今ひとたびの邂逅12
真夜中のノックの音に不知火ゲンマは一瞬身構えた
が、直後にその気配が誰のものか察知し、急いでドア
を開けた。
「カカシさん、どうしたの?」
家の前に佇むカカシは憔悴しきった表情をしており、
ゲンマは自分の身体を横にずらして中に入るように促
す。
カカシはゲンマに促されるまま、部屋に入る。
「とりあえず酒?」
ソファに座ったカカシにゲンマは声をかけた。
「ゴメン、真夜中に」
「あんたならいつでも歓迎だけど」
ゲンマは缶ビール二つ手に取りカカシの座るソファ
に近づいた。
「でも、数時間前には俺の誘い断って好きな男のとこ
ろに行ったはずのあんたが、真夜中に自分から来ると
はどういうことかな?」
ゲンマが缶ビールの蓋を開けて一口飲んだ。その様
子を目で追いながらカカシが答える。
「・・・崖っぷちの崖から落ちた・・・」
「そりゃまた・・・。はっきり言われたの?あんたと
は終わりだって」
「終わりって言ったのは俺だけどね。あいつは・・・、
女の子とは何でもないって否定してた」
「別れる気なら誤魔化したりしないで女と付き合って
るって言うんじゃないの?そう言わないってことは、
ほんとに何でもないか、まあ一回だけの浮気とか・・・」
「かもな」
「じゃあ、なんで自分から終わりって言ったの?」
「なんだろ・・・すごく似合ってたんだよその二人。
やっぱり自然だなと思ってさ。あいつとの出会いは暗
部なんだよ。正直悲惨な任務も多くて周囲は男ばっか
りで・・・。特殊な環境で正常な思考が働かずに、俺
の事好きになった気がどうしても拭えない・・・」
「考えすぎだろう?俺は暗部じゃないけど、あんたが
好きだよ。カカシさんは自己否定しすぎ」
「自己否定・・・そうかもしれない。でもあいつは今
でも暗部所属で、任務は仕方がなくても、せめて私生
活は陽のあたる暮らしに戻してあげたくなった」
「随分卑下するんだなあ。あんたといることは日陰だ
っていうの?」
「男同士なんて言いふらすことじゃないだろ」
「確かにわざわざ言いふらす必要もない。でも自分た
ちが良ければ周囲の評価なんてどうでもいいだろうが」
ゲンマはカカシの言葉に苛々とした感情を露わに強
い口調で言い返す。
「・・・でも俺といるよりは・・・」
「くどいな。あんたはエリート忍者で誰もが一目を置
く存在なのに、どうしてそんな自己否定の発想が出て
くるんだ。俺を含めて周囲の凡人を見ろよ。みんなあ
んたより前向きに生きてる」
「ゲンマ・・・」
ゲンマの勢いに、カカシは反論出来ずに項垂れる。
「俺はあんたが他の男と別れてくれて嬉しいけど、自
己否定は鬱陶しい」
「ごめん・・・」
「別に俺に謝らなくてもいいけど」
「いや、謝らないといけないことがあるんだ。相手の
男に・・・お前の名前を出した。付き合っているって・・・」
ゲンマは手に持っていた缶ビールをテーブルにガン
と中身が飛び散るほど激しく置いた。
「なんだよそれ。俺はあんたにふられているのに、そ
の男からは憎まれる役割だっていうの?」
「ごめん・・・。だから詫びを・・・提供出来るのは、
俺しかないけど・・・」
ゲンマは難しい表情を崩さずカカシを見つめた。
「名前出した代償を体で払うって?」
「そんな価値もないっていうならただ謝るしかない」
「カカシさん。あんた俺を買いかぶり過ぎじゃない
の?そういわれて俺が別に良いよ、気にするなと男気
のあること言うとか思ってんじゃない?この状況で
そんな発言できるほど、人間出来てないぜ」
「いや・・・。ゲンマが思ってるより俺はもっとずる
い。今は一人で居たくないんだ・・・」
ゲンマはカカシのほうを向いて僅かな時間、沈黙し
ていた。やがて口を開く。
「俺はかなり怒ってる。優しさを求められても無理だ。
それでもいいのか?」
カカシはゆっくり頷いた。
「じゃ、こっちへ来い」
ゲンマは自分が立ち上がると同時に、カカシの腕を
ぐいっと乱暴に引っ張った。