今ひとたびの邂逅8
「とりあえずお疲れさま」
不知火ゲンマは手に徳利一つとお猪口二つ手にして
いた。
「用意がいいねえ」
お猪口を受け取り、ゲンマから酒を注いでもらう。
「可愛い仲居さんがいたからちょっと頼んだら持って
きてくれたもので。もちろんサービスで」
カカシが苦笑した。
「さすがだなあ。ゲンマに頼みごとされて断れる女子
はいないんじゃないか」
「本当に想う人には振り向いてもらえませんけどね」
「ゲンマになびかない子なんているの?」
「またまた、気づいてない振りはずるすぎるだろう、
カカシさん」
ゲンマはカカシをまっすぐ見つめて、ややきつめの
口調で言う。
カカシは飲み干したお猪口を座卓に置いた。
「本気?そんな美形の遺伝子残さないともったいない
とか思わない?」
今度はゲンマが苦笑する。
「そんなこと別に・・・。目の前の美形を毎日眺めて
暮らせれば最高だとは思うけど」
「そういうことさらっと爽やかに言うんだな。モテる
のもわかるよ」
「皆に言っているわけじゃないですよ。それこそ・・・
自分から言わなくても、寄ってくる相手には不自由し
てないもんで」
「あはは・・・。言うねえ」
ゲンマがカカシの方に手を伸ばし、その頬に触れた。
「自分から必死になってるのはあんただけだ」
カカシは自分の頬を包むゲンマの手に自分の手を添
えてそっと離した。
「風に当たりたい・・・。酒飲んでゲンマの言葉聞い
てると、酔いが早いよ」
「酔わせてるんですよ」
ゲンマが笑って言う。
「でもま、いいでしょ、今日はこれくらいで。ただし
そう簡単には諦めないから」
二人並んで部屋を出て、廊下から夜空を眺める。
「気持ちいい」
カカシの髪が夜風に微かに揺れる。
そんなカカシを見つめながらゲンマが話しかけた。
「カカシさん」
「何?」
「酒のお礼は?」
カカシが再び苦笑する。
「報告書の時といいゲンマの親切には気を付けないと
な。いつでも見返りを求められるから」
「男なんていつだって下心持ってるもんでしょ」
「何なの?また抱きしめるとか?」
「それじゃ進展なさすぎ。キスがいい」
「暗部があちこちで警戒してる宿でよく言うな」
「暗部が警戒してるのは火影の部屋だけっすよ。俺た
ちなんて誰も見てない」
ゲンマはすっとカカシの肩を抱き寄せその頬に軽く
キスした。
「遠征中でなかったら口を狙うけど、今日はこれで」
笑顔を見せてゲンマがすっとその場を離れた。
カカシは苦笑しながら見送る。
テンゾウはカカシの部屋へ向かっていた。いくら休
憩中とはいえ、暗部隊長として影の立場で火影遠征に
同行している身であり、正規部隊の同行者であるカカ
シの部屋に正面からいくのは憚られた。気配を消し、
庭側から密かに近づく。
するとカカシの部屋の障子があき、中から二人の人
影が出て来る。
少しの会話、見つめ合う仕草、そして肩を抱き寄せ
て頬へのキス。
されるがままのカカシ。いや、むしろ楽しそうな・・・。
いつか見た時と同じ、相手は不知火ゲンマ。
テンゾウは身体が震えた。
今度は疑問ではない。
湧き上がってくる感情は、激しい嫉妬、怒り、そし
て失うかもしれないという恐怖・・・・。