今ひとたびの邂逅14
カカシが帰り支度をしていると、ゲンマが声をかけ
た。
「カカシさん」
「何?」
「このまま本当に俺と付き合うのはやっぱ無理なの
か?」
テンゾウに嘘つくために、付き合っている男として
名前を勝手に出されたにもかかわらず、そういってま
だ自分を想っていてくれるゲンマの心を思い、カカシ
は制御できない人の感情の不思議さをふと考える。
例えば自分はどうして同性を好きになったのか、ど
うしてその相手がこのハンサムで包容力のある目の前
の男でなく、年下のあいつなのか。
自分は身を引くから、似合いの女性と太陽の下で手
を繋いで歩けるような、そんな暮らしをして幸せにな
ってほしいと願うほどに。
「カカシさん?」
黙り込んだカカシの表情をゲンマは見つめる。
「いや・・・俺はどうしてゲンマみたいなカッコイイ
男より、あいつのほうが好きなのかなって思ってさ」
「写輪眼でもわからないか?」
「無理だよ」
ゲンマの問いにカカシは苦笑して答える。
「白眼でも?」
「無理だね」
「じゃ、恋愛に関しては血継限界なんて受け継いでな
い特上の俺の方が優秀だな。正直相手には困らないほ
ど数はこなしているし、その上こうして失恋もちゃん
と味わっている」
冗談めかして失恋を認めるゲンマに、カカシは黙っ
て笑みを返す。
ゲンマの手が伸びカカシの頬を捉え、すっと口づけ
た。スマートな仕草にカカシは抵抗もなく濃厚な口づ
けを受け入れる。
「・・・あんたがその気になったら、俺はいつでもい
いぜ」
「ありがとうゲンマ・・・」
もう二度とゲンマの元に来ることはないとわかって
いて、それでもそんな優しい言葉をかけてくれる男に
別れを告げて、カカシは日常へ踏み出した。
暁の全容解明にはあまり進展がないまま、時は過ぎ
ナルトがすっかり成長した姿で修行の旅から帰還する。
正規部隊の中でも木の葉を代表する忍者として忙し
く過ごしていたが、ナルトの帰還によりばらばらに動
いていた7班が集結し、カカシの周囲は格段に賑やか
となった。
それでも時折ふと心臓をぎゅっと締め付けられたよ
うな、そんな痛みに襲われる。これが孤独というもの
なのだろう。
知らなければそれで過ごせたものなのに、一度その
微笑みを、その抱擁を、知ってから手放したことに伴
う孤独の痛み。
暗部の動きはたとえカカシクラスの上忍であっても
知ることは叶わない。
火影直属の部隊であり、一般に動向が漏れるような
そんな軟なセキュリティはあり得ない部隊なのだ。
孤独の痛みに襲われた時、どうか無事でそして幸せ
で過ごせているようにと、知るすべを失ったテンゾウ
の人生を想う。