Winter color
14章
「もしもし」
「夜遅い時間に大変申し訳ございません。私木ノ葉出
版のヤマトと申します。自来也先生はご在宅でしょう
か?」
「うん?わしだがなんだ?」
自来也に電話をかけると本人が出た。自来也直接の
担当ではないテンゾウは、改めて畑主任の直属部下で
あると自己紹介し、急な電話の失礼を詫びながら、仕
事上で連絡を取りたいがこの二日間カカシからの返信
がないことを話す。
「それで、自来也先生の家に伺ったおり、何か出かけ
るような事を話していたりはしなかったかと思いまし
て」
「いやあ、特には言っておらんかったがのう。だが、
年末休暇中なら、同僚に連絡せずとも出かけることも
あるだろう」
「ええまあ、そうなんですが・・・。几帳面な畑主任
が留守電やメールに返信をしてこないもので、少し心
配ということもありまして」
「わしなど思いついたその時に、すぐ北海道でも沖縄
でも行くからのう。いちいち誰かに断ったりもせん。
カカシの実家に連絡はとったのか?」
「いえ、彼のご両親はもう他界されており、特に帰省
する実家というのはないと聞いています」
「ほう、そうか。しかしわしよりサスケに聞いたらど
うだ?あの日も一緒に帰ったぞ」
「うちはにもかけたのですが、彼も連絡つかなくて」
「二日酔いかな?あの時も気分がすぐれんとか言って
おった」
「サスケがですか?」
「ああ、飲みすぎたとか言って、カカシが心配して
一緒に帰った。わしはもう少し長くいて欲しかった
が」
「サスケが飲みすぎ?」
珍しいと思う。
「まあ、しかしそれほど飲んでるふうではなかったが
の。顔色もさして悪くなくてカカシも一緒だったから、
大丈夫だろうと思って、その後は連絡しておらんが」
自来也が何か知っているのではという期待もなくな
り、テンゾウは改めて夜の電話を詫び、礼を言って電
話を切る。
拭えぬ心配にため息をついたが、他に思いつくこと
はなくテンゾウは一旦家に戻った。
家に着いて直ぐにサスケからの着信があり、テンゾ
ウは慌てて電話に出る。
「電話してきただろう?何の用だ?」
「サスケ。実はカカシ主任の事で」
「カカシがどうした?」
テンゾウは自来也に説明したことと同じことを伝え
る。
「サスケ、金曜日に自来也先生のところから一緒に帰
ったらしいな」
「どうしてそれを?」
「自来也先生から教えてもらった」
「自来也のところにまで電話をかけたのか?」
「お前に先にかけたけど、留守電だったし」
「それほど急ぎの仕事が残っていたか?」
「いや、まあ仕事もだけど返信がないことが心配で」
「カカシも休みなんだから出かけることもあるだろう。
そういう連絡とかが煩わしくて、わざと携帯をおいて
出かけたのかもしれないし」
「そりゃそうなんだけど」
テンゾウは内心で違うんだと叫んでいた。カカシが
自分に連絡を返さずにいるわけがない。
「同僚に二日くらい連絡しないからって騒いで自来也
のところにまで電話かけて、後から本人がバツの悪い
思いをするんじゃないか?」
違う、俺たちはただの同僚じゃない。
恋人である自分に連絡ないのはおかしいんだ。
テンゾウはそう叫びたい心の声を押し殺して、更に
尋ねる。
「分かった。お前はカカシ主任と最後はどこで別れた
んだ?」
「あの日、自来也の家からタクシーで先に俺の家に回
ってもらい、カカシはそのまま乗って行った」
「そうか・・・」
テンゾウが遅くに電話したことを詫びて切ろうとし
た時、電話の向こうで何やらガッシャーンと大きな音
がした。
「何?今の大きな音」
「ああ、すまん。飼い猫が暴れてベッドサイドランプ
を倒した」
「そうか」
テンゾウは唯一の手がかりと思っていたサスケから
もさしたる情報が得られず、がっかりしながら電話を
切った。
サスケは、テンゾウが通話を切った事を耳で確認し
て、自分も通話終了のボタンに指を触れる。
そうしてゆっくりと部屋の端にあるベッドに近づく。
ベッドサイドには、アンティーク調のベッドサイド
ランプが転がって、割れた電球の破片がフローリング
の床に散らばっていた。
「随分なことをしてくれるな・・・」
サスケは無表情でベッドを見下ろす。
「だいたい、人が電話している時は静かにしないと」
ベッドサイドに座る。
「あんたが教えたことだろう」