四季の庭荘

 

 

Winter color

 

 

26

サスケは玄関に行き、テンゾウ達を迎えた。

 

「サスケ!カカシさんは、カカシさんはどこだ!?」

 

サスケの姿を見て、我慢できずにテンゾウは襟ぐり

を掴み叫ぶ。

 

サスケは無言でテンゾウの手を振り払った。

 

「いるのは分かっている、カカシのところへ案内して

もらおう」

 

勢い立つテンゾウの腕を宥める様に押さえながら、

アスマは有無を言わせぬ威厳でサスケに言う。

 

 サスケは地下への階段を進み、そこの部屋の前で立

ち止まる。

 

 小さく息を吐いてから鍵を開けた。

 

 

 テンゾウはもどかしく、サスケを押しのけて中に入

る。

 

 部屋の中心にあるベッドにいるカカシを見つけ、そ

こまで一気に駆け寄る。

 

「カカシさん!!」

 

「テンゾウ…」

 

 カカシがテンゾウを見上げた。

 

 抱きしめようとしてテンゾウはカカシの首輪とそこ

から伸びる鎖に気が付く。

 

「カカシさんこれは…」

 

 

「貴様!カカシに何をした!?」

 

 ガイがサスケに飛び掛かった。頬を一度殴ったとこ

ろでアスマが止めに入る。

 

 

 カカシが震える手で鎖を掴むテンゾウを見て下を向

いた。

 見られたくなかった。こんな姿は…。

 

「外せよ」

 

 怒りで声を震わしながらテンゾウはサスケの方を向

き言う。

 

「早くこれを外せ!!」

 

 二言目は大声で怒鳴った。

 

 サスケはガイとアスマの横をすり抜けてベッドまで

近づき首輪を外す。

 外れると同時に、テンゾウはサスケをカカシのそば

から突き飛ばす。

 

「カカシさん…」

 

 首輪が外されたその首筋には、首輪で擦れた痕とい

くつかの赤いうっ血痕があった。

 

「酷い…」

 

 首輪をつけたままで脱ぎ着出来るように前開きのラ

フな服の肩口からは、ある程度身体の中も見えた。凌

辱の痕が、目に付くところにある。よく見ると両手首

にも縛られていたと思われる赤黒いあざが腕輪状につ

いている。

 

 テンゾウがカカシの腕を取りその手首を見つめたの

で、カカシはさっと手を引く。

 抱かれる時には首輪を外してもらう代わりに腕をベ

ッドに縛り付けられていた。その痕をテンゾウに見ら

れることは、その惨めな姿を見られているような感覚

になり、居た堪れなかった。

 

 

 テンゾウは腕を隠すように身体を丸く縮めたカカシ

を見つめ、傍らのサスケを殴りにかかる。

 

「お前っ…!」

 

 サスケは避けずに殴られる。もう一度飛び掛かろう

としたテンゾウをカカシが止めた。

 

「テンゾウ、もういい。…俺は早くここを出たい」

 

 テンゾウはカカシの方を振り向き、腕を伸ばして抱

きしめた。

 

「カカシさん…」

 

「とりあえず、ここから出よう」

 

 アスマが声をかける。

 

「おい!こいつはどうするんだ、このままでいいの

か!?カカシを監禁して、鎖なんかつけて」

 

 ガイが叫ぶ。

 

「そう、これは監禁罪だ。後で事情聴取させてもらお

う」

 

 アスマがサスケに向かって言った。

 

「いい、アスマ」

 

 テンゾウは自分の着ていたコートをカカシに被せる。

カカシはそのコートに手を通しながら、サスケの方を

見つめた。

 

 頬はガイとテンゾウに殴られ赤くなっていたが、本

当はいくらでも避けられたと思う。家業の警備会社で

訓練をしていると言っていたし、カカシを最初に縛り

上げた身のこなしは、確かに素人とは違うスキルがあ

った。

 黙って殴られたのは、サスケなりの謝罪なのだろう。

許すことは出来ないけれど。

 

「被害届を出す気はない…サスケ…鞄と服を返して」

 

 サスケはまっすぐカカシの方を向いて、頷いた。

 

 サスケが出ていくのに合わせ、カカシも廊下へ出る。

もう僅かな時間さえ、ここにいたくなかった。

 

「大丈夫ですか?」

 

 心配そうに横を歩くテンゾウに頷いてみせる。

 

 

 階段を上がり、エントランスに出たところで立って

いると、サスケがカカシの服と鞄を持ち現れた。

 アスマがそれを受け取る。

 

 ガイはサスケを睨み付けている。

 

 テンゾウはカカシの横に立ち、カカシのために玄関

のドアを開ける。

 

 三人が屋敷に来て初めて、サスケが口を開いた。

 

「テンゾウ」

 

 ドアに手をかけたままテンゾウが振り向く。

 

「カカシは精一杯抵抗してた。俺がスタンガンを使っ

て動けなくしたんだ」

 

「…カカシさんが抵抗したなんてお前に言われなくて

もわかってる」

 

 今にも再びサスケに飛び掛かろうとするように睨み

付けるテンゾウの腕を、カカシが掴む。

 

「早く帰りたい」

 

 カカシがもう一度そういったので、サスケに背を向

け、全員外へ出た。

 

 

 大きな屋敷のうちは邸は、玄関と門の間にも庭があ

る。そこでカカシが夜空を見上げた。

 

 企業も休みになる年末、元々他の季節より空の透明

度が増す冬の夜空には、都心でも星が瞬く。

 オリオン座、ふたご座、おうし座、光度の高い星が

紡ぐ冬の星座が夜を彩る。

 

「…普段、空なんて見なかったなあ。いつもあたりま

えにあったから」

 

 地下室に監禁されていたカカシの呟きを、アスマ、

ガイ、テンゾウは黙って聞く。

 

 気まずい雰囲気になった三人を振り返り、カカシは

微笑んだ。

 

「ごめん、あのさあ、気分転換に飲みに行こうか?」

 

「は?」「え?」「おい」

 

 三人は一様に驚きの声を上げる。誰もがこのまま家

に帰るものと考えており、テンゾウは自分の家か、カ

カシの家のどちらに連れて行こうか、と思案していた。

 

「ほら、アスマとガイとの忘年会も自来也先生の予定

と被って流れただろう。その分今から行こう。テンゾ

ウも一緒に」

 

 カカシは妙に明るいテンションで話しながら門を抜

ける。

 

「いや、今日はゆっくりした方がいいんじゃねえのか」

 

 アスマがテンゾウの方を気にしながら言う。

 

「テンゾウ君も、随分心配して駆けずり回っていたよ

うだし…二人とも疲れがたまってるだろ」

 

 カカシの言葉に驚いて少しの間黙り込んだテンゾウ

も、アスマの言葉に続ける。

 

「僕は大丈夫ですけど…でもカカシさんはゆっくりし

ましょう。無理しないで」

 

「カカシ、解放感に浸るのもいいがこの通り俺達は車

だし飲みにはいけん」

 

 ガイが縦に並んだアスマとテンゾウの車の横で言っ

た。

 

「じゃ、ファミレスでもいい。ファミレス行こう」

 

 カカシは更に明るい声でそう言うと、アスマから自

分の服と鞄を受け取り、テンゾウの車の横に立つ。

 

「テンゾウ、キー」

 

「あ…はい…」

 

 テンゾウがドアを解除すると、カカシは後部座席に

自分の服と鞄を放り込んで、助手席にさっさと乗り込

んだ。

 

 

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