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数日後、噂でサキさんが、カカシさんに断られたというのを聞い
た。
ほんの少しの安堵と、安堵している自分の気持ちへの戸惑い。今、
カカシさんが女の子と付き合わなくてもいずれはそういう日が訪
る。それを考えると、胸が痛む。
ただの憧れのはずなのに、どうしてこうも胸が痛むのか。まだ見
ぬ、いずれカカシさんと付き合うであろう女の子の事を考えると、
苦しくなる。
告白する事にためらいはあっても、それは恥かしさというものだ
けだ。でも僕が、プレゼントを持ってカカシさんに告白すればまる
で笑い話だ。何の冗談と聞かれるだろう。
ああ、どうしてこんなに取り留めのない事を考えてしまうのか。
彼を好きになったって、どうしようもないのに・・・。
だから、違うんだ。これは恋じゃない。僕は彼の事を好きなんか
じゃない。ただの憧れなんだ。
わけのわからぬ感情に振り回されるのが辛く、僕はカカシさんを
避けるようになった。彼に話しかけられても心にガードをはり、む
すっとした態度をとる。
「テンゾウ。どうした?なんか怒ってるの?」
「別に。何も。」
そんなふうに、僕は自らカカシさんとの距離を置いた。そうしな
ければ、落ち着かなかったのだ。
カカシさんへの気持ちが、少しも整理されないままのある時、北
方の榁の山での大掛かりな戦闘に巻き込まれた。
岩隠れの忍達を中心とした、木の葉に敵意を抱いている忍の集団に、
他国に挨拶に向かう木の葉の幹部たちが、襲われたのだ。暗部は護
衛についていたが、事前に情報漏れがあったらしく護衛暗部の装備
をはるかに上回る布陣で襲われた。
僕とカカシさんは、先遣隊からは一定の距離を置いた幹部達の直
近の護衛を担当していた。
すぐに先遣隊の異常に気づいたのはカカシさんで、影分身によっ
て、前方の戦闘状態を確認するとともに幹部の安全確保に、後方へ
の引き返しを直近護衛達に進言した。
そうして、自らも襲ってくる敵の前に立ちはだかりながら、撤退
を始めた。僕も応戦しながら、彼とは逆に前に進んだ。後方隊もい
るし、幹部直近の護衛はカカシさんをはじめ、暗部でも相当な使い
手が占めていた。
幹部達の護衛は、彼らと後方部隊で充分可能だろう。僕は勝手に
そう判断した。
どうして、そんな単独行動をしたのか。
先遣隊の方は、不意打ちだった事もあり相当な被害が出ているよ
うだった。僕も、幹部直近の護衛に選ばれているという事は実力を
認められているという事だ。ならば、僕が行けば助けになるだろう。
僕はそう思ったのだ。
今まで、任務で失敗した事はない。実験の結果とはいえ、初代の
遺伝子を継ぐ僕には、木遁忍術がある。そんな、奢った僕の気持ち
が、勝手な行動に繋がった。
いや、何よりカカシさんへの自分では受け入れがたい複雑な気持
ちが、彼の言葉に逆らう行動をとらせたのだ。
「テンゾウ!!待て!幹部の安全を確保したら小隊を組んで行くか
ら!勝手な行動をとるんじゃない。テンゾウ!テンゾウ!!」
カカシさんは戦いながら、大声で叫んでいたが、僕はその声を無
視して、戦闘の中心となっている前方へ向かった。
そうして僕は、失敗した。
用意周到に木の葉を待ち伏せていた敵は、圧倒的な力を見せ付け
た。僕は相当な痛手を左足に負い、歩く事さえままならぬ状態で
岩陰に隠れていた。傷口からの出血が酷く、縛ってもじわじわと滲
み続けている。
すでに、自分が持っている兵糧丸、造血丸、鎮痛剤、この怪我に
役立ちそうなものは、飲みつくしていた。いずれ、敵に見つかるの
は時間の問題だった。
僕はこの時初めて、死の恐怖に慄いた。