Winter color
11章
時折頬を撫でる風は心地良さとは程遠い冷たさで、
秋の気配を纏いながら、季節は冬へと変化を遂げてい
る。
カカシとテンゾウは互いに担当していた、12月号と
新年号の編集をやり終え、忙しかった日々がようやく
落ち着きを取り戻し始めていた。
仕事が一段落した午後、テンゾウが缶コーヒーを買
って屋上へ向かうと、示し合わせたわけではないのに
既にカカシがいた。手にはテンゾウと同じ銘柄の缶コ
ーヒー。
「カカシさん」
「よう、テンゾウ、サボリ?」
「あなたこそ」
いつもの会話。でも付き合っている状況での会話は
どこか以前とは違っている。
そう、付き合っているのだ・・・。
テンゾウは今更ながらそのことに喜びを感じる。屋
上の風は冷たく、仕事の合間に一息入れるというには
そろそろ厳しい気温だったが、カカシのそばにいるこ
とで、身体が熱く感じる。
「もう、屋上での休憩は寒いな」
カカシが呟く。
「そうですね。でも・・・ここなら二人きりになれる
からいいんだけどな」
「ばか、二人きりならここでなくても成れるでしょ」
テンゾウはカカシを見つめた。
「じゃ、週末デートしてもらえますか」
「いいよ」
二人は互いに見つめ合いそのまま口づけを交わす。
テンゾウは右手をカカシの頬に添え、缶コーヒーを持
つ左手をカカシの首に回して、舌を絡める。
「ん・・・」
カカシに用があったサスケは、その姿を探したが見
つけられずにいた。社外に出るとは聞いていない。季
節も本格的な冬になり、寒さを考えるといないだろう
と思いつつ、ふと屋上へ足を向ける。
暖房が効いている各階の廊下に通じる階段と違い、
ひんやりとした空気の中を一歩ずつ上がる。
屋上に通じる扉を開けるとヒューと冷たい風が通り
過ぎていき、サスケは少し顔をしかめて外に踏み出す。
扉の前から見える範囲に人の姿はいない。念のため
扉の後ろに廻り込むと、探していた男が同僚の男に抱
きしめられている。そして間違いなく・・・二人は口
づけを交わしていた。
男同士で、サスケの気配にも気づくことなく抱き合
う。
カカシ・・・。
カカシはあいつと付き合っているのか。
サスケの心に激しい痛みに似た疼きが起こる。
女でなくともいいのか。
ならば何故そいつなんだ。
ずっと前からお前を想っていた。
同性だから口には出来ないと押さえていたのに。
なのに・・・。
どうして・・・。
どうしてそいつなんだ。
どうして後からきた奴に奪われなければならない。
そんな事、許せない。
二人のシルエットが離れる。
サスケは濁流に飲み込まれたような息苦しさを感じ
ながら、取り敢えずその場を離れた。
「あれ・・・?」
カカシがふとドアの方を見つめた。
「何ですか?」
「誰かいなかった?」
「そうですか。この寒さで外に出るのは僕たちくらい
と思いますけど」
「まあ・・・そうだな」
「誰かに見られたら困ります?」
「そりゃ仕事中だから宜しくない。俺は一応主任だし」
「僕と付き合っている事を知られるのは?」
「同じ職場だからな・・・周囲に変な気を遣わせるだ
ろ」
「まあそうですね。僕は、カカシさんと付き合ってい
ると大声で叫びたい気分ですが」
「それは諦めろ。社会人として周りのことも考えない
と」
「分かりました」
「そろそろ戻りますか」
「ああ」
テンゾウはカカシの言葉に従い、一緒にいた事を気
づかれぬように時間をずらして屋上を後にした。
テンゾウと一旦分かれて編集部に戻ったカカシは、
遅れて戻って来たテンゾウと視線が合う。気づかれぬ
ようにと自分で言いつつも、その暖かな微笑みに穏や
かな気持ちになる。そうして自分を見つめるもう一つ
の激しい視線に気づくことは出来なかった。