睦みの庭荘

 

 

 

今ひとたびの邂逅7

 

 

 

 火影の諸国巡行の暗部隊長を務めるテンゾウは、ル

ートの事前確認で出発前日まで里外へ出ており、カカ

シも正規の同行者として警護だけではない雑多な準備

に追われ、結局二人は会うことなく出発の日を迎える。

 

 

 

 テンゾウが練った行程表は、外部に漏れないよう封

印術が施された巻物で式鳥を通じて火影以下正規同行

者に配られた。

カカシはそれを読み、テンゾウがいかに緻密に予定

を立て、細部にまで気を配っているかを感じ取る。忙

しかったのだと思う。ずっと会えなかったがそれも仕

方ない。

 

 火影の辿る道は極秘事項であり行程表は各自記憶し、

直ぐに焼却処分する。

カカシが小さな火遁を作ってそれを燃やすと、火遁

を作れないサクラがこれも燃やしてと自分の分の巻物

をカカシに渡した。

 

「先生と一緒の任務は久しぶり」

 

「そうだね」

 

 カカシがニッコリと微笑む。

 

「ナルトは元気でやっているかな」

 

 サスケが去り、更にナルトが里外へ自来也と修行の

旅に出て、サクラも綱手との修行に明け暮れていると

はいえ、寂しいのだろうとその心情を思いやる。

 

「あいつから元気をとると残るものは少ないからね」

 

「ふふ・・・ほんとそうね」

 

「先生は?」

 

 ふいにサクラがカカシの方を見る。

 

「先生は元気だった?」

 

「そうだねえ・・・。ま、綱手様にこき使われている

のは、お前がよく知っていると思うけど」 

 

「そうよね。でもはたけカカシ指名の任務は次から次

と来るから、綱手様も申し訳ないと思ってらっしゃる

けど断れないのだと思うわ」

 

「うーん・・・。そうかな・・・申し訳ないって・・・

思っておられるかな」

 

「・・・多分、口に出しては言われないけど・・・」

 

 そこで二人は顔を見合わせて笑う。

 

 

 

 やがて出立の時となり、一行は旅立つ。

 

 

訪問する国にも同行者として事前通達しているカカ

シ達はずっと綱手とともに行動し、初日の宿も綱手と

並びの部屋を充てがわれる。

 

 荷物を解き、カカシは暗部のメンバーを思う。

 

暗部も宿に同宿してはいるが、一般客を装い誰がど

こに止まっているか、同行者であるカカシ達でさえ知

らされない。任務中麺を被っているので外してしまえ

ば逆に誰とも判らず、敵を欺くためにもその方が都合

がいいのだ。もちろん3交代シフトで常に誰かが火影

を護衛している。

 

自分もかつてはそこに所属し、けして表には出ず火

影を守り、時に敵を諮り、闇を駆けていた。

 

「テンゾウ・・・」

 

 無意識に想い人の名を呟く。

 

 テンゾウと商店街を歩いていたあの美女は誰だった

のだろう?普通に考えれば、カカシが出た後に入隊し

た暗部仲間。

 

正規部隊と暗部に別れてから、カカシとの逢瀬は格

段に減っている。

そして命を預け合う任務仲間の絆は通常とは違う深

さがある。そこにあれほどの美女がいれば、まだ若い

テンゾウの気持ちが揺れることは当然あるだろう。

 

 楽しそうな華やいだ雰囲気の、似合いの美男美女カ

ップル。

 

自身が暗部にいた頃は、テンゾウにまつわることで

知らないことはなかった。

 でも今は違う。全てを秘密裏にことを進める暗部の

ことは、正規部隊にいては判らない。あの美女のこと

も知らない。

 そもそも暗部の情報が正規部隊の人間に簡単に手に

入ってはいけないのだ。里一番のセキュリティを求め

られる部隊なのだから。

 

 それだけに、不安になる。こんな気持ちは付き合う

ようになって初めてかもしれない。

 

 テンゾウに会いたい。

 

ゆっくりと話しをすれば、あの美女は誰なのかと直

接聞けば、なんでもないことかもしれないのだ。

 

 

 

 今回の火影巡行の暗部責任者であるテンゾウは、ず

っと忙しく全てに怠りがないか気を配っていたが、交

代の時間が来てさすがに一息つく。

 

 休める時にはしっかり休めがカカシから教わった教

訓だった。

 

 力を発揮しなければならない時に全力を尽くせるよ

う、休める時には休む。交代する仲間を信じる。まし

てや今回の編成メンバーは自ら集めたのだ。

 

 テンゾウは、休憩中は任務から頭を切り替えて、こ

の時間を使ってカカシのところへ行こうと思う。

 

彼と話しをしたい。

 

 今だに頭から離れないあの場面、ゲンマに抱きつか

れてキスされていた場面を振り払いたい。

 今度こそぐちゃぐちゃと悩んでいないで彼との関係

を聞いてしまおう。

 

 一般客として泊まっている部屋から、テンゾウはカ

カシの部屋へ向かう。

 

 

 

「カカシさん」

 

 カカシの部屋の外から声がした。

 

 カカシはその声に笑顔になって答える。

 

「入ってこいよ」

 

「お疲れ様」

 

 障子を開けて、カカシの部屋へ不知火ゲンマが入っ

ていった。

 

 

 

前へ    続く