に言葉を

紡ぐ。

 

「ガキの頃は、男の俺がお前に告白しても本気にされ

ないだろうって考えてた。冗談にされ、うやむやにな

ってしまうのは嫌だったから、だから・・・お前に釣

り合う立派な大人になって、その上で真剣だと告白す

るつもりだった。でも・・・」

 

 オビトはもう一度心でリンに話しかける。

 

 リン、あと少し力を貸してくれ。

 

「でも、俺の気持ちを知っていて正々堂々と勝負だよ

と言ってくれていたリンが亡くなった。リンはもう、

お前に告白出来ない。この勝負はフェアじゃないと思

ったよ。俺も、お前のことは諦めようと考えた。元々、

同性の俺が好きになること事態あり得ない事だし

な・・・。連絡を絶てば、いずれ気持ちはなくなると

思ったが、余計にお前のことばかり考えてしまう」

 

 

 カカシは黙ってオビトの告解を聞いていた。

 

 

「何年経っても忘れられない。お前の会社の窮地を知

って助けたいと考えた時、ずるい考えが浮かんだ。俺

の人生に、お前との思い出を刻みたいと・・・。だか

らお前の身体を要求して・・・。どんなに酷いことを

言ったのか、したのか、全部覚えている。謝ることし

か出来ない。お前がここへ来た理由は知らないが、殴

りたいなら気のすむまでそうしてくれ」

 

 

 頭を下げるオビトに目を向けて見つめながら、カカ

シが言葉を発した。

 

「・・・アンフェアじゃない・・・」

 

「え?」

 

 カカシの発した言葉の意味が分からずオビトは聞き

返す。

 

「リンとお前の勝負はアンフェアじゃない」

 

「どういうことだ?・・・」

 

「お前はリンがもう告白できないと言ったが、それは

違う。リンは生きている間に既に何度も言ってくれて

いた。はっきりと、俺を好きだと。それに応えなかっ

たのは、俺の方だ。だからアンフェアじゃない」

 

 カカシはまっすぐオビトを見つめる。

 

「リンの気持ちに応えられなかったのは、他に好きな

奴がいたから。俺は子供のころから、大人になった今

でも・・・そいつが好きだ」

 

 

 オビトの言葉を踏襲するカカシの言い方に、動悸が

激しくなるのを自覚する。

 

「カカシ・・・日記にリンが書いていた・・・高校時

代、お前が俺を好きだったと・・・そうなのか?」

 

 オビトは震えそうな声を必死に抑え込んで、静かに

問う。

 

 

「そうか・・・。やっぱりリンは何でもお見通しだな」

 

カカシが微笑む。

 

「フランスまで来たのはお前に好きだと告白するため。

拒否されることなんて想定内。ただ、自分の気持ちを

伝えずに姿を消されるのは二度とゴメンと思ったから」

 

「告白・・・俺に・・・本当に?」

 

「この場面で冗談言うかよ」

 

「あんな酷いことをしたのに、それなのに許してくれ

るのか?」

 

「俺の身体を要求したこと?まあ、立場を利用したん

だからいわゆるパワハラだよな。それは責任とっても

らおうか、副社長さん」

 

「責任てどうすれば・・・」

 

「そうだなあ、お前のベンツ、いい色だよ。あれ貰おうかな」

 

 

カカシの言葉にオビトは目を見開く。

 

「ベンツは冗談だよ、ばか」

 

 オビトの驚いた表情を見てカカシが苦笑する。

 

 

 急にオビトが立ちあがってカカシの隣に座った。

 

「お前やっぱり頭いいな。そうしよう」

 

「ベンツは冗談だって」

 

 ふいに横に来たオビトに少したじろぎながらカカシ

が答える。

 

 オビトはカカシの両肩を掴む。

 

「そうだよ。俺のものは何だって全部お前のものにす

ればいい。結婚しようカカシ」

 

 

 今度はカカシが目を見開いた。

 

「な、何言って・・・」

 

「フランスは同性婚が認められている」

 

「そういうことじゃなくて・・・」

 

「じゃあ何だ?」

 

「いや、なんでそこまで話が飛躍するんだ」

 

「飛躍って、互いに好きだから結婚だろ、次は」

 

「はあ?いやあのさ・・・ってお前やっぱり変わって

ないな」

 

「変わってないって、何が?」

 

「日本で再会した時、随分印象が変わったと思ったけ

ど・・・」

 

「けど、何?」

 

「やっぱり変わってない。昔と変わらず単純バカ」

 

「結婚しようってのが何がバカなんだよ」

 

「行動が極端すぎる。一方的に俺を無視して突然現れ

て、またいなくなって、今度は結婚て・・・」

 

 カカシの言葉の語尾が微かに震える。

 

「思いつきでプロポーズなんかするな、バカ」

 

「カカシ・・・」

 

 オビトは唇を噛みしめたカカシを見つめる。

 

「思いつきだけど俺は本気だ」

 

 カカシを抱きしめる。

 

「結婚しよう、カカシ」

 

 カカシを抱きしめたままオビトはもう一度繰り返し

た。

 

 

 カカシはオビトに会うためオビトに好きだと告白す

るためここまで来た。

 しかし、予想もしていなかったオビトも自分を好き

だったという告白と突然のプロポーズに、戸惑いが先

に立つ。

だったらどうして姿を消したんだと、非難もしたく

なる。

 

 

返事をせず、しかし抱きしめる自分を突き放すこと

もしないカカシにオビトは三度目の言葉を伝えた。

 

「結婚しよう、カカシ」

 

 

 オビトの真剣な言葉が、抱きしめられたその温もり

と共にカカシの心に沁みこんでいく。

 

 

 オビトが一度カカシを離して立ち上がり、もう一度

その腕を掴んだ。

 

「行こう」

 

「どこに?」

 

「ベッドルーム。こういうの初夜って言うんだろ」

 

 

 オビトの言葉にカカシは手を振り払いながら言い返

す。

 

「何言ってるんだバカ。第一、初夜ってのは結婚した

日の事だろ」

 

 

 カカシに振り払われた手をオビトはもう一度掴んだ。

 

「だからするんだよ。バカカシ」

 

「返事してない」

 

 

 オビトはにやりと笑って今度は振り払われないよう

カカシの腕を強く掴んだ。

 

「返事は身体に聞く」

 

「はあ?このエロジジイ!ふざけたことばかり・・・」

 

「来いよ」

 

 オビトはカカシの言葉の途中でその腕を掴み寝室へ

向かった

 

 

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