今ひとたびの邂逅3
頬にキスしてひょいと去っていくゲンマの背中を、カ
カシは笑って目で追う。夕日が長めの髪を照らし、端正
な顔立ちを更に映えさせていた。
間違いなく里一モテる男だろうに、自分になど興味を
示すなんてもの好きだなと思いながら。
それにしてもテンゾウはやはり今日も帰って来ない
のだろうか。カカシはしばらく会えていない恋人に想い
を寄せる。
自分の居場所は、任務でなければ部屋かこの慰霊碑近
くのベンチ。テンゾウはそれを知っている。任務から帰
ってきたら、上忍寮より木の葉の門に近いこのベンチに
先に来るはずだ。
ふと、一流の忍びの感性がテンゾウの気配を感じ取る。
しかし、周囲を見回してもテンゾウを見つけることは出
来なかった。テンゾウが自分に隠れるはないのだから、
気のせいかと思いなおす。会いたい気持ちで気配を間違
えて感じ取ったのだろうか。
「俺もヤキが入ったな・・・」
思わず自嘲の言葉を呟く。ほんと、4歳下の同性の後
輩にここまで心を囚われるとは・・・。失った時の喪失
感に耐え切れず、誰に対しても思いを深く寄せることを
制御していたはずなのに。
テンゾウは気配を消したままその場を離れ、足早に自
分の部屋へ向かった。
今目にした光景が頭から離れない。なんでもないこと
なのかもしれない。聞けば済むことなのだろうと頭の半
分は思っている。ただ、それが出来なかった。
あの正規部隊の男がゲンマという特別上忍だという
ことは、近づいて判った。暗部ならば里の勢力となる主
要な忍びはもちろん把握している。
テンゾウはいつの間にか、全力疾走していた。
ゲンマがかかしにキスした。それはカカシが望んだこ
とではないのはもちろん理解している。しかし不愉快こ
の上ない。更には、いや何よりもゲンマに抱きしめられ
た時のカカシは、嫌がる素振りを見せるどころか、むし
ろ安心したような穏やかな雰囲気だった。
例え顔の半分を口布で覆っていたとしてもテンゾウ
はその素顔を知り尽くしているのだ。離れるゲンマを見
送る時の笑顔も、カカシの目元で判ってしまう。二人の
間に纏った寛いだ空気が、テンゾウの心を苛つかせる。
テンゾウは自分の部屋についたが、全速力で走った勢
いのまま浴室へ駆け込み、ほとんど水に近い温度でシャ
ワーを浴びた。
カカシの背中を任せてもらえるように、カカシがまだ
暗部にいた時にはそれを目標に頑張った。必死で食らい
ついて、努力して、多少は認めてもらえたのでないかと
思っている。
更にその過酷な訓練と任務よりも何十倍もの力を振
り絞って告白した。そうしてようやく得たカカシのそば
にいる権利。
そう、権利だと思う。カカシは里を代表する忍びで、
大勢の人に慕われ尊敬されているのに、彼から自分の心
情を吐露することはない。いつもどこか壁を作って、本
音を見せず、どこか一歩引いている。
彼の心はいつもいつも還って行くのだ・・・。彼とと
もに時を歩めなかった幼き日の仲間に。
その中で自分はようやく、彼の内面のより近い位置に
いることを許された唯一の人間だと、そう自負していた
心が揺らぐ。
「は〜・・・」
テンゾウはシャワーの栓を止め、バスタオルで体を拭
きながら、ひとつため息をつく。
たったあれだけのことで、こんなにも動揺する自分が
いる。何れ程カカシに心を奪われているのだろう。
テンゾウはかかしの部屋のドアをノックする。シャワ
ーを浴び、食欲はなかったがつまみと少しばかり酒を飲
み、時間が経つと何とか気持ちが落ち着いてきた。
今ならゲンマとの関係を感情的にならずにカカシに
