5ページめ
出血多量で死ぬか、敵に見つかって殺されるか、頭に浮かんだ死
へのパターンが、僕に恐怖をもたらし、怪我による痛みと相まって、
身体の震えが止まらなくなった。
「いたぞ。」
その時、本当に突然、僕の目の前に犬が現れた。自分の置かれた
状況に動揺しすぎて、周りの気配に鈍感になっていたのかもしれな
い。
続いて現れた人をみて、僕は驚きのあまり、自分の怪我や状況の
事を、その一瞬は確かに忘れて身体の震えさえとまり、その人だけ
に全神経を注いだ。
「テンゾウ。良かった、見つかって・・・。」
カカシさんが立っていた。カカシさんは、僕に近づこうとして、
そしてそのまま膝を突いて僕の横に倒れこんだ。
「カ・・・カカシさん!?・・・」
「大丈夫か?カカシ。」
犬が喋る。
「あ〜、ちょっと駄目だ・・・」
カカシさんが、やっとという様子で身体を起こし、僕の横で、同
じように岩に凭れた。
「とにかくワシは援軍を連れてくるから。それまで粘れ。」
「うん。ありがと、パックン。敵に見つかれば移動してるかもしれないけど。」
「ワシがお前さんの臭いを見失うと思うかね。任せとけ。どこへ移
動しようと、必ず見つけて、仲間を連れて行く。」
そう言って、犬は瞬時に駆け出していった。
見た所、カカシさんは怪我をしていないようだった。けれど、顔
色も悪く肩で息をしている。僕の表情を読み取ったのか、カカシさ
んが言った。
「ここまで来るのに、結構敵と遭遇してね。これは役立つけど、チ
ャクラ食いなんだよ。雷影分身も使ってたから、ちょっとへとへと。」
カカシさんはそう言って指差していた写輪眼を隠すため、木の葉
の額当てを下ろして左目を覆った。
「ああ、面もどこかで割れちゃったなあ。」
岩に凭れて、呼吸を整えたカカシさんは、今度は僕の怪我に視線を注いだ。
「結構酷いな。ちょっと包帯巻きなおしてやるから。」
そう言って、自身、辛そうに息を荒めながら自分の医療キッドか
ら包帯を出し、止血を兼ねて僕の傷口を縛ってくれた。そして、何
かの錠剤を僕の口に入れた。
「鎮痛剤と、造血丸だ。飲め。」
そう言って自分の水筒を僕の口につけてくれた。僕はそれを飲み
込み、少し力が沸き人心地ついた。
「すいません。カカシ先輩に見つけてもらえるとは思ってなかった
のでびっくりしました・・・。」
僕は、ようやくまともに言葉を発した。
「俺、忍犬使いなのよ。さっきいたパックンがお前を見つけてくれ
た。今は、援軍を呼びに言ってくれてる。俺は、もうちょっと体力
的にこれ以上の戦闘は無理だから。」
穏やかに話していたカカシさんの表情が、突然厳しくなった。
「敵だ・・・。」
カカシさんが小声で言う。
「テンゾウ・・・。よく聞いて。今、お前は怪我で戦えないし、走
って逃げられない。チャクラ不足の俺も同じだ。戦いも逃走も出来
ない。だから、見つかればこのまま降伏する。」
「えっ・・・?」
カカシさんの言葉に僕は驚いた。忍が降伏するなんて。
「テンゾウ。勝ち目のない抵抗をしたって、すぐに殺されるだけだ。
無抵抗で降伏すれば、すぐには殺さない。俺たち暗部には、木の葉
情報が詰まっているからな。それらの情報を尋問で聞き出すまでは、
殺さない。」
「で・でも!それでは敵に情報を漏らすという事になります!」
カカシさんが言った。
「そう、だから情報を話さなければいいんだよ。黙秘を貫いている
間に、必ずパックンが援軍をつれて戻ってきてくれる。それまで、
尋問という名の拷問に耐えるんだ。」
拷問という言葉を聞いて、僕に走った動揺を読み取ったかのよう
カカシさんが優しく微笑んだ。
「大丈夫だよ。俺の仲間は絶対殺させたりしない。だから、テンゾ
ウ・・・。少し頑張るんだ。大丈夫だから。」
そう言ってカカシさんは、僕の肩を包むように抱いてくれた。
カカシさんの言葉と、抱きしめたくれた腕に勇気が湧いた時、敵
の声が聞こえた。
「こんなとこにいやがったぞ。」
「なんだ、まだ餓鬼じゃねえか。」
岩隠れの額当てをつけた大男が二人、立っていた。