Winter color
28章
カカシは捕らわれていた時に着ていたスーツに、ト
イレ内の個室で着替えた。
下着もカッターシャツも洗濯してある。
「人の事監禁しておいて、妙なところ律儀だな…」
テンゾウのコートを鞄用のフックにかけ、サスケの
家で着ていた服を脱ぎ去る。
腕、胸、足…自分で見える範囲だけでも、サスケか
らの愛撫の痕が散らばる。
そして手首の縛り痕…。
部下としては評価していたのだ。もう、彼と仕事を
一緒にすることはないけれど。
いっそ心底憎めたらいいのに、上司と部下として同
じ職場にいた年月分の情があり、憎み切れない。サス
ケを憎めない分だけ、自分の身体を嫌悪する感情に捉
われる。
着替えを終えてテンゾウのコートとサスケの家で着
ていたパジャマを持ち個室を出る。
パジャマはトイレ内のゴミ箱に突っ込んだ。手を洗
おうと洗面台の前に立った時、首輪の後の掠れた痕を
見つける。
カカシは首も手首も隠れる様にカッターシャツの
ボタンをすべて止め、ネクタイをきっちりと締めた。
トイレから出ると、廊下でアスマが立っている。
「アスマ」
カカシは笑顔を作った。
「順番待ち?悪い」
「トイレじゃない。お前の様子を見に来たんだ。大丈
夫か?」
アスマは、真夜中というのにスーツをきっちりと着
込んで、ネクタイまでしめているカカシを見つめる。
「大丈夫だよ。あぁ日付の感覚は無いけど。今日は何
曜日?」
「もう月曜日だな」
「そうか3日間監禁されてたんだな」
「カカシ。こんなところじゃ休めないだろ。家に帰れ
よ」
カカシは自分より背の高いアスマを見上げ、薄く笑
う。
「やだよ、お前達は俺をテンゾウと二人にするつもり
だろ」
「そりゃ彼と付き合っているんだったら」
「付き合ってる相手に、こんな痕見られたくないよ、
アスマ」
カカシはそれまでの作り笑顔から泣きそうな表情に
変わり、アスマの言葉が終わらぬうちに感情的な声を
出す。
「これとか!」と言い袖口を引き上げ手首を見せ、更
に自分の襟切りを掴んで「こことか!」とアスマに首
輪痕を見せる。
「カカシ…」
「こんな痕見れば、俺が何されてたか、わかるだろう」
カカシは続ける。
「誰でも分かるよな…想像通り、3日間縛られてセッ
クスばかりしてた」
「セックスって、無理やりだろ」
「無理やりでも同意でも、することは一緒だよ」
「カカシ…」
「アスマ、男同士の場合、やられる方は準備がいるん
だぜ」
カカシはテンゾウのコートに縋る様にぎゅっと握り
しめたまま、話しはじめたら自分でも止められないと
いう勢いで、アスマの戸惑いも無視してさらに続ける。
「どんなに惨めに思っても、結局準備しないと自分が
辛いから、腹の中無理やり出して、洗って、突っ込ま
れて、掻き出されて…繰り返し繰り返し…」
「カカシ、もういいから」
泣くような、笑うような、引き攣った表情で、カカ
シは言葉を続ける。
「あんなことは…好きな奴のためだから出来る…。そ
れなのに…」
アスマは思わずカカシの肩を抱く。
「逃げられないよう首輪に鎖がつけられてて本当に重
い。抱かれる時だけ外されるんだ…でも代わりに腕を
ベッドに縛られて…」
「カカシ、もうほんとに…」
カカシは大きいアスマの肩に自分の顔をくっつける。
そして手首を肩の位置まで上げた。カッターシャツの
袖口から微かに腕の縛り痕が見える。
「アスマ…テンゾウがこれを見るたび、俺が他の男に
抱かれてたって、いやでも思い出す」
「仮にそう思っても、それで気持ちは変わらないだろ
う」
カカシはアスマの胸に顔をくっつけたまま、首を横
に振る。
「自分でも汚いって思ってしまう。きっとテンゾウだ
って…」
「そんな事思うわけないだろ」
「アスマ、だからこの痕が薄くなるまでお前の家に泊
めてくれ」
「そりゃ俺はいいけど、テンゾウ君は自分と一緒にい
てほしいと思うだろ」
カカシはかぶりを振る。
「思うわけない。お前たちが来てくれる直前もやられ
てた。身体中にあるんだその痕が。そんなもの見たい
か?」
可哀想に…。
カカシの言葉に切なさが募り、アスマは肩を掴んで
いる手をそのまま背中に回して抱きしめようかと思う。
「カカシさん…」
カカシを見ていたアスマが声がした方に顔を上げる
と、短い廊下の先にテンゾウが立っていた。