聞くことができそうだと、一度大きく深呼吸をして、そ
してカカシの家の前に来たのだった。
「テンゾウ!」
ドアを開け、テンゾウの顔を確認したカカシが笑顔を
見せる。ずっとずっと会いたくて、そして抱きしめたか
った。
テンゾウは無言で抱き寄せ、口づけする。誰にも彼に
触れて欲しくない。この唇も肌も自分だけのもの。既に
パジャマ姿のカカシからはふわっと石鹸の香りがした。
「・・・ん・・・ちょ・・テンゾウ・・・・待てって・・・」
テンゾウの性急なキスを受け入れていたカカシが、更
に首筋に唇を這わすテンゾウを止めた。
「お前焦りすぎ、玄関だよここ。せめて中に入れよ」
言われてテンゾウはようやく声を出す。
「すいません、久しぶりだったもので・・・」
「ほんとそうだよな。何、今日帰ってきたの?」
カカシがテンゾウにビールを出しながら聞いた。
「ええ、少し前着いてシャワーだけ浴びてここに来まし
た。」
微かな嘘をつく。本当は夕方には戻っていてカカシを
見ていたが。
「先輩は、今日は非番だったんですか?」
「うん、今日は一巻からイチャパラ読み直したよ」
「それ何回目の・・・。いえ、今日はずっと一人?」
「一人って?」
「誰かと会ったり・・・」
「うん?別に。アスマもガイも任務だったみたいだ
し・・・」
「ガイさんやアスマさんもだけど、先輩は色んな人に慕
われているから、時々不安になって」
「あれ、まさか浮気を心配してるとか?」
カカシがふふと口の端で笑った。
「先輩はモテるから、そりゃ気になりますよ。あまり離
れている期間が長いと」
「う〜ん、可愛いこと言うなあ」
そう言ってカカシはテンゾウに自ら軽くキスをする。
テンゾウはそばに来たカカシの腕をとって真剣に聞い
た。
「例えば偶然とかでも、誰かに会わなかったですか?」
「会ってないって」
「会って会話した人とかいませんか」
「昼食った定食屋のおばちゃんぐらいだよ」
カカシが笑いながら答えた。
テンゾウにイライラとした感情が沸き起こる。カカシ
が自分に嘘をついている。ゲンマと会った事をどうして
隠す必要があるのだ。なんでもない関係なら、言えばい
いのにと思う。
握っていたカカシの腕を強く自分の方へ引き寄せ、テ
ンゾウは強めにカカシの耳たぶを噛み、そのパジャマの
裾から腕を入れて乳首を捻った。
「痛っ・・・テンゾウ・・・痛いって・・・」
カカシの抗議も聞こえていないかのように、テンゾウ
はそのままカカシをベッドに押し倒し、イライラとした
様子でカカシのパジャマを剥ぐ。
「どうした・・・?任務がきつかったのか?」
テンゾウにやや乱暴とも思える愛撫を受けならが、カ
カシはそれでも穏やかに聞いた。
「久しぶりなんだから・・・いいでしょう?」
あなたは僕のものだから、テンゾウは口に出さない言
葉を心で続ける。
いつもならカカシが快感を感じるまで、優しくテンゾ
ウは気遣い、ゆっくりと進めてくれる。だがこの日は、
性急にカカシの身体を開いて挿入してきた。
「ああっ・・・あっ・・・は・・・」
強く揺さぶられる。激しく奥へ奥へと打ち付けられ、
気持ちと身体の準備が整わないカカシは苦痛の方が大
きかった。
「テンゾウ、もっとゆっくりしてくれ・・・」
カカシの言葉にも反応せず、自分だけの快楽を追うよ
うなテンゾウの追い上げにカカシはやはり任務が厳し
かったのだろうと思いつつも、更に強く抗議する。
「くっ・・・待てって。う・・・テン・・・自分だけで
すすめるなっ・・・」
カカシの言葉と同時に、テンゾウはカカシの中に熱を
放出した。