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憧憬の庭荘

 

 

10ページめ

 

カカシさんの身の上に起ころうとしている事に、向き合いつつ、

せめて今の僕に出来る事を考えている時、かすかな空気の変化を感

じた。

空気の変化を感じたと思ったその刹那、目の前を焦げちゃ色の犬

が飛ぶ。瞬間、その犬がカカシさんの身体を触っている年長の奴の

肩に噛み付いていた。

「いでええ!」

噛まれた奴が叫び、肩を押さえるのにカカシさんから手を離す。

と、ほぼ同時に、暗部仲間数人が奴ら3人の背後に回り、その動き

を封じた。

 

犬は、僕を岩陰で見つけてくれたカカシさんの忍犬だった。

「カカシ!大丈夫か?」

部隊長が、カカシさん抱き起こす。殴られて赤い頬、背中一面の

鞭打ちされた蚯蚓腫れ。

「カカシ大丈夫・・・じゃないよな。」

部隊長が全裸にされていたカカシさんに、マントをかけたのが見

えた。

 

「テンゾウ、かなりの出血だな。大丈夫か?」

暗部仲間が僕の拘束されてる縄を切り、猿轡を外してくれる。

「ぼ、僕よりカカシさんを・・・。」

「安心しろ。カカシは部隊長がみている。」

 

カカシさんは忍犬を抱きしめ、顔をその身体に摺り寄せた。

「遅いよ・・・パックン・・・。」

「すまん。ここへ来る途中、残党に出会ってな。ちょっと手間取っ

た。」

「カカシ、歩くのは無理そうだな。抱えるぞ。」

部隊長が、マントにくるんだカカシさんを抱えた。それでも、カ

カシさんは忍犬を抱きしめ、その身体に顔を埋めたままだった。涙

を見られたくなかったからだと気づいたのは、後になっての事だ。

出血が酷い僕も暗部仲間が抱えてくれたが、僕は下ろしてくれるよ

うに頼んだ。

 

「すいません。ちょっと待ってください。」

仲間によって拘束された敵のうち、カカシさんを鞭打ちし髪を掴み、

頬を叩き、彼の身体を弄り回した年長の奴の両手を、僕は残された

全ての力を使って木遁で締め上げ、その骨を砕いた。

「くおーっ・・・。」

奴が骨の砕ける痛みに叫ぶ声を聞きながら、最後の力を使い果た

した僕は、そのまま意識を失った。

 

 

 

気がついたら、ベッドの上だった。消毒薬の臭いが混じる、病院

独特の臭い。子供の頃、随分長く入院していた木の葉病院。

カカシさんはどうしているのだろう・・・。僕は医療忍に、一緒

に助け出されたはずのカカシさんがどうしているのか尋ね、彼もま

だ入院している事を聞いた。

 

僕の足の傷は縫わなければならないほど酷かったが、医療忍達の

手当てもあり、しばらくすると、痛みを我慢さえすれば歩けた。

 

カカシさんを見舞おうと思い、僕は病室を出たが、すぐに不安が

僕を襲う。

怒っているんじゃないだろうか・・・。

僕が単独行動をしなければ、あんな酷い目に合うこともなかった

んだ。

いつも、僕に向けてくれた優しい笑顔。もしかして、もう向けて

くれる事はないかもしれない。でも、一言直接会って謝なければ。

僕は覚悟を決め、カカシさんの病室に向かった。

 

深呼吸して、カカシさんの部屋に入る。

彼の細い腕に点滴がつながれて、ぐったりと横たわっていた。

元々白い肌がいっそう白くなったように感じる。痛々しくて、僕は

また胸が痛くなった。

 

僕がベッドに近づいても、カカシさんは眠っていた。寝乱れた髪

が額にかかっていて、僕は無意識に手を伸ばし、彼の髪を額からよ

けた。

 

僕の指が額に触れて、カカシさんが目を開ける。いつみても、色

違いの美しい瞳。

目を覚まし僕を確認すると、彼は優しく微笑んだ。

「テンゾウ・・・もう歩けるのか?良かった・・・。」

「カカシさん・・・。」

殴られた顔は、少し痣になっていたが、腫れは引いていた。酷く

蚯蚓腫れになっていた背中は、大丈夫だろうか。痛むんじゃないだ

ろうか。薄汚い奴の手が蠢いていた所は傷になってないだろう

か・・・。

 

「カカシさん・・・。ごめんなさい。僕が単独行動したからこんな

めに・・・。」

彼は再び微笑んだ。

「チーム行動は大事にしような、テンゾウ。心配するから。」

「カカシさん、ほんとにごめんなさい。僕のせいであんな酷い事、

僕のせいで・・・。」

「ああ・・・。ごめんな・・・・・。テンゾウにも嫌な思いさせた

な。」

僕はカカシさんをじっと見詰めた。彼のこの、全てを受け入れて

包み込むような優しさは、どこからくるのだろう。

 

僕がカカシさんを見つめ続けていると、ふいにカカシさんが点滴

の入っていない方の手を伸ばし、僕の頬に触れた。

「なんか、あの時と逆だな。あの時は、俺がお前をベッドの上から

見つめていたのに。お前もこんなに大きくなったし。」

「え?」

カカシさんがまた微笑んだ。

「お前は小さかったから覚えていないだろうと思って今まで言わ

なかったけど、俺達が初めて会ったのは木の葉病院の中なんだよ。

お前は、45歳くらいだったかな。」

 

 

 

その時突然、僕の前から後に突風が吹きぬけた。いや、吹き抜け

たようなそんな感覚に襲われたのだ。

 

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