Winter color
15章
12月26日、カカシは会社を出たあと、サスケと一緒
に作家の自来也の自宅で開かれた忘年会に参加してい
た。
自来也が懇意にしている作家仲間や、自来也を慕う
作家の卵達、他社の出版社の編集員なども参加してお
り、賑やかな会は夜遅くまで続いていた。
カカシは自来也の横の席で話し相手になりながら、
先ほど口元を押さえるようにしながらトイレに行った
サスケが気になりだしていた。結構時間が経つのに戻
って来ない。
気分が悪いのかも・・・。
カカシは自来也に挨拶をして席を立ち、トイレに向
かう。
「サスケ?大丈夫か?」
閉まっているドアに向かって声をかける。
「すまん、ちょっと気分が悪くて・・・」
中からサスケの声がした。やはり気分が悪かったの
かと、カカシは心配になる。
「サスケ、吐いているのか?」
「ああ、ただ少しましにはなった」
中から返事があり、そしてドアを開けて出て来る。
「大丈夫か?そんなに飲んでいたっけ?お前」
「あんたが自来也と喋っている間にかなり飲んだ。自
分でも失敗したなと思っている。明日から休みで油断
した」
「そうか、珍しいなお前がそんな・・・」
ハメを外すということが基本ない部下だからこそ、
カカシは一層心配になる。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか?送って行くよ」
「悪いな。頼む」
素直に頼るサスケがカカシは更に意外だった。だが、
それほど気分が悪いのだろうと、カカシは自来也に事
情を話し、暇を告げる。
「すいません。今日はお招きいただいてありがとうご
ざいました」
カカシはサスケと並んで頭を下げる。
「仕方ないのう。それほど顔色は悪くないようだが」
「吐いたので、少しはマシになりました」
サスケが答えた。
そうして二人は作家の卵が呼んでくれたタクシーに
乗り込み、サスケの自宅のある町名を告げる。
タクシーが進んでしばらくすると、サスケが口を開
いた。
「今は家に戻っても一人だ」
「え?」
「親は毎年この時期、ハワイで過ごしている。兄貴は
仕事熱心で、関西地区を重点強化するといって秋から
大阪に行っている。契約してくれそうな企業への接待
が忙しいから、年末も戻らないと言っていた」
「ああ・・・お前の家は警備保障の会社を経営してい
たな」
カカシが言うと、サスケが顔を向けた。
「うちはお手伝いも数人いるけどみんな通いだ。夜は
いない。カカシ、悪いけど家に寄ってくれないか?こ
んな悪酔いは経験なくて一人でいたくない」
「全然構わないけど・・・」
カカシはサスケを見つめる。
「何だ?」
「いや、お前が殊勝過ぎてちょっと驚いているだけ」
「悪かったな、いつも生意気で」
むくれた様子のサスケにカカシは苦笑する。
「ハハ・・・素直なお前もたまにはいい」
サスケの自宅のある町に入ったところで目的地を
『うちは邸』と告げるとタクシーの運転手は迷うこと
なく一軒の家の門前に車を停めた。
「すごいな」
カカシはタクシーから降り立ちながら初めて来たう
ちは邸の全容に驚く。
タクシーの運転手もそりゃ迷わないだろうというよ
うな広い敷地を、個人の家にしては高すぎる塀が取り
囲んでいる。目の前の門は重厚でそれだけでも充分な
威圧感がある。
敷地の奥には洋館がそびえ立ち、月明かりだけでも
その豪勢さが感じ取られた。昼間見たらもっと凄いの
だろう。
「どこかの国の大使館みたいだ・・・」
気分がすぐれないと言っていたサスケは、タクシー
から降りるとしっかりした足取りとなっていた。
門のそばの塀に埋め込まれたモニター盤を触り、何
やら暗証番号を打ち込むと門の鍵がガチャと音を立て
て開錠された事が判る。
「入ってくれ」
サスケが門の右側の取っ手を持つと、人間だけが通
れる大きさの扉が門そのものに組み込まれていて、そ
れが開いた。カカシを手招きして内側に入れ自分も中
に入り扉を閉める。すると再びガチャりと音がし、自
動ロックされた事が判る。
「さすが警備会社社長の家だな」
カカシは自分の生活とかけ離れたサスケの家の雰囲
気に、ただ感嘆する。
家の扉を開けサスケが明かりをつけると、大理石の
白さが眩いエントランスが現われた。
「俺のワンルームの部屋はおまえの家の玄関より狭い
な、確実に」
「広けりゃいいってもんじゃない。俺はあまり好きじ
ゃない」
「そりゃお前が庶民の窮屈な家を知らないからだよ」
カカシが苦笑しながら答えると、サスケが振り向い
た。
「そうかもしれないが、とにかく俺はだだっ広い空間
は好きじゃない。だから元々俺の部屋は上にあるけど、
地下に小さめの部屋を親父に言って別に作ったんだ。
そこが一番落ち着く。カカシもゲストルームじゃなく、
そこに来てもらっていいか?」
「もちろん。お前と一緒の部屋でいい。大体お前の看
病で来たんだから、別の部屋なら意味がない」
「こっちだ」
サスケは先に歩き、階段を下りてカカシを地下ルー
ムに招き入れた。