[PR]レゲエの根底に流れる特有の思想
綾なす想い
Chapter4
「え?」
カカシは先程リンの代わりになれと言われた時と同
じように、想像もしていない言葉にオビトを見つめ返
した。
一瞬、冗談だという言葉が次に繰り出されるのでは
という半ば救いを求めるような期待が頭を掠めたが、
オビトの冷ややかな表情は、全てを否定している。
「オビト・・・」
続けて話すつもりが、語尾がかすれて一度言葉を切
る。
オビトはまっすぐカカシを見つめている。
カカシは堪えきれずに視線を外した。下を向き、も
う一度言葉を紡ぐ。
「抱くって・・・どう言う意味だ」
カカシの前のテーブルに座り、元々目の前にいるオ
ビトがその姿勢を更に前傾にして、カカシの顔を覗き
込んだ。
「セックスに決まっているだろ。ガキじゃないんだか
ら」
カカシが顔をあげる。
「・・・何を言ってるんだ。俺たちは男同士で・・・」
オビトが再び立ち上がり、キッチンの方へと歩いて
いく。そのまま冷蔵庫の前に立ち、中から缶ビールを
取り出して飲む。
「あのさ、男でも女の代わりが出来ることぐらい知っ
ているだろ。つまんないこと言って時間取るなよ。返
事はどうなんだ?選択権はお前に与えてるんだよ。も
ちろん断れば会社の合併の件は白紙に戻すけどな」
オビトはビールを一口飲んだ後、一気に言葉を繰り
出す。
「白紙・・・」
テンゾウや他の社員たちのことが思い浮かぶ。
「俺が・・・お前とセックスすることが、それが合併
の条件なのか?それ以外に方法はないのか?」
オビトが最後までビールを飲み干す。
「ない。お前が足開いて俺に抱かれることだけが条件
だ。」
カカシは言葉が震えないように気を配りながら、話
す。
「どうして・・・?どうしてそんな・・・俺がそれほ
ど憎いのか?」
手に持つ缶をグッと握りつぶして、オビトはカカシ
に視線を送る。
「決めろよ」
カカシの質問には答えず、オビトは決断を促す。
「オビト・・・」
「どうするんだ。条件を飲むのか、飲まないのか。お
前次第だ」
カカシは自分の役割を考える。今日来たのは、会社
の合併話しを進めるため。部下たちの未来を保証する
為。共に頑張ってきた幹部達の今までの苦労を、その
働きを無にしないため。
「判った・・・」
カカシは項垂れたまま、小さな声で答える。
オビトは、下を向いているカカシをしばし黙って見
つめる。
やがてオビトは言葉を発した。
「・・・じゃあ明日朝9時にここへ来い」
カカシが顔を上げた。
「朝からベッドに入るのか?」
「仕事だからな。もっともスーツは着てこなくていい
ぜ。自宅だから」
オビトはもう一度冷蔵庫を開けてビールを取り出し
た。
「カカシ、今日はもういい。帰れ」
「・・・オビト、俺は・・・」
カカシが何かを言いかけたが、オビトはそれに言葉
を被せるように言った。
「お前、男同士の経験あるか?」
カカシは吐き捨てるように言った。
「あるわけない」
「そうか、じゃあ身体の準備してこいよ。それこそ
供じゃないから、わかるだろう」
そう言うとオビトはまたビールを飲み出す。
カカシはこれ以上何をいうのも無駄だと分かり、立
ち上がった。
オビトを振り返ることなく玄関を出る。背中側でド
アが閉まった時、そのまま廊下に座り込んだ。
自分はオビトにそれほど疎まれているのだと思う。
リンを殺したのは暴走車だ。でも、オビトは自分を責
めている。今でもリンを好きなのだろう。忘れられな
い想いを自分への憎しみに転嫁して、怒りをぶつけて
いる。
オビトはこんなにもリンを好きで、そして自分を憎
んでいる。
カカシは廊下に蹲ったまま、しばらく動くことが出
来なかった。
オビトは黙ってカカシが出て行く背中を眺めていた。
振り返ることなくカカシが玄関のドアの向こうに消え
たとき、握っていた二つ目の缶ビールを握りつぶす。
まだ中身が入っていたそれはぼたぼたとビールが溢れ
出し、オビトの手を濡らして床に落ちていく。
それでもオビトは動かず、じっとカカシが去った方
向を見つめていた。