Winter color
13章
12月26日の金曜日、今年度の木ノ葉出版の仕事納め
の日。
「お疲れ様」
「また来年。良いお年を」
それぞれ挨拶を交わし退社して行く。
テンゾウも帰り支度をしながらカカシの方を見る。
カカシも同じように帰り支度をしながらサスケと何や
ら会話をしていた。二人はこれから作家の自来也の家
で開催される忘年会に一緒に参加する。
付き合うカカシと仕事納めの日に一緒に帰れない寂
しさがあるが、それも仕事だから仕方がないと理解は
している。何かと木ノ葉出版に配慮してくれる人気作
家に呼んでもらったのだから、編集員としてやはり行
かなければならない。
ただカカシを気に入っている自来也が過剰な要求を
しないかは気がかりだった。そこはいつもカカシのボ
ディガードのような発言をするサスケに内心で頼むし
かない。
カカシからは同僚に気を使わせたくないと、付き合
っている事を公にしないように言われている。テンゾ
ウは何気なさを装いながら、ついサスケと一緒に編集
室を出て行くカカシの方に視線を向ける。
カカシはそれまでテンゾウの方を見ていなかったが、
ドアを出て行くその時振り返り、笑顔を見せた。
「テンゾウ、お疲れ。またな」
「あ、はい。お疲れ様です」
軽く手で合図をして、カカシが出て行った。他の社
員達のようにまた来年とは言わない。今年中に会うこ
とは決まっているから。
カカシの笑顔に元気をもらい、テンゾウもまた編集
室を後にした。
翌日の土曜日、テンゾウは学生時代の友人達との忘
年会に参加していた。
家を出るときカカシにメールはしたが即レスはない。
互いに大人で男同士のメールは、普段から要件のみで
甘い内容など書かないし、返信も出来る時にするとい
うスタンスだ。
ましてや昨日は、自来也のお気に入りのカカシはき
っと遅くまで付き合わされたのだと思う。二日酔いか
もしれないが、別に用事で出かけたのかもしれない。
今度会う日の時間を決めたいという内容のメールを
一回送り、レスがないことはさして気に止めず、自分
も学生時代の友人たちとの再会を楽しんでいた。
友人たちと盛り上がり、解散した時は日付も代わっ
てタクシーで帰宅する。
車中でスマホ画面を見るがカカシからの返信はなか
った。さすがに気になる。お互いメールの返信までに
時間が空いていることなんて当たり前にある。しかし、
これまで少なくともその日のうちには返信があった。
二日酔いが結構きついのだろうか?しかしカカシが
それほどハメを外して飲んでしまうことなんてちょっ
と考えにくい。
動けない程の二日酔いならそれこそ自分にメールし
てきてもいいはずだ、と思う。
当初26日に予定されていたアスマさんとガイさんと
いう友人達と会っているのかもしれないと思い直す。
自分だってこうして午前様なのだ。カカシも遅くなっ
ているのだろう。
翌28日日曜日。テンゾウは午前中にカカシに二度目
のメールをした。連絡が欲しいと。
夕方まで待ち今度は電話をかけた。留守電に切り替
わったので連絡ほしいとメッセージを残す。
そのまま夜の9時迄待ったが電話もメールも来なか
った。気にし過ぎかも、会社が休みの時に成人男性が
二日くらい出かけることはあるだろうと思いつつ、テ
ンゾウはやはり気になりカカシの家へ向かった。
オートロックのマンションの玄関前で部屋番号を押
すがやはり返答がなかった。
合鍵は持っていない。
テンゾウはカカシとの付き合いを一生のものと内心
誓っており、ゆっくりと互いのペースを合わせればい
いと考えていた。そしていつかの将来、それが40代で
も50代でも状況が整った時に一緒に暮らせれば、そん
な事を漠然と考えていた。
だから合鍵を要求するなどの、性急に相手の生活圏
に踏み込むようなことはしなかったのだ。
オートロック内側でなく、誰でも入れる郵便受けの
スペースに向かう。
カカシは新聞を定期購読すると不要なチラシまでく
るからと、割高でも出勤時に駅やコンビニで購入して
いると以前話していた。
そのため郵便受けに新聞が溜まっていることはなか
ったが、中を覗くと投げ込み式のチラシが多数入って
いる。
テンゾウも日々経験しているが、こういう集合住宅
のポストにはピザ屋や不動産、銀行など実に様々なチ
ラシが投げ入れられる。三日も取らなければ結構な枚
数入っていることもある。
カカシのポストには、明らかに多くのチラシが入っ
ており、ここ数日回収していない事が分かった。
テンゾウは激しく不安な気持ちに駆られる。
ダッシュしてマンションベランダ側に回り込む。カ
カシの部屋は5階の右から3番目。
電気は点いていなかった。体調不良でも帰宅すれば
電気は点けるだろう。帰宅していないのか?いつか
ら?
カカシに付き合いを職場に知られないようにと言わ
れている。打ち明けなくとも、何らかの用事があると
言って、カカシの所在を確認しなければ気持ちが落ち
着かない。
スマホを取り出し、金曜日にはカカシと一緒にいた
はずのサスケにかける。
連絡用に編集部同僚のアドレス番号は入っている。
コールするが本人が出ることなく留守電に切り替わ
った。仕方なく連絡ほしいとメッセージを残す。
そしてテンゾウは作家の自来也の電話番号を画面に
呼び出した。直接の担当編集者でなくとも、木の葉出
版と関係ある作家の連絡先は編集者として控えている。
結局何でもなかったのに大げさに人気作家にまで連
絡してと、後で綱手やカカシに怒られたとしても構わ
なかった。
カカシと二日間連絡取れないのだ。確認しなければ。
テンゾウは焦る気持ちを抑えながら、自来也の番号
に電話をかけた。