その十一
「その人、暗部のくの一なんだけどね。」
サクラが話を続ける。
「任務で怪我して、私が治療に当たったのよ。
ヤマト隊長もついて来てたわ。面を外した時ね、
色が白くて、銀髪じゃないけど髪の色素も薄い金髪で、
なんか、先生に似てるなあって思って。」
「くの一でしょ。30過ぎたおっさんに似ているなんて
その人に失礼だよ。」
カカシが、一度おいたビールを再び手に取り、
さも、ただ友人の恋話を聞くという風な様子で、
サクラの話しに相槌を打つ。
サスケは、カカシのビールのジョッキを持つその指先が、
ほんのわずかに震えている事を見逃さなかった。
「あらあ、先生に似てるっていうのは、褒め言葉よ。
それにね、顔がそっくりっていうんじゃないのよ。
そりゃ、男と女だもん、違うわよ。
ただ、全体の雰囲気がね、似てるの。治療終わって
ありがとうって言われたんだけど、その時のふんわりとした
笑顔もね、先生に似てたわ。」
横からナルトが口を挟んだ。
「親戚づきあいがなかっただけで、親戚はいるかもしれないんだろ。
もしかしたら、先生の知らない遠縁の人とかも知れないってばよ。」
「あんた、たまにはまともな事言うわね。」
「サクラちゃん、たまにはって、俺が普段はバカ言ってるみたいじゃないか。」
「バカな事しか言ってないでしょ。」
「ひでえよ。サクラちゃん。」
カカシは二人のやり取りを、微笑んで聞いている。
サスケはそのカカシを見ている。
いったい、どんな思いでヤマトに恋人が出来たという話を
聞いているのだろう。その人が、自分に似ていると知って
わずかにその指先を震わせながら、それでも笑顔を作り・・・。
一方でサスケは、どうしてもカカシの心から追い出せぬ
ヤマトの事も考えた。
ヤマトとカカシは立場が違うとサスケは思う。
カカシは、脅迫で無理矢理ヤマトから引き裂いたのだ。
いつまでも心に残るのはある意味、当然かも知れない。
けれどヤマトは、少なくとも本人は、
カカシに振られたと思っているはずだ。自分を捨て、
サスケに乗り換えた酷い男と、カカシを恨んでもおかしくない。
サスケ自身も、今サクラが言った、カカシに雰囲気が似ているくの一を、
暗部待機所で見かけた事がある。面を外し、仲間のくの一と
話しがおかしかったのか、笑いあっていた。
色白の肌とその笑顔が、カカシに似ていると、
通りすがりに、その時サスケも一瞬思った。
あのくの一と付き合っているのか・・・。
ヤマトにとってカカシは、自分を振った恨むべき人のはずなのに・・・、
それなのに、やっぱりカカシの面影を追い求めるのか・・・。
「ねえねえ、シカマルだけどさ、この前砂の国に行って・・・。」
サクラは次々と話題を提供し、四人揃っての久しぶりの再会は
あっという間に時間が過ぎていく。
日付も変わる頃、ようやくお開きとなった。
賑過ぎる二人と別れて、カカシとサスケはほとんど言葉を交わさず、
家路に着いた。
二人はほぼ無言のまま、身体を重ねる。
サスケに最奥を衝かれ、カカシは生理的に涙が出た。
そう、これは生理的なものだ・・・。
サクラの言った言葉が頭から離れない。
テンゾウに恋人が出来ることは、覚悟していた。
本当に愛した人だから、幸せになって欲しいと心から思う。
けれど、その相手が自分に似ているというのは
本当だろうか・・・。それは何故・・・。
テンゾウは、まだ、ほんの少しでも
自分を想っていてくれるのだろうか・・・。
いや、違う。サクラも言ってた。顔は違うと。
雰囲気が似てるなんて、ただの偶然に過ぎない。
そうだ、違う・・・。
カカシの中で果てたサスケに解放されても、
カカシは枕に顔をうずめたまま、動けなかった。
目からあふれる涙は、身体を貫かれて出る生理的なものだ。
泣いてなどいない。カカシは自分に言い聞かせながら、唇をかみ締めた。
サスケがそっとカカシの涙を、舌で絡め取った。