Winter color

四季の庭荘

 

 

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27

カカシに逆らうことが出来ず、テンゾウは運転席に

乗り込む。

 

「カカシさん、あの…」

 

話しかけようとしたら、カカシは一度締めたドアを

再び開けて、まだ外に立ったままのアスマとガイに声

かけた。

 

「ファミレス行こうぜ。帰るなよ」

 

 その言葉に、アスマとガイも仕方なく車に乗り込む。

 

「カカシさん」

 

「出発して、テンゾウ。ナビ付けて、一番近いファミ

レスは?」

 

「それは…分かります」

 

 一番近いのは、サスケの家に乗り込む前に集合した

所だ。

 

「じゃ、頼む」

 

テンゾウの言葉を聞く気がないかのように、カカシ

は頼むと言った後、窓の外に視線を変える。

 

 仕方なくテンゾウはそのまま無言で運転し、数時間

前に来た24時間営業のファミレス駐車場に乗り入れた。

 

 アスマの車も後から来たのを振り返って確認したカ

カシは、車を降りて後部座席の自分の服と鞄を取り出

す。

 

「テンゾウ、俺のコート着る?」

 

 カカシはサスケの家でテンゾウのコートを借りて着

たままなので、テンゾウはセーター姿だった。

 

「いえ、店の中は暖房ついてるからいいです」

 

「そうか」

 

カカシはコートごと服と鞄を持ち、ガイとアスマが

車から出てくるのを待った。

 

 四人そろって店に入ると、さすがに真夜中というよ

りもう夜明け前に近い時間だけあって空いている。

 

席に案内されメニューをウェイトレスが置いて去る

と、カカシはすぐに自分の服を持って立ち上がる。

 

「ちょっとトイレで着替えて来るよ。これじゃコート

脱げない。あ、俺はドリンクバー頼んでおいて」

 

陽気な声で、サスケの家で与えられていたパジャマ

のズボンの端を摘まんで笑顔をみせる。

 

カカシの後ろ姿を見ながらガイが呟いた。

 

「あいつ、かなり参っているな…普段ムカつくくらい

何でも冷静なのに、あんなに見え透いた空元気出して」

 

「そうだな…君は大丈夫?」

 

ガイの言葉に頷いたアスマが、テンゾウを見る。

 

「きついだろう。恋人があんな目に」

 

「え?あの、御存じだったんですか?」

 

  知っているのか確認が取れなかったから、付き合っ

ているという事はカカシの捜索を頼む時にも言わなか

った。

 

「秋頃かな、カカシが話してたよ。夏に居酒屋で会っ

た会社の後輩と付きあっているって」

 

「秋頃…じゃあ付き合い始めて直ぐ…」

 

テンゾウは少なからず驚く。カカシは友人に付き合

って直ぐに言っていたのだ。ほんとうなら隠したいで

あろう同性との付き合いを。

 

「さすがに本気なのか確認したし、一回は止めた。同

性なんてよく考えろって」

 

ガイの言葉にテンゾウは頷く。それはもちろんそう

だろう。こんなにカカシの事を心配してくれる大切な

友人なら尚更。

 

アスマが続ける。

 

「カカシは本気だって即答してた。後にも先にもお前

さんほど好きになる相手はもういないってさ」

 

アスマの言葉にテンゾウは泣きそうになる。

 

それほど自分を想ってくれていたカカシの気持ちと、

そんな彼が辛い思いをしている今の状況と、それでも

助け出せたことに対する安堵と、様々複雑に感情が混

ざり合う。

 

「カカシの事、頼む」

 

アスマの言葉に、テンゾウは零れ落ちる涙を見せな

いよう俯きながらもしっかりと返事をした。

 

「はい。本当にありがとうございます」

 

カカシの救助に協力してくれたこと、そして同性の

付き合いを受け入れてくれたこと、色んな意味で、テ

ンゾウは二人に礼を述べる。

 

「アスマ、あいつ、あのサスケって奴は本当にいいの

か?カカシをあんな目に合わせて、このまま無罪放免

は納得がいかん」

 

ガイはもう一度サスケへの対応を確認する。

 

「カカシにその気がない限り難しいな。例えば被害届

を出すにしても、監禁されてた証拠に腕や首の痣の写

真がいる。あいつはそんなもの撮らせないだろう」

 

「ただ監禁されてたわけじゃないだろ」

 

 ガイの言葉にテンゾウは無意識に唇を噛み締める。

 

「そうだけど…」

 

 アスマはちらっとテンゾウを気遣うように見て、話

しづらそうに続ける。

 

「被害者が男の場合、あーつまり、その、強姦は成り

立たずに強制わいせつにしかならないし、何より証明

が難しい」※文末注釈参照

 

ただの監禁ではない。カカシをまじかに見た瞬間に

分かった。サスケにされていたこと、その事を考える

と、テンゾウは今にも怒りで叫びだしそうだ。

 でも本当に辛いのは自分じゃない。だから彼を守ら

なければと、気持ちを切り替える。

 

「今はサスケの処分よりカカシの気持ちを考えてやる

方がいいだろう」

 

「まあそうだな」

 

「はい」

 

 アスマの言葉にテンゾウとガイは頷いた。

 

テンゾウは内心思う。自分ももう、彼以上に好きに

なる相手は現れない。一生大切にする。

 

注文を取りに来たウェイトレスに結局全員ドリンク

バーを注文し、ガイが飲み物を取りに席を立ったとこ

ろでアスマがテンゾウに言った。

 

「小便行ってくる。そろそろカカシも出てくるだろう」

 

 

 

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※アスマの言葉は2015年の状況です。今後男性被害者

にも強姦罪が適用される法律改正があるかもです。