Winter
color
5章
週末、テンゾウは大学時代の友人達と久しぶりに会
うことになっていた。場所はどこにしようかと相談さ
れ、自身の歓迎会を開いてもらった居酒屋を思い浮か
べる。料理の味も店の雰囲気も悪くなかった。任せる
と言われ予約を取る。
金曜日の夕方、仕事帰りにその店に行く。それぞれ
近況など話しているうちに、友人の一人バクが、そう
だそうだとばかりにテンゾウの方を向いた。
「テンゾウ、お前シズネの話し聞いたか?」
「いや、何?」
「あいつ結婚するんだってよ」
「え?誰と?」
「それが驚きのエビス先輩!」
「マジ!?」
テンゾウより早く、もう一人の友人トラが反応した。
「それはなんと言うか、もの好きというか・・・」
テンゾウがトラをたしなめる。
「もの好きって言い方は失礼だろ」
「元彼としてはどうだ?気になる?」
「いや・・・まあ良かったなと思うよ」
「オー何だその優等生な答えは」
話はその他の大学時代の友人の近況などに移って行
き、テンゾウはトイレに立つ。
シズネが結婚するのか。別に優等生的発想ではなく
て、本当に良かったと思う。恋愛している実感がなく
て別れを切り出し泣かせてしまったことは、今でも申
し訳なかったと思っていたから。
不意にカカシが浮かぶ。彼を想い浮かべるだけで心
がきゅっと締め付けられる。土曜日を入れて3連休が2
回もある9月が恨めしいくらいだ。カカシに会えない
日がそれだけ多くなるから。恋する気持ちとは、こう
いうものなのだろう・・・とても苦しいけれど・・・。
トイレからの帰り、廊下を歩いていると斜め後ろか
ら店員の声がした。
「こちらのお席にどうぞ」
「ありがと」
聞きなれた声に反応してテンゾウは瞬間振り返る。
「カカシさん!」
カカシがカカシより更にでかい男二人と一緒にテー
ブルに座るところだった。
「テンゾウ・・・へー偶然だな」
カカシがテンゾウを見て笑顔になる。いつも魅了さ
れるほわっとした優しい微笑み。
「何、デート?」
カカシが聞く。
「そう言いたいとこですけど大学時代の友人と、それ
もヤローばかり」
カカシが答える。
「じゃ、俺と一緒だ。俺も大学時代のサークル仲間と」
「なんだか迫力ある方ばかりですね」
テンゾウが思った事を口にするとカカシの周囲の二
人が笑った。
カカシも笑いながら答える。
「確かにねえ・・・。こいつらでかいもんね。何しろ
体育会系だから。こっちが猿飛アスマ、警察官。こい
つの家は代々警察関係なんだよ。んでこっちがガイ。
高校の熱血体育教師」
紹介されてカカシの二人の友人はそれぞれ片手を挙
げて挨拶を返す。
今度はカカシが友人に向かってテンゾウを紹介した。
「こいつはテンゾウ。会社の後輩」
「どうも」
ペコっと頭を下げた時、テンゾウは急に思い出す。
「あれ、警察で猿飛って・・・あのそんな名前の警視
総監がいたような・・・」
「親父が今の一つ前の総監だったよ」
アスマというカカシの友人はさらっと話す。
テンゾウは二言三言カカシと言葉を交わした後、挨
拶をしてその場を去る。もっとも自分の席に戻っても、
カカシに会えたことで妙に浮き足立つような感覚から
抜けきれなかった。
同じ居酒屋に同じ時間、大学時代の友人と一緒に出
会う。互いにかつて利用し、会社からも近い居酒屋と
はいえ、これはやっぱりすごい偶然じゃないだろうか。
カカシを好きだから、何にせよ運命的な事と結びつけ
てしまうだけかもしれないけれど・・・。
テンゾウはカカシ達が座るテーブルの方を振り向く。
カカシはテンゾウの方から斜めに見える位置だ。
アスマさんは秋かな・・・。ちょっとクマっぽい。
秋鮭持って歩いてそう。ガイという人は完全に夏だ。9
月というのにタンクトップで日に焼けている。人を見
るとつい四季に例えてしまうのは癖。
二人ともそれぞれ本当に筋肉質な体育会系のタイプ
で、良く言えばでかくて頼りがいのある感じ、悪く言
えばむさ苦しい・・・それは悪く言いすぎか。
二人とそばにいるカカシはより一層、その美形が際
立つ。
つい見惚れていると、カカシがテンゾウの方を振り
返った。視線が合いカカシはテンゾウに微笑みかけ、
直ぐに友人たちとの会話に戻る。
一瞬でも視線が合った事で頬が熱くなる。心臓の鼓
動が周囲に聞こえるのではと思うほど早くなる。息が
詰まりそうな程・・・。黙って想っているのは、こん
なにも苦しい。